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都市や資源の未来に「シェアリング」で向き合う

以前民主主義の主体を人間以外に拡張していく取り組みフレームワーク、みんなで管理される土地や財産を指すコモンズの再生に関する事例を紹介しました。民主主義とは何か?公共は誰が担うのか?というそもそものところの問いとして「人間の行為によって害を被るのであれば、自然存在も声をもつべきではないか?」という考え方にはハッとさせられます。

資本主義の加速とともに、人類は深刻な地球温暖化に直面しており、過去100年で0.8度の平均気温の上昇ですら干ばつ、洪水、海洋酸性化といった様々な環境の変化を引き起こしています。すでに倫理・思想的な観点だけではなく、私たちが生存していく上でも環境を破壊せず、資源を有効に活用しながら人間の営みを行っていくことは不可欠な要素になっています。

そのためには私たち一人ひとりの日々の意識ももちろん大事なのですが、そもそもの経済システムなど社会レベルからのモデルチェンジも模索されなければならないと感じます。そのなかでひとつ可能性を持つ「シェア」という考え方があります。この記事では都市レベルで共有を用いた政策を行っている事例を紹介しようと思います。

「シェア」が持つ可能性

資本主義の加速に対してなぜ「シェア」が可能性を持っているのでしょうか。例えばファッション産業の例を挙げてみましょう。私たちが何気なく普段購入し買っている衣服ですが、ファッション産業だけで地球に排出される二酸化炭素の10%を排出しています。さらに2番目に水を多く消費する産業であり、マイクロプラスチックによる海の汚染にもつながっているとされています。

これは生産にかかる環境の消費と、資本主義による廃棄の加速の2つの方向から考えられると思います。前者は少し業界に特化した話になってしまうため割愛しますが、後者の廃棄の加速というのは各業界で行われていることです。ファッション産業あれば、シーズンごとに新商品を出し、広告やPRにより買い替えを促進していきます。私たちはその慣習に疑いを持たずに暮らしていますが、その裏で「トレンドでない」だけで廃棄される前のモデルがどれくらいあるでしょうか。業界が作った流行りによって、生産により環境を消費するだけではなく、さらに買い替えを促進する構造が、産業のなかでも環境破壊につながりやすいものになっていることがわかります。

必要分を大幅に超える生産・廃棄はフードロスが問題になっている食品業界、ほかにも家電や家具、ガジェッドなど、様々な産業でいえることです。共通しているのは資本主義における構造上、成長するため、売上を伸ばすために余剰に生産し、過剰に廃棄しなければ生き残れないということです。

そんななかで「シェア」が重要な考え方になります。例えば民間の企業では、月額定額制で洋服を借りられるサービスや、車を貸したい人と借りたい人をマッチングするサービス、使っていない空間を貸し借りできるサービスなどが存在しています。これらのサービスは新たにものを生産するのではなく、遊休資産を活用している点で無駄な生産や廃棄を産まずに人々に物質の価値を届ける仕組みを提供しているともいえるでしょう。このようなビジネスモデルを「シェアリングエコノミー(共有経済)」といったりします。

では上記のような共有を活かした取り組みを行政府が実行する場合、どのようなかたちがあるのでしょうか?

カーシェアを推進するソウルの取り組み

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ソウル市のホームページより

ソウル市長室下のイノベーションラボ「Seoul Innovation Bureau」はミッションとして「シェアリングシティの推進」を掲げています。ラボ立ち上げ時、ソウルは韓国全体の20%を占める人口がさらに増え続け、汚染や交通渋滞、住宅の価格上昇など都市の成長による様々な社会課題に直面していました。そこで解決策としてシェアリングが浮上したのです。

■ カーシェアリングの普及

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代表的な取り組みとしてカーシェアリングサービスの導入が挙げられます。「地球温暖化の最大の原因」ともいわれる自動車の所有はCO2排出だけではなく、大気汚染や交通渋滞、駐車場不足を引き起こしソウルの問題のひとつになっていました。そこでソウルは市内の527か所でカーシェアリングを利用できる仕組みを導入しています。

「クルマをみんなで共有し、必要な時に必要な分だけ使う」という行動はそれだけでCO2排出削減には効果的なものとなります。カーシェアリングの普及は車の利用回数が減る→走行距離が短くなる→ガソリンの使用量が減る→結果として二酸化炭素(CO2)の排出量の削減につながるとされています。

カーシェアリングのインフラは独自でゼロからソウル市が作ったわけではなく、5つの民間のカーシェアリング企業がソウル市の認証を受けて運用しています。一般利用者は事前に登録をし、市内に点在する利用地点に行き、スマートフォンで車を開けるだけでいつでも必要な時だけ車を利用することができるようです。前述したようにシェアリングサービスは民間企業の動きも活発なので、官民連携とも相性がいい分野といえそうです。

■ シェアリング事業者の支援
さらに特定の分野のシェアリングサービスの社会実装だけではなく、シェアリングエコノミー領域の事業者に向けた支援策も打ち出しています。例えばシェアリング関連の非営利組織や企業の調査および指定。厳選されたシェアリングサービスに市の検印を押すことにより、シェアリングにへの市民の信頼を築くとともに、実証されたサービスを紹介できるというのです。

市の支援対象として選ばれたシェアリング企業には、ホームステイ紹介システム、古い家を改築してシェアハウスにする、使われていない品物の貸し借りを仲介する、カーシェアリング、子供服の交換を行う、寄付されたスーツを求職中の若者に配布するサービス、文芸・アート教育スペースのシェアリング、食事のシェアリングを行うサービスなどが採択されています。

なんだ、ただ行政が認定しただけじゃないか、と思われるかもしれませんが、シェアリングサービスの成功の鍵のひとつには「信頼性」があります。従来の企業対消費者の構図ではなく、提供者と消費者の相互の信頼に基づく利用となるためです。その点では行政のサービスとして民間のシェアリング事業者のサービスを採用し、公に利用を促進していくというのは通常のスタートアップ支援よりも親和性が高いのではないかと考えられます。

一部の事業者には補助金も支給されているというころで、行政府によるお墨付き・PR効果と金銭的な支援の2軸での支援が主のようです。

市民がシェアを主導するスウェーデン・ヨーデボリの事例

スウェーデンでは国が4年間で1200万ユーロの予算を持ち「シェアリングシティ・スウェーデン」を打ち出し、シェアリング事業の推進や調査に取り組んでいます。今回はそのなかでも、スウェーデンで2番目に人口が多い都市ヨーデボリを舞台とした事例を2つ紹介します。

■ 貸し借り可能なものをマップで可視化する

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スマートマップは、ヨーテボリ市と市民団体Kollaborativ Ekonomi Göteborgによって2016年に作られた「ローカルシェアリングエコノミーガイド」です。

このサービスではレンタル可能なものを市民がマップ上に掲載し、借りたい人が検索バーやマップから探し、貸してもいいよという人とマッチングが可能になっています。売買は禁止されており、純粋な「共有」のみが行われているプラットフォームです。

ヨーデボリ市はソーシャルメディア経由で、市民を「マップジャム」という名のイベントに招待。このイベントでは、熱心な人々のグループが短い期間、たとえば3時間集まって、自分の市や町でできるだけ多くの共有サービスをマップピングしていくということです。

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見たところ空いている部屋や、お祭りの時の服、運動器具などが貸し借りをされているようでした。なかには言語交換を目的としたディナーの募集などもあり、単純に物質的な貸し借りだけではなく、コミュニケーションを目的としたものも存在していました。

■ 子育て世代の声から生まれた「おもちゃライブラリ」

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Toy Library(おもちゃ図書館)」は2018年にヨーテボリにオープンしたスウェーデン初のおもちゃの貸し借りのプラットフォームです。

会員登録をすると、おもちゃ、子ども用、赤ちゃん用のものを借りることができるのですが、その貢献の仕方がユニークです。会員は年会費を支払うか、ボランティアをすることによってレンタルを行える仕組みになっています。

ターゲットグループは0〜7歳の子どもで、おもちゃは「環境への影響」「人体に影響がない材料」「教育法」の観点から慎重に選ばれているといいます。

おもちゃ図書館のアイディアは、住民のひとりの母親から生まれ、2020年に協会化されました。子供の最初の誕生日の直後、未使用のおもちゃで溢れ始めた体験から「なぜ私たちはこれらすべてを所有しなければならないの?」「資源の浪費に貢献することなく、たくさんのおもちゃにアクセスできる方法はないか?」という考えから生まれたとされています。

こうした仕組みから遊んでいく子どもにとってはものは買うものではなく、共有するものという価値観がより色濃くなるのでしょうか。市民発で生まれ、「共有は思いやり」というコンセプトにも優れた事例だと思いました。

おわりに

お隣の韓国では経済の発展とともに人口が増えが加速するなかでの問題解決手段として、「共有」をうまく活用しており、日本の大都市でも参考になるところが多い事例だったと思います。また民間の事業者のリソースをうまく活用し、社会課題の解決に結び付けている点でも秀でていると思いました。

一方でスウェーデンではヨーデボリという小規模な都市で「共有」が活用されていました。こちらは民間の事業者が入るのではなく、市や市民からの動きで共有の仕組みがつくられている流れでした。民間企業がマーケットとして狙いづらい人口規模の都市では、こうしたボトムアップの取り組みがフィットするのかもしれません。単純な社会課題解決ではなく、どこか人とのつながりを感じる事例だと思いました。

そう考えると、その都市や地域の有効に使える資源をどのように活かすのか?という行政府の視点は重要かもしれません。人口2,500万人に迫るソウルであれば民間企業を、人口は約52万人のヨーデボリでは市民の自発的な動機をベースにして活動が広がりを見せていました。あなたの街ではどのような共有のかたちが考えられそうでしょうか?

また、一般の消費者としても普段いかに生産し、廃棄しているか?というところは忘れてしまいがちな視点だと思います。以下の問いでこの記事を終ろうと思います。

・あなたは最近購入した買い物をひとつ思い浮かべてみてください。その製品の生産や、該当する産業はどれくらい地球の資源に影響を与えているでしょうか?
・あなたが普段行っている廃棄を抑える取り組みを教えてください

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Reference

現代思想 2017年12月号 人新世 地質年代が示す人類と地球の未来
齋藤幸平『人新世の資本論』
大量の水の使用、そして85%はゴミに…ファッション業界は環境へ大きな影響を与えている
DIGITAL SOCIAL INNOVATION - SEOUL INNOVATION BUREAU 
国連大学ウェブマガジン Our World - 次なるシェアリングシティを目指すソウル
wired - 自動車産業の変革なくして、気候変動は止められない
カーシェアが環境にやさしい理由とカレコの環境への取り組み
Sharable - Sharing City Seoul: a Model for the World 
Sharing City Sweden
Urban Sustainability Exchange - Smart Map: rent, share, exchange, borrow

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