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人事がBuzzwordに飛びつく前にやるべきこと

こんにちは。シリコンバレーで人事をしているTimTamです。

今日は、「いや、その前にやることがあるよね」というお話です。

私が中学生くらいのころ、かなり太っていたのですが、少しずつ自分の容姿とか、髪型とか、服装に興味が出てきて、いろいろと気にしていたところ、妹から言われた一言にグサッと来ました。

「そんなことを気にする前に、まずは痩せる事が先なんじゃない?」

うぐぐ・・・た、確かにそうだ・・・。(事例としては不適切かもしれませんが、私自身の事という事でご容赦を)

これに似た話がビジネスの世界で沢山あります。日本企業の特徴として、人にかけるコストがケチい事。お金を使う事に思い切らず、いつから共産主義/平等主義になったのかと思うほど、差がつかない。でも、そんなところをケチケチしていながら、もっと大きなコスト、例えば人事部門が契約しているベンダーとのコストがじゃぶじゃぶだったりするんですよね。

「今の人事部は、もっと戦略パートナーにならないといけない。」という論調があります。目の前の事よりも、中長期的なビジネス戦略を理解し、それにどう貢献していけるかをもっと考えよう。という論調です。

ところが、足元を見てみると、人事部にはメールしても返事が遅い、お役所みたいに型通りの対応ばかり、実際には最低限のサービスレベルとしての信頼がビジネス部門(職場)からない。人事はとにかく心もとないし、頼りない。という状況になっていないでしょうか?

今所属しているの部署の、日々のサービスレベルが、最低限レベルに達していない中で、戦略という言葉を使う資格はありません。目の前で家が燃えていたら、その火を消すのが先決です。そこの火をちゃんと消して、足場固めをしっかりできていて初めて、戦略パートナーとしてどう更に改善していけるかというのを考えるのがあるべき順番です。

勿論、目の前の問題の火消しで忙しいから、戦略的な事が考えられない、という言い訳はできません。ですが、目の前で燃え盛る火をハンドルできておらず、放っとらかしにしておきながら、戦略的になろうなんていう資格はありません。私はこういうフワフワしたことだけいって、実際の日々のサービスレベルを軽視したり、そんなのは現場で考える事だ、的なスタンスを取るような事にだけはならないように気を付けています。それって、例えばディズニーのCEOが、ディズニーランドに訪れる一人一人のカスタマーの体験をどうでもいいと思っているようなものです。そういう日々の、一人一人のカスタマーの体験を軽視し、改善していくことができない人に、中長期の戦略云々を考えられるかというと、疑問ですし、そこに課題があるのなら、まずはそっちを何とかしていかないと先はないと思った方がよいです。

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また、よくあるのがバズワードに飛びつく事です。例えばHRテック。データをうまく活用して、分析して、何か面白い提案をしていこう、みたいなトレンドです。あとAI。それでいて、あきれてしまうのが、ストックとしてのデータを活用する前に、データをフローとして扱えておらず、マニュアルデータエントリー、ダブルエントリーなどが横行していて、どれが信頼できるデータかがよくわからないというお粗末な状態になっている状況。

もう少しかみ砕いて説明します。

社員を新たに採用したとします。その社員は、仕事に応募したときに、基本的な個人情報(氏名、住所、電話番号など)をウェブ上でシステム上登録していますよね?その情報は、採用が決まった後、自動的に人事システムに流れる仕組みになっていますでしょうか?ペイロールシステム(給与システム)とは連携していますでしょうか?さらに、その人事システムは、給与システムのみならず、パフォーマンスマネジメントシステムや、経費精算システム、IDカード、研修システム、勤務管理システムなどと連携したりしていますでしょうか?いろいろなシステムがあるなかで、どれが、「神様データベース」("system of record")として認識されていますでしょうか?

これらがすべてシームレスにつながっており、個別のシステムに別々にデータを入力しなおす(ダブルエントリー)必要がないのが、理想的です。そして、データのダブルエントリーがなく、ちゃんと各システムがつながっていて(integrationされていて)、どれが神様データベースかが決まっていればいう事はありません。効率的ですし、work smartな環境と言えます。

現実的には、そこまで行っていない企業もあまた存在するかと思われます。別の記事(「日本で長労働時間がなかなか是正されない理由」)でも書いた採用担当者の事例なども、よくあるでしょう。

で、そういうデータの基本的な流れ(フロー)が整理されておらず、沢山のマニュアルな作業が存在する中で、AIだ、HRテックだと飛びつくのは、ちょっと順番違いかと思います。

最近はやりのWorkdayなどの欧米型クラウド人事システム(HCM)にしたってそうです。これらのシステムがうまく機能するためには、上記のように他のシステムとつなげて、work smartなツールとして使うことが大変重要です。ところが、日本企業がこういったシステムに興味を示す場合、それまでレガシーで作り上げた内製のシステムのしがらみもあったりして、全体のシステムアーキテクチャを整理せずに、結果として単体のハコ(データベース)として、データをためて、HRテックとして活用したい、みたいなことにどうしてもなってしまう傾向があるのです。これまで控えめに言って、10社くらいの日本企業の担当者やマネジメントレベルの方からこのあたりの質問を受けましたが、例外なく、データベースとして使うことに話が行ってしまいます。ですが、私の意見では、まずその前に、効率化すべき全体のデータフロー、化石のような古いオペレーション体制をどう効率化していくか(日本的に言えば、DX化とも言えます)、を考えた方がよいです。そしてその次に、Data Integrity(データが信頼できるかどうか。ゴミデータがないか。データの一貫性はあるかなど)という基礎ができているかという点を点検すべきです。ここまでが出来ていないと、データを使ったAnalyticsなどはできません。それができて初めて、HR TechとかAnalyticsとかを考えればよいのですが、ここまでできている日本の大企業は聞いたことがありません。という観点がすっぽり抜け落ちてしまっているのですね。

フェラーリに乗りたかったら、年収がかなり上がらないと難しいですよね。年収が1,000万円ない中で、フェラーリに乗りたいというのは、ただの希望であって、年収を思い切り上げていくのが先です。それと同様に、HRテックがフェラーリだとしたら、年収をあげていく事に相当する事があるはずです。それもないのに、HRテックだ、AIだ、というのはただの希望を述べているにすぎません。

業績が非常に低迷しているのに、超優秀な人材を採れとかいうトップマネジメント。それでいて給与も標準からあまり変わらない範囲しか出さないとか。まずは会社として魅力的に思われるような状態になって、ちゃんとしかるべき給与が提示できてからでないと、超優秀な人材などそうそう簡単に採れるものではありません。人として全然魅力じゃないのに、超イケメン、超美女と付き合いたいと言っているようなものです。

というわけで、今日は順番というものがある、というお話でした。

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