見出し画像

パワーメーターでタイヤの転がり抵抗を確かめてみた話: (その2)実走試験

こんにちは
自転車が大好きなsilicate meltと申します.

前回のローラー台試験により,クリンチャーもチューブラーも空気圧が低圧になるほど転がり抵抗が増加することがわかりました.
これは,まあ理解できます.

驚かされたのは,チューブラーがクリンチャーと比較して,極端に大きな転がり抵抗(約40Wもの差)を示したことです.
転がり抵抗はタイヤの変形のしやすさに関係しますから,チューブラーの抵抗が高くなるのは,当然といえば当然なのですが,違いがあまりにも大きすぎます.

実際の舗装路面ではどうなのだろうか?
もしや,自分は今まで,この大きな転がり抵抗に気が付いていなかったということなのか?
(笑)

これを確かめるべく,早速舗装路面での実走試験をしてきました.このnoteではその結果を紹介します.


3.実走による試験

3-1 試験方法

<試験場所>
秋田県大潟村は,かつて日本で二番目に大きな湖であった八郎湖の干拓で生まれた広大な干拓農地である.ここには走りやすい直線路が多くある.
今回はそのうちのひとつ,東西約10kmにわたり信号機や大きな交差点のない県道54号線の平坦路にて試験を行った.
ここは両側に防雪林があり,風の影響を受けにくい道である(図9
交通量は2分間に1台程度
舗装路面は普通の平均的な舗装に見える(図10

図9.走行試験を行った県道54号線を西向きに見た様子
道の両側(南側と北側)に木のある一直線の平坦路が約10km続く
図10,ごく普通の平均的な舗装路

<気象条件>
天気は晴れ,気温は9℃
風の影響を最小限にするためにこの場所を選んだのだが,当日はあいにく道路にほぼ並行する西風が吹いていておりました.
天気予報によると平均風速は4m/s
風力発電所の風車が真西を向いてゆっくりと回転しています.
突風ではないけれども,自転車で走るには明らかに「向かい風」と「追い風」で差が出そうな,サイクリング中によくある感じの風です,
なお,感覚的にですが,3時間ほどの走行試験の間,風向きと強さはほぼ一定であったように思います.

<試験機材>
ローラー台試験のときと同じ

<試験方法>
行き(向かい風):東から西に向かって3km走行
帰り(追い風):西から東に向かって3km走行
行きと帰りのそれぞれで,1kmおきに100W,140W,180W目安でパワーを一定に保ちながら走行したときの速度を記録する.
クリンチャーとチューブラーで交互に走行し,タイヤの空気圧を6barから9barまで1barずつ上げる.
ギヤ比は36x13T,ポジションは下ハン
ロードバイクのボトルゲージには何も付けないことを基本としますが,途中で一回だけ,weight(水を満タンに入れたボトルと普段持ち歩いているツールケース,合計重量1200g)を取り付けた走行試験も行ないました(図11

図11.ボトルゲージには何もつけないが,
7barでは1度だけweight(水を入れたボトルといつものツールケース)
を取り付けた試験も行った
図12.実走試験の様子
(車はレンタカーを借りました)

試験をする前に次のような仮説を立てた:

  1. 空気圧を下げると転がり抵抗は増加する.そして,もしもSILICAの主張が正しいならば,空気圧を上げることでも抵抗が増加し,どこかに極小値が現れるに違いない.

  2. ローラー台試験の結果から,チューブラーの方がクリンチャーよりも転がり抵抗は大きいことが予想されるが,舗装路面ではその差はより小さいに違いない.

  3. 転がり抵抗による仕事は重量に比例するから,weightを取り付けたときには速度が遅くなるに違いない.

これらの仮説を検証することになります.


3-2 試験結果

図13.実走試験の結果.
上から順にケイデンス,速度,パワー
往復6kmを9回繰り返しました.
左から順に 6barクリンチャー,6bar/チューブラー,
7barクリンチャー,7bar/チューブラー,7barクリンチャー+weight,
8barクリンチャー,8bar/チューブラー,9barクリンチャー,9bar/チューブラー
図14.6barのクリンチャーで走行した時の結果
左半分が行き(西向き走行3km,向かい風)
右半分が帰り(東向き走行3km,追い風)

試験結果を図13に示す.
また,6barのクリンチャータイヤで走行したときの行きと帰り(それぞれ3km)の結果を図14に示す.
予想はしていたが,舗装路面ではローラー台のとき以上に一定のパワーで走ることが難しく,パワー値がブレブレになってしまった
(一応,なんとか頑張って1kmおきに100W, 140W, 180W目標で走ったつもりです,笑)

行きは向かい風,帰りは追い風であったので,速度は後半3kmの方が速くなっている.ギヤ比とパワーが一定なので,ケイデンスに比例するように速度が変化しているのがわかる.



実は今回,データ整理していて初めて気がついたことがある.
図15は東向き走行(追い風)における全空気圧でのパワーと速度の関係の散布図.クリンチャーとチューブラーとでデータの分布に違いがある

図15.東向き走行(追い風)のときのパワーと速度の関係の散布図.
(右)チューブラーホイール(Garminセンサー)
(左)クリンチャーホイール(COOSPOセンサー)


これは,どうやらスピードセンサーの違いが原因らしい
チューブラーにはGarmin純正のスピードセンサー,クリンチャーにはCOOSPOという互換センサーを取り付けていた.
COOSPOは価格が純正の半額以下だし,これで十分だと思って購入したのだが,速度の精度が低いらしく,とくに28km/hあたりよりも速くなると,記録が1km/h刻みになっていた.
 (なお,COOSPOのサイコンを使ったときにどうなるのかは知りません.あくまでGarminのサイコンでCOOSPOのセンサーを使うと… の話です)

走行中はもちろん,Garmin Connectで走行ログを見ていたときにも,
全く気がつかなかったナァ… そんなこと

Garminを使うときは,純正のセンサーにしといたほうが良いようだ





空気圧とパワーが一定の条件で走行した1kmのうち,パワーの安定している500m区間での平均速度と平均パワーを求めた.
行き(向かい風)の結果を図16に,帰りの結果(追い風)を図17に示す.

図16.行き(向かい風)の測定結果.
右がチューブラーで左がクリンチャー,エラーバーは標準偏差(1σ)
図17.帰り(追い風)の測定結果.
右がチューブラーで左がクリンチャー,エラーバーは標準偏差(1σ)

パワーが一定となりにくかったため大きなエラーバーが付いてしまったが,平均をとれば何か意味のある関係が見られるかもしれないので,とりあえずこのデータで考察を進めてみる.


3-3 考察

3-3-1 転がり抵抗は空気圧でどのように変わるのか?

図18.行きと帰りの平均のパワーと速度,空気圧の関係
右がチューブラーで左がクリンチャー

行きと帰りを平均したパワーと速度,空気圧の関係を図18に示す. 7bar,8bar,9barの時の違いは明確でないが,6barではクリンチャーとチューブラーのいずれも,速度が有意に低いように見える. やはり,舗装路面でも低圧にすると転がり抵抗が増加するらしい.
クリンチャーと比較して,しなやかに変形するチューブラーの方が速度低下の程度が大きく,これももっともらしい結果である.

そして,高圧にしてもSILICAが主張するような転がり抵抗の増加は観察されなかった.仮にSILICAの主張が正しいとしても,今回の計測の検出限界以下の大きさであるか,または,より傷んだ舗装路面でないと生じない現象なのかもしれない.


3-3-2 クリンチャーとチューブラーではどのように違うのか?

図19.行き(向かい風)と帰り(追い風),および無風状態
におけるパワーと速度の関係
空気圧7bar以上の時の平均値
赤がクリンチャー,青がチューブラー

考察3-3-1から,7bar以上では空気圧に依存しないことがわかったので,7bar以上の時の全部の空気圧の平均値で比べてみることにした.
その結果を図19に示す.
パワーを一定にすることが難しく大きな振れ幅(図1314)があったにも関わらず,平均でみると,クリンチャーとチューブラー,行きと帰りのそれぞれが,傾きのほぼ等しいきれいな直線関係を示している.

図19には行きと帰りの平均から求めた「無風」状態で想定されるパワーと速度の関係も実線で示した.この図から,チューブラー(青)はクリンチャー(赤)よりも転がり抵抗が大きいことがわかる.
速度が等しいとき,クリンチャーはチューブラーよりも約8Wほど転がり抵抗が低い.これはローラー台試験の時の約1/5の大きさである.
そしてパワーが等しいとき,クリンチャーはチューブラーよりも約0.5km/hほど速くなるらしい.

また図19に示した直線関係の式から,クリンチャータイヤで気温9℃の無風条件で30km/hで走るためには184W,25km/hで走るためには117Wが必要となることがわかる.つまり速度の変化率は1Wあたり0.075km/h
これは20-30km/hの速度域でほぼ一定らしい.


3-3-3 車体が重いとどうなるのか?

図20.転がり抵抗に与えるweightの影響
赤がクリンチャーで空気圧7bar以上の平均値(weight無し)
青がクリンチャーで7bar,1.2kgのweightを取り付けた時

転がり抵抗による仕事$${K}$$は,重量を$${M}$$,重力加速度を$${g}$$,転がり抵抗係数を$${μ}$$,移動距離を$${L}$$とするとき
$${K=μMgL}$$
により表される.
そのため,weightにより自転車が重くなると転がり抵抗による仕事もそれに比例して大きくなるはずである.

図20にweightのある時と無い時の比較を示す.
図19の時と同様に,行きと帰りの平均から求めた「無風」条件での変化を実線で示す.実際にもweightがあると転がり抵抗が大きくなることがわかった.

しかし,1.2kgのweightで速度が約1.5km/h低下しているが,これは少し大きすぎるのではないだろうか?(体重を5kg減量すると巡航速度が5km/h速くなる? 実際にはそんなに速くはなりそうにない)
定性的には正しいのだろうが,定量的には正確でない可能性がある.
weight試験は7barで1度しか行っていないため,風の加減が等しくなく,たまたま速度が少し遅かったのかもしれない.

なお,感覚的な話をすると,クリンチャーの7barのweight試験のあと,続けてweight無しで8barの試験を行った時に,確かに走りが「軽く」なった感じはした.

図21,実走試験の様子
ちなみに3時間ほどの試験中,他の自転車乗りは誰も走ってきませんでした(笑)


3-4 実走試験のまとめ

舗装路面において,走行時のパワーと速度,空気圧の関係をクリンチャータイヤとチューブラータイヤで調べたところ,次のことがわかった.

  • クリンチャーとチューブラーのいずれも,6barでは転がり抵抗が大きくなった.7bar以上では空気圧を上げても転がり抵抗には有意な差はなく,SILICAが主張するような「空気圧を上げると転がり抵抗が大きくなる」現象は見られなかった.

  • チューブラー(Vittoria Strada)はクリンチャー(Vittoria CORSA G2)よりも約8Wほど転がり抵抗が大きい(ローラー台試験の時の1/5の大きさ).これは速度に換算して約0.5km/hの差に相当する.クリンチャータイヤで気温9℃の無風条件で30km/hで走るためには184Wが必要である.20-30km/hの速度域では,1Wあたり速度は約0.075km/h変化する.

  • 自転車が重くなると転がり抵抗による仕事も大きくなることが確認された.ただし測定された変化量がやや大きすぎるように思われるので,測定回数を増やして再確認をする必要がある.




今回の実走試験,途中で飽きるかと思ったが,実走はローラー台より楽しく,あっという間に終わってしまった.
同じ180Wでもローラー台よりも実走の方が疲れが少なく感じた.
実走だと風をうけて心地よく走れるからかもしれない.

そして,やはり重さは速度に効いてくるようですね
図20のように実測データとしてわかると,
「ボトルの水は最小限にして現地調達の方がいいのかなぁ… 」とか
「チェーン切りは重いから持っていくのをやめようかなぁ… 」
とか,いろいろと考えてしまいますね(笑)

Vittoria Stradaの転がり抵抗は思っていたよりも大きいようだ
(今まで使っていたCORSA  CXや転がりが良いと言われるGP5000についても調べたくなってきた)
でも今まで総合的にはチューブラーの方が好印象だったのは何故だろうか?

ひとつには車体の違いがあったのかもしれない.私はこれまでチューブラーはLOOK595,クリンチャーはLOOK565で乗っていた.
そのため,チューブラーの転がり抵抗が少し大きくても,595は565よりも車体が約0.5kg軽いから.それらが相殺された結果,違いが分かり難くなっていたのかもしれない.
そうなるとクリンチャーとチューブラーは「加速性能」と「振動吸収性能」で比較されることになる.

それでは,クリンチャーとチューブラーとでは実際の加速にどのような違いがあるのだろうか?

次回の(その3)では「舗装路面での加速試験」の結果を報告したいと思います.

(次回(その3)に続く)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?