三題噺の書き方と「アイデアのつくり方」

 アイデアとは、見知った事柄を斬新な取り合わせで組み合わせたものである。

 新しい考えを創出することの本質は、上記に述べた通りである。あのアイデアづくりの大著である「アイデアのつくり方」にも同じことが書いてある。どの本や動画や記事も、全て手を変え品を変え同じことを言っている。
 だのに何故、未だにアイデアを生み出す方法論が新しく世に出回るのか。
 この真理を知らない人の方が多いのか? とも思ったが、恐らくは抽象的過ぎて実践に向かないのが大きな原因なのだと思われる。

「組み合わせったって、何と何をかけ合わせれば面白くなるのか分からないよ!」

 そんな声が聞こえてきそうだが、安心してほしい。私も同じ気持ちだ。斬新とはどこから? 面白い組み合わせって? 王道同士を組み合わせていっても斬新になり得るのか? などなど、疑問は挙げればきりがない。
 どうしたら面白い組み合わせを思いつくのだろう。これは創造的な仕事・趣味を営む人々の大きな課題となっているのではないだろうか? 故に、定期的にアイデアづくりの本が出版され、それなりに売れていく。
 しかし私は、「アイデアのつくり方」を読んだ今となっては、もうこの本一冊だけで十分網羅されているのではないかと思ってしまう。他の類似本も、抽象的な命題から易しい実践方法に形を変えて記されているから、全くの無駄とは言わないが、アイデアづくりの本質を知りたいのであればこの一冊だけで十分だろう。

 この「アイデアのつくり方」には、アイデアとは何か、アイデアを組み合わせる力を鍛えるにはどうすればいいか、実際のアイデアづくりの道筋、まで全て記されている。解説まで併せて読めば、察しの良い人ならすぐに「アイデアマン」に生まれ変われることだろう。
 まあ、そうは言っても本書に記載されている実践方法は確かに抽象的なので、「参考にならない!」と憤慨する人ももしかしたら居るかもしれない。ただでさえ「誰もがこれを使いこなすというわけにはいかない」のに、具体的な訓練方法を求めて彷徨っていては時間が足りない。
 そこで私は、効果的かはどうかは分からないが、本書に記載されている原則に則った方法を提案してみようと思う。別に私が提唱し始めた訓練方法ではないが。
 

 私のつまらない提案の前に、もう少し「アイデアのつくり方」の話をさせてほしい。
 本書には、「新しい組み合わせを見つける力は、様々な物事の関連性を見出す能力に依存する」とある。
 では、この関連性を見出す能力はどうやって伸ばせばよいのだろうか?
「アイデアのつくり方」には社会科学を学ぶことと書いてあるが、私はもっと単純に、言葉同士の組み合わせで同じことが出来ないだろうか、と考えた。
 なぞかけを思い出してほしい。「〇〇と掛けて△△と解く。その心は□□」という形式が一般的で、□□に該当する部分に、全く関連無さそうな単語同士の共通項を述べる、言葉遊びの一種だ。これを瞬時に出来る人は関連性を見出す能力に秀でていると思う。
 しかし、なぞかけだけでは物足りない。なぞかけで見出される共通項は、基本的に同音異義語であるからだ。勿論そうでないものもあるが、同音異義語に比べれば少ないように思われる。
 更に効果的な練習方法は無いだろうか?

 さて、ここからが私の提案である。
 
三題噺をアイデアづくりのトレーニングとして有効活用出来ないだろうか?

 三題噺とは、ランダムな三つのお題を組み合わせ、一つの物語を組み立てるものである。元々は落語の形態の一つで、客席から三つお題を貰い、即席で演じるものだった。お題の組み合わせも決まりがあり、かつうち一つはサゲ、つまりオチに組み込む必要があった。ちなみに「また夢になるといけねえ」で有名な「芝浜」は三題噺から生まれた演目らしい。
 私の言う三題噺は創作のトレーニングとして行われている、もっとフランクなものだ。三つの言葉をストーリー上で使えば、後は自由。別にオチに使う必要も無いし、三つの言葉に決まりも要らない。
 それでも三つの言葉を組み合わせ、出来る限り整合性のとれる(それも、出来れば面白い)ストーリーに仕立て上げるためには、「どうやったらこれとこれが組み合わせられるだろうか」と考える必要がある。どうだろう、アイデアづくりの助力になりそうではなかろうか。
 加えて、「アイデアのつくり方」の著者も、「言葉は人事不省に陥ったアイデア」であり、「言葉をマスターするとアイデアは息を吹き返してくる」と述べている。
 この後に言語意味論を相手にしていることから鑑みるに、言葉というのは、そのものの意味だけではなく、それに付随する形容や動きも表している、ということを言いたいのだと思う。例えば「猫」という単語から、様々な事柄が想起される。猫が好きな人であれば好意的な、嫌いな人であれば否定的な連想が中心になるはずだし、猫を飼ったことがある人ならより詳しい生態を、印象的な思い出があるならそれに伴った情景を思い描くだろう。それは「書く」とか「読む」とか言った動詞も、「かわいい」とか「きれい」とか言った形容詞でも同じことが起きるはずである。
 そうした言葉から想起されるアイデアを煮詰め、組み合わせ、一つの話を作り上げるのは、アイデアをつくる行程と類似していると言えないだろうか?
 故に私は三題噺をアイデアづくりのトレーニングの一つとして提案したい。実際に三題噺の行程を追うことで検証していこう。

1.お題を見つける


 まずはお題。自分で三題を考えてもいいが、やはり偏りが生じるので、考えてもらう方が良い。幸い「三題噺 お題」で検索をかけると、種々様々なサイトやお題メーカーがヒットする。
 AIに手伝ってもらうのもいい。「三題噺のお題を頂戴」と伝えれば即座に提示してくれるし、創作のヒントや追加のテーマなどを要求することで、難易度の調整も容易だ。
 私のお気に入りは「どこまでも、まよいみち」様の「三題噺スイッチ」である。
 試しにスイッチを押してみたところ、

  • 占い

  • 布巾

 の三つの単語が表示された。ここから三題噺を練り上げてみよう。

2.単語の連想ゲーム


 次に、この単語たちから思い浮かぶ事柄を片っ端から列挙してみよう。
 例えば「島」からは「海に囲まれているだろう」「温暖な気候だろうか」といった情景や、「よそ者に厳しいかもしれない」「温和な性格をしている可能性がある」といった予測が立てられる。偏見でもなんでもいいので、存分に想像力を働かせて連想ゲームをしてみよう。
 連想するのは文章でも単語でも、イラストでも何でも良い。自分がより想像しやすく、発展させやすい形であれば。私はノートに思いつくだけ単語を書き連ねるという手法を取っている。
 もし何も思いつかない言葉、初めて見る言葉があれば、検索してみるのも手だ。

3.連想したものを組み合わせる


 もうこれ以上出ない、というくらい捻り出したら、次は組み合わせである。
 三つ一気に組み合わせられるようであればそれでもいいが、最初は二つずつ、三種類の組み合わせから始めてみることをお勧めする。
 上記のお題であれば「島+占い」「占い+布巾」「布巾+島」といった具合に、順番に組み合わせを考えてみよう。

  • 島で占いが流行している

  • 排他的な島に占い師が訪れた

  • お気に入りの布巾が無いと占いが出来ないのに忘れてしまった

  • 布巾を使って占いをする

  • 特定の日に布巾を飾る風習がある島

  • 島の図柄が描かれた布巾

 こんな具合に、これまた自分の想像力を生かして様々にくっつけてみよう。パズルのピースは最初から形が決まっているが、三題噺は自分でピースの形を変えられる。それも自由自在に。人のことは考えず、自分の好きな組み合わせを考えてみよう。
 もしどうしても組み合わせることが出来ない単語同士があれば、思い切って後回しにすることだ。ピンとくる組み合わせや設定を思い描いた後にワンポイントとして挿入する方が簡単だからだ。勿論、敢えて粘ってみるのもいいだろう。その場合は、and検索を活用してみると思わぬ記事が見つかるかもしれない。画像検索をしてみるのも面白い。
 二つの組み合わせでは面白くないなと思っても、三つ目の要素を加えてみると不思議と面白く思えることもある。逆につまらなくなることもあるが。そうやって試行錯誤を積み重ね、自分で納得の行くパズルが完成したら、おめでとう。道のりはあと少しだ。

4.簡易な文章でストーリーを表す


 自分だけの組み合わせが見つかったら、その組み合わせを三~四行に分けて書いてみよう。序破急、或いは起承転結は意識しなくていいが、オチはしっかりと言葉にしておいた方が、後で執筆する際に楽になる。尤も、物語を練るだけでトレーニングになるから、そこまで難しく考えなくてもいい。
 上記のお題を参考に、私も一つ物語を練ってみた。

とある島に旅人が訪れる。島民は皆布巾を身につけたり家に飾ったりしている。住人によると、『占い師の指示だ』と言う。
明くる日、旅人も占ってもらう。特に布巾の話はされなかった。
更に翌日、別の色の付近が飾られている。旅人は再び付近の色の意味を訊ねると、住人は『生贄が決まったからだ』と言った。
次の瞬間、旅人は殴られ、その場に倒れた。薄れゆく意識の中で、あれは占いではなく島の暗号だったのだな、と悟った。

 ……何故か三題噺をやろうとするとホラー寄りになってしまうのだが、どうしてなのだろう。
 それはさておき、こんな風に数行で書き表してみよう。私の例は少し冗長だが、端的であればあるほどよい(※只の持論である)。

5.執筆


 もしあなたが創作活動をしている、または興味があるのであれば、せっかくここまで考えたのだ。形にしてみたらいかがだろうか?
 私も早速執筆を……と颯爽と原稿を提出したかったのだが、時間の都合上断念してしまった。あなたは是非、素晴らしい作品を書き上げてほしい。
 アイデアは生み出しただけでは十分とは言えない。どんなアイデアも実用に足るかどうか、時勢に合っているかどうか、様々な検討を加える必要がある。そうして初めて「アイデア」という形に生まれ変わる。どんな形であれ、体裁を整えるという経験もまた積んでおく必要があるはずだ。
 それに執筆もまた、言葉同士をどのように組み合わせるかという組み合わせ力が問われる課題である。執筆という過程はアイデアの発表であると同時に、アイデアづくりの鍛錬でもあるのだ。

 ここまで三題噺の書き方を通してアイデアの創造過程を追跡してみたが、何か有益だと思えることはあっただろうか? 参考になりそうな箇所はあっただろうか?
 個人的にはやはりアイデアづくりの一助になりそうだと再認識できたのだが、あなたはどうだろうか。私と同じ感想を抱いていただけだろうか? それともまだ物足りないと思われただろうか?
 どちらにせよ、今回の記事は「提案」である。私のこの提案がどうだったのか、意見を頂ければ有難い。
 そして、私のこの稚拙な文章が、どなたかの参考になれば幸いである。


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