リンクスの断片ハイスクールギャンビット 転校生リンクス 5
81「あんな転校生のチビに」
初めての登校日は、強い北風が吹き付けて砂埃が舞う、そんな日だった。
僕らが住むことになったサンドマンバームガーデン、サンドラーさんのお屋敷は、イックスでも少し丘陵になった場所にある。広い道路に面しているし、近くには会社のビルが多い。サンドラーさん自身、製薬会社の会長さんだということを考えると、ここはビジネス街なのだろう。
フリーダムヒル高校はサンドマンバームガーデンから一キロくらい離れた場所にある。大きな通りを三つ超えたバスターミナルのそばだ。十分少しでつく。エーテル空間を使えばもっと速いけれど、さすがに街なかでエーテル空間への出入りは簡単にはできない。結界も多いし、突然姿が消えると騒ぎになるからだ。
初めての登校ということで、僕はセミーノフさんに学校のそばまで送ってもらった。迷うなんてことはないのだけれど、セミーノフさんも久しぶりの母校を見てみたいらしい。
「全然変わってないな。まあたった十年じゃそんなもんか」
セミーノフさんは校門から見える学校の光景にそんな事をいう。
登校時刻の校門前は、僕と同じような学生服を着た学生が次々とやってくる。校門のところには、生真面目そうな顔をしたおじさんが立っていて、登校してくる学生に声をかけている。と、その姿を見てセミーノフさんは赤面した。
「あっ!先公っ!」
先公と呼ばれたおじさんはこちらを振り返る。そして懐かしそうに笑い始めた。
「悪ガキのセミーノフくんじゃないかっ!逞しくなったな!」
悪ガキと言われてセミーノフさんは頭をかいて真っ赤になる。
「先公〜、やめてくれよ。アノ頃の俺とはさすがに違うぜ」
「ははは、今や立派な軍人さんだからな!」
そんな事を言いながら、おじさんはセミーノフさんの頭をグリグリとこつく。どうもこのおじさんはセミーノフさんの学生時代の担任だったらしい。「先公」というのは先生のことを呼ぶ言葉らしいけれど、あまり良くない表現だそうだ。セミーノフさんが高校を卒業してから国防軍に就職して、今みたいな頼もしいお兄さんになった姿を見て、先生はなんだか嬉しそうだ。
「そうだ。その子が転入生の?サンドラーさんの紹介の…」
おじさんはセミーノフさんの隣にいる僕を見て言った。その瞳には僅かな驚きが見える。異質な僕の姿に驚いているのだろう。だけどセミーノフさんはニコニコ笑って僕を紹介する。
「ああ、俺達の弟、リンクスだ。先生、よろしく頼むぜ」
「よろしくお願いします」
セミーノフさんに紹介され、僕は挨拶する。そんな僕の殊勝な態度に先生は安心したのか、笑顔に戻った。
「悪ガキセミーノフくんに比べて随分素直な子だな!」
「わはは、俺よりよっぽどいい子だからさ!」
そう言うとセミーノフさんは僕の頭を撫でて笑った。
* * *
僕は先生…オドアケル先生に連れられて校長室に行った。もちろん学校の責任者の校長先生に挨拶するためだ。それに事務手続きもある。
校長先生は少し神経質そうな、メガネを掛けた中年の人だ。髪の毛をきちんと整髪料で固めて、グレーの高級そうな背広を着ている。だけど視線はどこか落ち着きがない。なんだか何かに怯えているようにも見える。
校長先生は僕の顔を見るなり、少し困ったような表情を見せた。
「ああ、君がサンドラーさんの…」
「よろしくお願いします」
僕が頭を下げて挨拶すると、校長先生は厄介事と言わんばかりの表情を見せる。僕の外見にあまりいい印象を受けていないのだろう。
「まあくれぐれも面倒なことはやめてくれよ。じゃあ」
校長先生はそれだけいうと、僕を追い払うように手を振る。
オドアケル先生は校長室を出たところで、肩をすくめて言った。
「困ったもんだな校長にも。あ、まあ君は気にしないでいいから。校長なんてめったに会うこともないし」
「はい」
僕が頷くと、オドアケル先生は無意識に僕の頭をなでてくれた。そこから伝わってくる感情は優しい…大切な教え子のセミーノフさんから預かった僕に対する優しい感情だろう。
僕は簡単な学校生活のレクチャーを受けたあと、教室へと案内された。「学校生活の手引」という薄い冊子と、あと保護者への書類だ。教科書は事前に届いていたので、ボンサックの中に入っている。
僕が教室に入ると、一斉に視線が集まってくる。驚きと興味、それから明らかな不審感…僕の姿を見た人の普通の反応だ。いくら学ランで隠していても、地獄から来た修羅のようなカラダは隠しきれない。だからみんな僕の姿に驚き怪しんでいる。
人間族が多い…イックスの人口構成から考えると異質だ。あとは妖精族やドワーフ族…どうやら鬼族みたいな大柄の種族はいない。まあこの部屋だと大型の種族では手狭だから、このクラス編成は部屋の都合なのだろう。
もっとも僕の視界はサイオニクスの割合が強いので、外見の差はあまり気にならない。感情や持っている気のようなものが重なって見えているからだ。むしろ持っている魔力や霊的な力の差がわかる。妖精族の人は不思議な魔力を帯びているし、後ろの方の大きな人はきっと喧嘩が強いのだろう、自信に満ちた気を帯びている。
「今日からみんなと一緒に勉強するリンクス君だ。仲良くしてやってくれ」
「リンクス…です。よろしくお願いします」
先生に促されて僕はみんなに挨拶する。みんなから伝わってくる感情は様々だ。異様な筋肉体型や無表情な顔を見て不思議がる人、全身の傷跡やヘッドギアに気がついて怖がる人、背が子どものように低いのを見て馬鹿にする人…僕にとってはありふれた反応だからショックはない。わかっているのは、みんな好奇心と不安が入り混じっていることだ。僕自身が不安なんだから当たり前だ。
「君は小柄だから、そうだね、その窓際の席に…」
先生の指示で僕は窓際の前の方の席に向かう。カラダが小さいので後ろの席では黒板が見えないからだ。僕は荷物を抱えて机の間を抜けて、指定された座席へと向かった。ところが…
少しガラの悪そうな学生のそばを通ろうとしたとき、その学生は足を出してきた。躓くことを狙ってのいたずらだ。僕にとってはあまりにスローな動きだけれど、タイミングは悪くない。僕はちょっと引っかかったふりをしてよろけてみせる。みんなは緊張がほぐれたように笑い始めた。
「どんくせーっ!」
「こらこら、転校生をいじめちゃいかんよ!」
オドアケル先生は笑いながらも注意する。が、目にはわずかに驚きの感情が見える。
(!ありゃ、大した身のこなしだ!)
先生には僕がわざとよろけてみせたことがわかったようだ。もしかすると学校の先生になる前は冒険者かなにかだったのだろうか…そういえばセミーノフさんの態度も懐かしさだけでなく、敬意があった。オドアケル先生は見かけよりも腕が立つのかもしれない。
学生たちの反応も様々だ。後ろの強そうなお兄さんは、やはり僕の動きに気がついている。おそらく武道かなにかの経験があるのだろう。
僕は軽くお辞儀をして席に座った。その時僕は無意識のうちに、剣闘士の礼をしていた。カラダに染み付いた性だった。
* * *
授業というのは僕にとってとても新鮮だ。数学、理科、外国語…僕は鎖の奴隷としての記憶しかないから、知らないことだらけだ。だけど普通ならとてもついて行けない授業も、サイコヘッドギアの人工精霊が補足説明をしてくれるので、なんとか少しでも理解できる。人工精霊は僕に説明をしたくてしかたないのだろう。なんだかすごく嬉しそうだ。
(ソルジャー・リンクス、バギリアスポリスは交通の要衝で…綴りが違います、そこはLです)
嬉々として説明する人工精霊と好対照なことに、鎖の魔獣のほうは授業が退屈でしかたないらしく眠そうだ。
授業の合間には休憩があるので、僕は周りの学生たちの会話に耳を傾けていた。本当は話しかけてみたいけれど、みんな少し僕の姿が怖いのだろう、まだ誰も近づいてこない。それに休憩は十分しかないから、そんなに雑談をする時間もない。
(あいつなんだか表情少ないよな。変な装備、頭にかぶってるし)
(でも絶対喧嘩強いぜ、あの腕…)
(え?でもさっきのイタズラによろけてたじゃん。みかけだおしだって…チビだし)
(あたしより背が低いなんてサイテー。あれじゃ子供じゃない!)
みんな僕の人となりがつかめずに気になっているのだろう。男性陣は特に僕の喧嘩の腕が気になるらしいけれど、まさか僕がコロシアムや戦場の地獄から来たなんて想像もできないだろう。女子たちは僕の外見が格好良くないのでがっかりしているらしい…背が低いのが特に残念な理由のようだ。
だけど全員が僕のことを怖がっているわけじゃなかった。
「あのさ、さっきはゴメン、冗談だからさ」
さっき僕に足を引っ掛けてきたお兄さんがそばに近づいてきた。僕は少し笑みを浮かべて頷く。
「俺、ジャンクってんだ。さっきの身のこなし、びっくりしたぜ!」
ジャンクと名乗るお兄さんはそういって握手を求めてくる。やっぱり気がついていた…この人はあの絶妙なタイミングで足を引っ掛けようとしてきたのだから、結構やり手だ。だから僕が演技でよろけたこともすぐに気がついたのだろう。
僕は少し嬉しくて、ジャンクさんの手を取った。するとジャンクさんは驚きの声を上げる。
「えっ!これって本物の?パワーガントレットだ!」
ジャンクさんは僕がつけているガントレットを見て目を丸くしている。いつもつけているのでまったく気にしていなかったけれど、僕のガントレットはイックス正規軍のパワーガントレットだ。サイコヘッドギアと連動して、多機能センサーなんかが仕込まれている。イックスの兵士ならパワーガントレットは普通だから、今まで誰も咎めなかったけれど、学校にまでガントレット装備というのはちょっと場違いだったかもしれない。
「じゃあリンクスって軍人なの?」
「はい。一応…」
なんと答えたら良いかわからないので、僕は頭をかきながらそう答えた。今の僕の身分はイックス情報省所属の臨時職員でセミーノフ中尉の部下だから、一応軍属…少なくとも民間人じゃない。民間の高校に通う兵士というのはちょっと珍しい…普通なら兵学校にゆくだろう。国防軍じゃなくて情報省所属という中途半端な立ち位置なので、こういうことになっているけれど、説明するのは難しいし、守秘義務だってある。
「働きながら学校に通わせてもらっています」
「へえ〜っ!すげえな!」
「えっ!本物なのか!」
ジャンクさんの驚きの声に、他の人も集まってくる。みんな僕の装備には興味津々だ。といってもあとはブーツとサイコヘッドギアだけど…やはり本物は機能美があってかっこいいのだろう。僕にとっては他のガントレットは見たことがないので比較できないけれど。
ジャンクさんに驚かれて、今まで何とも思っていなかった僕の装備が、少しだけ特別なものに思えてきた。サイコヘッドギアが僕に告げる。
(ソルジャー・リンクス、だからクルチャドビュー博士があなたの姿を格好いいと言っているのです)
無機的にだけどサイコヘッドギアは僕をおだてる。そんな様子に鎖の魔獣はくすりと笑う。
しかしその時だった。
「おい、チビ!昼休みにツラ貸せっ!」
「‼」
突然教室の後ろの方から怒声が飛んできた。僕が声の方を見ると、そこにはイライラした表情の大柄の学生がいる。さっきの武道をやっているらしいお兄さんだ。顔だけでなく全身から腹立たしいという感情が吹き出してる。
「ちょ、いきなり何いってんだよギュエン!お前腹立てる必要ないだろ?」
ジャンクさんは驚いて大柄のお兄さんに言う。しかしお兄さんはジャンクさんの執り成しなど効果はないようだった。
「うるせえ!こいつが本当に軍のやつなら、こんな学校なんて来るもんか!」
「…」
僕は答えなかった。正確に説明しようとしたら、僕が人間じゃなくてバトルパペットだということまで話すことになってしまう。それに僕らにとっては言葉は意味がない…きっとあの人もそうだ。理性じゃなくて感情と本能の問題だからだ。
心配そうなジャンクさんに僕は静かに頷いて、大きなお兄さん…ギュエンさんの要求を受け入れた。
* * *
お昼休みになって、僕はお弁当を食べる暇ももらえず、ギュエンさんに連れられて教室を出た。少し離れて後ろからジャンクさんがついてくる。心配でしかたないという感情が伝わってくる。
僕らはグラウンドの向う側にある、体育館の裏手に連れてゆかれた。そこには何人かの、少し人相の悪い学生がたむろしている。みんな学生服を着崩して、革靴のかかとを踏み潰して履いている。髪型はまちまちで、ソフトモヒカンっぽい人やソリコミを入れた坊主頭、ばっちりと整髪料で固めた人までいる。だけどみんな僕のことを睨みつけて、威嚇している。
「おい、ギュエン、こいつは?」
「生意気な転校生だ。ちょっとしつけてやらないとな」
ギュエンさんは僕を指さしてそんな事を言った。と言われても僕だって困る。僕が民間人じゃないことは事実だし、何もギュエンさんに挑発なんてしていない。だけどあの人は明らかに聞く耳なんてなさそうだ。
(不良学生と思われます。戦闘になる可能性があります)
サイコヘッドギアは困ったような声で僕に告げる。転校初日からケンカなんてさすがにまずいのではという意味だ。
僕は不良学生達を軽く観察した。特に手ごわそうな相手はいない。たしかにギュエンさんという学生は武道をやっているようだけど、力が強いだけで動きは隙だらけだし、他の人も見かけほど強くはなさそうだ。だけど…
(まあお前なら滅多なことでは危なくなることはないと思うが、やり過ぎは控えろよ)
セイバーさんの言葉がフラッシュバックする。そうだ、僕はバトルパペット…戦争のために作られた兵器だ。殴るだけで人を殺してしまうかもしれない。じゃあどうしたらいいんだろう。
考えている暇はなかった。ギュエンさんは僕に向かっていきなり正拳突きを繰り出してきたからだ。もちろん僕には殺気が見えている。思わず軽くジャンプして、ふわりと体育倉庫の軒先に飛び上がった。
「なんだとっ!」
不良たちは僕の人間離れしたジャンプ力に度肝を抜かれている。もともとバトルパペットとして強化された筋力に、サイオニクスの力で補助しているのだ、僕にとってはこの程度の軒ならたいしたことはない。軽く飛び乗ることができる。
「あいつ、ニンジャなのかっ⁈」
「まさかっ!」
ニンジャというのはミトラの国にいる隠密の人たちだそうだ。もちろん見たことはないし、実在するのかもわからない。だけど噂では軽業がとても得意で、神出鬼没らしい。僕はニンジャじゃないけれど、たしかにアクロバットは得意だから、みんなが勘違いするのは当然かもしれない。
「おいっ!チビ助っ!逃げるのかよっ!」
あっさりパンチをかわされたギュエンさんは、真っ赤な顔になって軒に立つ僕を罵る。といわれても僕は困ってしまう…転入早々にバトルなんてしたくないし、まだお弁当も食べていない。
ところがその時だった。
「おいギュエン、何をチンタラやってるんだ」
突然現れたいかついお兄さんはそう一喝した。低くてよく通る声、肩まで伸ばした長い髪、そしてセミーノフさんを思い出させるほどのたくましいカラダつき…腰までしか裾のない短い学ランを着ている。お兄さんは鋭い目つきで周囲の不良たちを一瞥すると、彼らは一斉に黙り込んだ。
「く、クルスさん!」
ギュエンさんは真っ青になって縮こまっている。あの人はクルスという名前なのだろう。周囲の人達の様子では、間違いなくここの不良たちを束ねているリーダーだ。なにより僕のサイオニクス視界に、この人だけは力強く輝いている。舐めてかかると危険かもしれない。鎖の魔獣もクルスさんの強い闘気に警戒し始めている。
クルスさんはつかつかとギュエンさんの近くに詰め寄ると、いきなり頬を平手打ちした。
「くっ!」
「あんな転校生のチビに舐められて、おまえ恥ずかしくねえのか?」
「す、すんません!」
頬を押さえながらギュエンさんは平謝りする。だけどあの様子ではどうもクルスさんは僕にとっても助け舟じゃなさそうだ。
「おいそこのチビ…いい気になるな!」
クルスさんは僕のことを睨みつけると、いきなり懐からナイフを取り出してすばやく投げつけてきたのだ。
「クルスさんっ!それはやべえっ!」
驚いたのは僕じゃない…周囲の不良たちだ。ナイフなんかを使って、万一相手が大怪我をしたら大変なことになってしまう。
僕にはしかしクルスさんが僕を殺そうとしていないことくらいはわかっている。ナイフは急所ではなく肩めがけて飛んできたからだ。僕は軽く腕を上げ、ガントレットでナイフを弾き飛ばす。ナイフはそのままクルクルと回転して、軒に突き刺さる。
「なんだとっ!」
「クルスさんのナイフを!」
不良たちは僕がナイフをかわすとは思ってもいなかったのだろう。ショックのあまり呆然としている。しかしクルスさん本人はこれくらいではひるまない。驚きこそしても闘志むき出しで睨んでくる。
「チビ助、てめえ…」
黒い棒を握りしめ、クルスさんは構えた。あれは軍用特殊警棒?触れた敵に強力なショックを与える魔力が装填されているやつだ。民間で普通に手に入る武器じゃない…
しかしその時だった。
(敵だ!)
(ソルジャー・リンクス!)
突然鎖の魔獣が吠えた。サイコヘッドギアが警報を上げている。僕の本能がなにかを察知している。だけどそれは…違う。悪意が眼の前の相手とは違うところから僕らを睨みつけているのだ!敵はクルスや不良たちだけじゃない…誰だっ?
そいつの視線は冷たい…眼の前にいるクルスさんやヤンキーたちとは違う、冷たくて残酷だ。まるで僕らの喧嘩を実験動物のように観察している…そんな思考まで伝わってくる。にもかかわらずそれらしい人影は見えない。遠くから、僕らのことを監視していることが感じられる。よくある魔法使いの霊視だろうか?違う!学校の結界があるのに、霊視なんてできないはずだ。
間違いない、この感覚は…
僕はブーツの隠しポケットから煙幕カプセルを取り出すと、思い切り地面に投げつけた。猛然と真っ白な煙が周囲に広がり、視界を埋め尽くす。
僕はそのままジャンプして、体育倉庫の影に隠れているジャンクさんを捕まえた。
「お、おいリンクスっ!逃げんのか?」
「戻ります」
返事も待たず、僕はジャンクさんの腕をつかんで走り出した。クルスさんや不良たちと闘うことが怖いわけじゃない。僕ら鎖の剣奴には闘うことへの恐怖なんて感情はない。それよりももっと危険な事実が僕らを取り囲んでいたからだ。
(間違いありません、ソルジャー・リンクス。隠蔽モードを展開します)
鎖の魔獣、僕のサイオニクス感覚、そして人工精霊が何かをとらえている。敵意…誰かが僕らを取り囲んで監視しているのだ。普通の魔法じゃない…単純な魔法の監視は映像や声を伝えるだけだから、僕の意識にこんな圧迫感を与えない。精神を浮遊させる霊視ならあり得るけれど、結界に阻まれてしまう。意外なほど学校には結界が多いからだ。
だけどこれはテレパシーによる監視だ。間違いない、だれかがテレパシーを使って僕らの意識や思考を監視している。
こんな事ができるのは、結界を打ち破るほどの強力な精神魔法か、さもなければ結界に影響を受けづらい力しかない…それはサイオニクス…
サイオニクサーがこの学校にいるのだ。
(第28章 謎の思念波 82「シリアルナンバーがないぞ」へ続く)
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