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社員のエンゲージメント向上は誰の仕事か?

今日は、いわゆるエンゲージメントサーベイを中心とした課題や問題点について書いてみようと思います。この記事は一番最後の項目を除き殆ど無料で読むことができるようにしてあります。

エンゲージメントとは何か?

エンゲージメント”(engagement)とはここ最近のはやりの言葉で、昔から日本企業にもある「モラルサーベイ」は、エンゲージメントサーベイなどと名前を変えて再ブランドされ、それも、年に一度の大きなサーベイは時代遅れになっています。今は、好きな時にリーダーがさくっと調査をできる「パルスサーベイ」(pulse survey)というトレンドも出てきています。Pulse Surveyは、聞きたいことを絞っているので、質問数も限定的で、頻度も頻繁にあるのが特徴です。

多くのPulse Surveyの目標は、従業員のエンゲージメントを測ることを目的としています。従業員のエンゲージメントが高いと、生産性もあがり、全体としてのパフォーマンスが向上につながると信じられています。

エンゲージメントは、もちろん、エンゲージからきているわけですが、日本語的に言うと、社員が仕事にエンゲージしている状態とは、社員が責任感とやる気をもって、前向きに仕事に集中している状態であると理解すればよいと思います。

このPulse Surveyとして最近にわかに多くの企業が採用しはじめているのが、Glintという会社です。この会社は、私の自宅から車で10分ほど南に下ったRedwood Shoreというところに本社があるのですが、現時点ではアメリカ中心のデータとなっており、欧州やアジアも担当している私としてはグローバルにデータを見る時にまだ課題感はある感じかなという印象です。

このGlintという会社は、2018年にあのLinkedInに買収されています。その時から少しずつ名前が知れ渡るようになってきました。おびただしい数の社会人のデータを持っているLinkedInが、各社のエンゲージメントに関するデータを持つGlintを買収したというのは、ある意味大変自然な流れと思います。LinkedInは、それらのデータを使って、どう人が転職しているのかとか、いくらでも分析をして新しいビジネスを思いつく事ができてしまいます。(そして、そのLinkedInは、2016年に2兆円以上もかけてあのMicrosoftに買収されています。)

最も悲観的な日本人

グローバルにデータを見ると、国民性が分かって大変面白いです。具体的に言うと、アメリカのスコアがいつも一番高い(ベンチマークを見てもそうです)。次に欧州のスコアが高く、日本のスコアはどのベンチマークをとっても、各国の中で最も低い(または下から数えて何番目、という世界)のです。

これは何故なのでしょうか。人事担当という立場からみると、色々な件で一番交渉してこないのが、日本人です。飲み屋では不満がぶちまけられたりすることはあるのかもしれませんが、正式に上司や会社に交渉してきたりすることがあまりなく、欧米のマネジメントからは、マネージしやすいと思われています。対して欧米人は色々と交渉してきます。他社からオファーが出たといって給与を交渉してくるし、ちょっとでも自分の職責が広がってきたと思えば、それも行ってきます。「言わないとダメ」な文化とも言えます。

ところが、こういう匿名サーベイを取ると、見える姿が完全に逆。普段は表立って不満を言ってきたり交渉する事がすくない日本のスコアが一番低く、不満コメントもいろいろと寄せられます。よく言えば、理想が高い、ともいえそうですが、普段表立って不満を言わない傾向があるのに、とにかく匿名サーベイになると点数が辛いのが日本人の特徴。表面的にはあまり普段公に文句を言ったり交渉したりすることがないだけに、内側に抱えているストレスが高いのだろうなと想像できます。日本では鬱や自殺のケースも多いというのも、関係しているのかもしれません。対して、米国のスコアは相対的に高い傾向にあり、概してポジティブ。欧州はその中間といったところです。

エンゲージメントサーベイの注意点とは?

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データとしてスコア化されたエンゲージメントは、わかりやすいのですが、色々と注意点があります。鵜呑みにしては絶対にいけませんし、管理職の評価に使うなどは個人的には良い案とは思えません。以下に理由を述べます。

1.エンゲージメントスコアは、あくまで社員から「そう見えている」というだけであり、必ずしも真実ではない。「外資系人事 評価の裏側」参照)結果がでなければ解雇になりますが、PIP中の社員などは、回答が辛くなります。でも、マネジメントとしてはlow performereを正しくManageしようとしてアクションを取っているわけですから、そういう正しいアクションを取っているマネジメントがスコアが低くなることもあります。それが責められるのはお門違いです。エンゲージメントスコアの限界は、社員の考えが正しい、と想定している事です。調査対象の社員の中には、ネガティブなフィードバックをされて、機嫌が悪い社員もいます。米国では、パフォーマンスが悪い社員は、PIPに乗せて(PIPについては別記事外資系人事 評価の裏側」参照)結果がでなければ解雇になりますが、PIP中の社員などは、回答が辛くなります。でも、マネジメントとしてはlow performereを正しくManageしようとしてアクションを取っているわけですから、そういう正しいアクションを取っているマネジメントがスコアが低くなることもあります。それが責められるのはお門違いです。

2.エンゲージメントスコアが高い組織が、High Performingな組織とは必ずしもいえない。これはエンゲージメントサーベイの根本にかかわることですよね。単に組織のマネジメントが緩く、仲良しクラブみたいになっててエンゲージメントが高いという事があり得ます。でも、組織として信用されていて、高い成果を出しているかというと全然ダメ。こういう事例をいくつも見てきました。1.とも関連しますが、ユルユルな上司で組織全体も緩んでいて、成果は出ていないけど社員はそこそこハッピーというケースもあるので要注意です。エンゲージメントスコアがそこそこの組織でも、ハイパフォーミングな組織はあります。特定の部署のスコアが極端に悪い場合は、確かに何かありそうですが、これもサンプルサイズや特定の理由がないかを慎重に見た方が良いです。これはエンゲージメントサーベイの根本にかかわることですよね。単に組織のマネジメントが緩く、仲良しクラブみたいになっててエンゲージメントが高いという事があり得ます。でも、組織として信用されていて、高い成果を出しているかというと全然ダメ。こういう事例をいくつも見てきました。1.とも関連しますが、ユルユルな上司で組織全体も緩んでいて、成果は出ていないけど社員はそこそこハッピーというケースもあるので要注意です。エンゲージメントスコアがそこそこの組織でも、ハイパフォーミングな組織はあります。特定の部署のスコアが極端に悪い場合は、確かに何かありそうですが、これもサンプルサイズや特定の理由がないかを慎重に見た方が良いです。

3.質問の聞き方によって点数が乱高下する。これはどういうことかというと、質問の聞き方によって、全然結果がぶれるという事です。例えば、「あなたはいつも最善の結果になるように努力しようと思う」という質問には、社員は高いスコアで回答する傾向があります。ですが、「あなたの部署の上司は、クリアに目標設定をしてくれる」というような質問になると、低いスコアになる傾向があります。これは、「自分は努力しているけど、上司や周りはいまいち」という事なのですが、人は誰しも、自己評価を高くつける傾向にあるためです。これはどういうことかというと、質問の聞き方によって、全然結果がぶれるという事です。例えば、「あなたはいつも最善の結果になるように努力しようと思う」という質問には、社員は高いスコアで回答する傾向があります。ですが、「あなたの部署の上司は、クリアに目標設定をしてくれる」というような質問になると、低いスコアになる傾向があります。これは、「自分は努力しているけど、上司や周りはいまいち」という事なのですが、人は誰しも、自己評価を高くつける傾向にあるためです。

4.調査会社のバズワードに騙されない。最近はやりの、HRテックとか、AIを使った分析、などといって、様々な切り口からデータを出してきますが、AIを使った分析って???と聞いてみても、その会社の営業担当ですらちゃんと説明できないケースがあります。ベンチマークのデータをお願いすると、一応データは出てくるのですが、じゃあどういう方法でそれらのエンゲージメントデータが算出されたかというと、それも説明できない。よくよく見てみると、その会社が同じ質問を聞いて集めたデータではなく、外から買ったデータを適当に変換しているデータだったりします。もうこれでは信用できません。

というように、まだまだエンゲージメントスコアについては、注意点だらけであり、一つのデータポイントとして参考程度に使った方がよさそうです。ただしく厳しいアクションを取っているマネジメントのスコアが悪くなる場合もありますし、エンゲージメントが高い組織=high performing組織と必ずしも言えない状態で、マネジメントの評価にリンクさせるなどというのは、よいアイデアとは言えません。これをやったとある会社の人と話したことがありますが、その会社の場合は、サーベイの直前の土日に自宅に部下を招いてバーベキューを急に行ったり、職場にドーナツを買ってきたり、チームのイベントを急に企画するようなことが起きてしまったそうです。

ただし、エンゲージメントサーベイは強力にサポートしている人たちもいて、極端なケースになると、完全に各部署、各課ごと全公開し(完全にTransparentにし)、コメントも含めて社員に公開したり、マネジメントがいつでも好きな時にサーベイができる権限を与えたりしていくような会社もあると聞きます。これはもう、政治論争や宗教論争と同じような感じですね。

オペレーション上の注意点

1.まだまだ犯人捜しをしようとする人がいる。これはマネジャーの中に一定数いるんですよね。。。そのような要求には一切応じないし、お願いされても人事ですらも個人特定はできず、ベンダーとの契約で決まっているとあらかじめ念押ししておくことが大切です。

2.書かれるコメントは、ものによっては、会社の責任が問われる場合がある。個人を特定できるようなコメントや、誹謗中傷などのコメントが出た場合、やはりそのコメントを広く公開することはやめるべきです。また、会社として、特定の社員がハラスメントを受けているというような事実を仮に発見してしまったような場合は、その時点で、会社として対処すべきliabilityが発生してしまう事もありますので、コメントの取り扱いは注意してください。業者によっては、個人を特定できるような情報を削除した上で会社と共有できるようなサービスをしているところもありますので相談してみてください。

3. ポリティカルになる。特にこれは、社長とその他役員がそろった会議の場において、事業部責任者を集めてスコアを公開するような場合は要注意です。事業部責任者レベルは、かなり「競争心」が強い人、プライドの高い人が比較的多く、特定の部署や事業部のスコアが悪いことを関係者皆の前で公開するのは、まさに公開処刑。どのようにデータを公開していくのかは慎重にハンドルしたほうがよいでしょう。これは米国だからどう、とか日本だからどう、というのはない共通の問題な気がします。特にこれは、社長とその他役員がそろった会議の場において、事業部責任者を集めてスコアを公開するような場合は要注意です。事業部責任者レベルは、かなり「競争心」が強い人、プライドの高い人が比較的多く、特定の部署や事業部のスコアが悪いことを関係者皆の前で公開するのは、まさに公開処刑。どのようにデータを公開していくのかは慎重にハンドルしたほうがよいでしょう。これは米国だからどう、とか日本だからどう、というのはない共通の問題な気がします。

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4. 回答率はある一定以上になると、煽ってはいけない。エンゲージメントスコアではなく、回答率を組織別に競わせるというような事はやめたほうがよいでしょう。特に7割以上あればもう健全です。匿名で、強制でないといっているのに、執拗に回答しろと迫るのはよろしくないです。

5.頻繁に組織変更があったりするような会社 経年変化を見ていく事が難しくなります。最近のベンダーはどこもクラウドベースに移行していますので、最新組織にくくりかえて結果を見ていくことが容易になりましたが、そうではない旧式のベンダーの場合は、特別にお金を請求されたりすることもありますので、ベンダーセレクションの際にはどう迅速に対応してくれるのかをきちんと聞いた方がよいでしょう。

どうしたらエンゲージメントはあげられるのか?

さてここからが本題です。このエンゲージメント向上という会社としてのイニシアチブの責任部署が人事部になる場合がありますが、それでは失敗します。なぜならば人事部だけがどうこうしてあげられるものではないからです。以下にその理由と、そもそもどうやったらエンゲージメントがあがるのかを書いてみたいと思います。

まず大前提として

そもそもエンゲージメントとは、会社や人事部がなんとかするものではなく、職場の上司、リーダー、みんなで取組むべきもの。自分がエンゲージできない事を周囲のせいにするのではなく、みんなが自分のチーム、同僚、含めてどうよりより職場環境をつくっていけるかというマインドセットに変更する事が最初です。これはとても大切な考え方です。これを強調しておかないと、いつまでたっても、自分は頑張っていて、悪いところは全然ない、でも上司とか、同僚が分かってない、みたいな構造から抜け出せません。

次に、上記のロジックは、部署単位でもあてはまります。職場環境をよくする提案が全然人事からあがってこない、人事はダメだ、というのはお門違い。じゃあ、いったいどうすればいいのか? そんなあなたのために、私が幾つかのコンファレンスや、文献を読んで、「これだ」と思う、エンゲージメントに影響する4つの項目についての結論をずばり共有しようと思います。個人的に大変腹落ちしています。これを見ると、エンゲージメントのキーは人事部だけでないことはあきらかです。実は総務部やIT部門もカギを握っていることがよくわかりますが、こんな事をこれまで言った人はあまりいないと思うので、皆さん意外に思うかもしれません。では以下いきましょう。

ずばり、エンゲージメントに影響する4つの項目とは?

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