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海のまちに暮らす vol.26|あまりぱっとしない1日

〈前回までのあらすじ〉短い旅の記憶。旅はトマトクリームパスタ/いつも不完全。どこまでも青く沈んでいきそうな美しい海と、風と、それから本。

 梅雨明けの宣言があったものの、ここ数日は雨が続いていた。まるで絞りの甘い濡れ雑巾を空の上で誰かがもう一度絞り直しているような集中的な豪雨だった。明くる朝に畑へ行くとトマトの実がたくさん落ちていた。ほとんど雨風にやられ、地面の上で少し腐敗しているものもある。銅色のカナブンがしわくちゃになったミニトマトを抱きしめるようにして果汁を啜っていたので、長靴の先で突いたら林のほうへ飛んでいった。小さいわりに迫力のある、偵察ヘリみたいな羽音をたてて。

 畑と学業と仕事と生活をどのように1日におさめているのですか──と、先日東京で会った人に尋ねられたので、図に描いてみました。ある日の過ごし方を円に押し込んでみたものです。

①5時頃に目が覚めると、コンタクトレンズを入れて顔を洗う。
②天気を確認しながら適当なものを食べて、自転車に乗って外へ出る。6時くらい。そのまま畑へ行くのですが、行かない日もある。2、3日に一回は行くという感じです。雨が降っていたり、気分がのらない日は家で別なことをする。
③畑から帰ってくると、全身に汗をかいているのでシャワーを浴びる。髪を乾かして、衣服のすべてを洗濯機に放り込んで回す。
④出勤まで時間があるので、原稿を書く。その時々、身の回りにある書くべきものに手をつけます。
⑤自転車に乗って図書館へ。10分以内で着きます。自転車もまさか午前中に2度も駆り出されるとは思っていないかもしれない。
⑥図書館で働く。この日は古くなった蔵書のラベルを貼り直したりしていた。気になる本をメモに書いておいて、帰りに借りる。
⑦昼にあんパンを食べる。できればこしあんが良いのだけれど、つぶあんだった。別につぶあんに憎しみを持っているわけではない。
⑧仕事が終わって自転車で帰る。駅前の坂を降りながら空の様子を観察すると、明日の天気がだいたいわかる。
⑨冷蔵庫の中のもので適当に何か作って夕飯を食べる。畑で採れた甘長唐辛子と豚肉の炒めと四川風ピクルス。
⑩風呂から出ると7時半くらい。眠くなるまで作業をする。個人的な制作をしているか、本を読んでいることが多い。9時を回ると寝てしまう。夜更かしはほとんどしない。

 以上が僕の、平均的な1日の進行です。とりたてて面白いものではないのですが、日々、自分がどういうふうに時間を区切って生活しているのかということを目に見える形で表してみると、何を大切にしているかがよくわかります。僕の場合はある程度のまとまった睡眠が日中のパフォーマンスに深い関わりを持っているみたいです。きちんと眠れてさえいれば、ある程度の肉体的な無理は効くようですが、ひとたびそのリズムが崩れてしまうと損なわれた欠損を埋め合わせるのに人よりも長い時間がかかる。そういう明白な欠点の意識のようなものが僕を比較的早い時間に寝かしつけ、午前中に肉体的な運動を課し、規則正しい連続性の中に生活を据え置くことを要求し続けているらしいのです。

 それからやはりこういうものは個人的な経験と体質が影響するようなので、人によってさまざまなのだと思います。いろいろな人々の1日の様式図を一度に覗きみることができたらなかなか面白いかもしれない。そこには地理性に紐づけられた文化があり、個人的価値観と現実のせめぎがあり、衣食住を取り巻くスタイルの変遷があるだろうから。

 ということでよろしいでしょうか。僕の1日は今のところこんな風です。


vol.27につづく


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