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フィランソロピーは最大のリスクマネー

■ シリーズ: ESGの一歩先へ 社会的インパクト投資の現場から ■

従来とは違うフィランソロピーの在り方

インパクト投資の世界でベンチャー・フィランソロピー(VP)という手法 が注目されつつあります。もっと有効に資金を使おうとする新しいフィランソロピーの考え方です。従来型のフィランソロピーは個人や企業、財団から募った寄附を寄付先に提供するものでした。インパクト投資の文脈の中で生まれた新しいフィランソロピー、その中でも、文字通り、ベンチャー・キャピタル(VC)とフィランソロピーの特長を掛け合わせたハイブリッド型とし て生まれたVPは、伝統的なフィランソロピーの目的観に則りつつ、VCの持つ投資やビジネスのアプローチを持ち込み、アクティブな経営支援を行い  ます。

フィランソロピスト第2世代たちの哲学

VPという言葉は1969年にアメリカで生まれました。その後、1990〜2000年代にいわゆるフィランソロピスト第2世代と呼ばれる人たちが現れました。たとえばイーベイの創業者ジェフ・スコール、ピエール・オミダイアや      ビル・ゲイツのようなドットコム系のスタートアップ創業者たちです。IPOによって巨額の富を得た彼らは、その資金を持ってフィランソロピーの世界に登場しました。

スタートアップ創業者である彼ら自身がイノベーションやアントレプレナーを信じているのは当然のこと。だからこそ従来のフィランソロピーのように恵まれない人々への慈善活動ではなく、革新的なアイデアでイノベーションを起こし、課題を解決するようなアントレプレナーをサポートするVPが多く生まれました。

また、2000年代には「カタリティック・フィランソロピー」や「ストラテ ジック・フィランソロピー」といった言葉が聞かれるようになりました。  これはもっと「カタリティック(触媒的)に」「ストラテジック(戦略的)に」フィランソロピーを行おうという概念。単純に資金を提供するだけでなく、企業や政府、地域住民といったアクターを巻き込む触媒として活動したり、関係するステークホルダーのハブとなって本質的な社会変革を起こしていくという戦略的な考え方です。

ベンチャーにとって先行投資を受けるメリットは大きい

フィランソロピーは最大のリスクマネーです。VCは投資家から資金を集めて投資し、その利益を返還するという資金の性質上、一定の期間で一定のリターンが必要となります。社会的なインパクトのある企業でも短期的に利益をマキシマイズできないのであれば投資対象にはなりにくい。その点、 VPなら投資家がかけにくい時間をかけたり、彼らが取れない最初のリスクを取り、企業を成長させることができるのです。この成長は新たな投資を呼ぶ触媒的な役割を果たします。VPの役割の一つは社会企業がさまざまな投資を受け入れ可能な企業になるまでの初期段階を支えることだと思います。

私がかつて勤務していたLGT Venture Philanthropy(現LGT Impact:リヒテンシュタイン公爵家によって設立されたインパクト投資機関)では、アクセラレータ・プログラムを実施していました。これはソーシャル・アントレプレナーを投資可能な状態になるまでハンズオン支援するプログラムです。もともとは東南アジア地域でのインパクト投資を検討していましたが、従来の同社の基準ではインベスタブルな対象がなかったため、その前段階から関わることにしたのです。最大5万米ドルの資金を提供し、同時に事業支援を行います。事業計画、KPI、ソーシャルKPIの作成、ビジネスモデルの分析や戦略の立て方、機器購入など日々のオペレーションの相談を受けるなど、かなり手厚くサポートしていきます。私が携わったフィリピンの農業系NPOは支援を受けた結果、4年で売り上げ規模を5倍近くに拡大し、新たな資金提供を受けるまでに成長しました。

金額規模だけをみると日本では年間1兆円規模の寄付があるといわれてい    ます。個人も企業も含め、それなりに資金はあるのです。ソーシャルベン   チャーに提供する資金が数百万円であるとすれば、国内でかなりのイノ     ベーションを起こすことができるはずです。
企業でも、たとえば楽天は2018年、ソーシャル・アクセラレータ・プログラムを立ち上げています。社会起業家に資金を提供し、同時に社員が事業改善を手助けするという取り組み。非財務的な支援に力を入れ、きちんと成果がでるようにトラックしていきます。

今の日本企業はイノベーションがないといわれます。高度経済成長期には、ある意味欧米に追いつけ追い越せで見えている目標に向かって走っていけば企業は成長できましたが、今はクリエイティブに新しい物を生み出していかないと成長できない。しかしながら、イノベーションを求めながらも組織として新事業の立ち上げが得意ではない大企業は多くあります。その一方で、従来型のCSRの文脈で資金だけを提供しているケースが多い。その2つを有機的に結びつけられれば、新規事業を取り込んだり、社内にスタートアップを立ち上げるという道筋も生まれるはずです。寄付で調達した資金をインパクトでリターンするVPのコンセプトは日本でもさまざまなイノベーションを生み出す原動力となり得るでしょう。

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