見出し画像

映画評 パスト ライブス/再会🇺🇸

Copyright 2022 (C) Twenty Years Rights LLC. All Rights Reserved

第96回アカデミー賞にて作品賞と脚本賞にノミネート、第81回ゴールデングローブ賞作品賞含む5部門ノミネートされるなど、賞レースで注目の的となった本作は、運命に惑わされる男女をロマンティックに描いた暖かくも切ない恋愛映画であった。

ノラとヘソンの関係性及び2人が紡ぐ人生を”運命”以外に括ることはできない。12歳で離れ離れになり、24歳でオンラインを通じて再開するもすれ違い、36歳でNYで直接再開する。韓国語でイニョン(인연)和訳すると”縁”や”運命”という言葉が度々、台詞の中で出てくるように、2人は前世(Past Lives)で繋がっていたのかもしれない。理論では語れない何かが2人を惹きつけ、時に2人の距離を開かせる。

「サヨナラ」を言えなかったヘソンは未練を残す。12年の時を経てもfacebookを通じてノラを探し出している行動が何よりの根拠だ。『ソーシャル・ネットワーク』のラストや『秒速5センチメートル』で無意味に携帯を弄る仕草と通づるものがある。さらに12年の時を経て36歳になったヘソンはノラと直接再開し思い出話に華を咲かせながらも「もしかしたら結ばれていたかも」といった if を語る。こんな未来が待っていたかもしれないと想像するヘソンは『ラ・ラ・ランド』のラストを放物とさせられる。

一方ノラも適度に未練を残している仕草を垣間見せる。NYに馴染み、公用語が英語に変わり、ヘソンのことを忘れ、舞台演出の仕事も充実するなど一見すると未練が無いように見える。しかしヘソンと再開し思い出話に華を咲かせているうちに、蓋をしていた思い出が蘇り感情が湧き出る。「いつニューヨークにくるのか」と何度も聞き、「ソウル行きの便ばかり調べてる」と仕事に支障が出たことで、オンラインでの再開を中断させることになる。また、ヘソンに、思い出を遡り関係性を再構築していく『エターナル・サンシャイン』の鑑賞を勧めたことから、12歳の頃に戻りたい気持ちが溢れ出る。

ノラは韓国では泣き虫ではあったが、移住先のトロントで「泣いても誰も気にしてはくれない」と悟り、強くならないと考える。感情を押し殺し、思い出に浸らないことで、移住先で馴染もうとし前を向こうとしていたのかもしれない。『ミナリ』で韓国から移住してきた韓国人一家が異国の地で故郷に思いを馳せながらも前を向こうとする姿には、移住する者ならではの感情なのかもしれない。

Copyright 2022 (C) Twenty Years Rights LLC. All Rights Reserved

ノラとヘソンの人物造形を紐解く上で、ノラの結婚相手であるアーサーの存在は欠かせない。自らを「運命を阻む邪悪な米国人」と自虐するチャーミングさを見せつつも、「勝ち目がない」と本音を漏らすように、夫のアーサー視点からも24年ぶりに再開する2人の関係性は、まさに”イニョン”で結ばれていると言える。バーで飲み直すシーンでは、ノラとヘソンが韓国語で思い出話に華を咲かせてる横で、アーサーの気まづい表情はなんとも居た堪れない。

バーでの席順は時の流れのメタファーだ。一番左のヘソンは1番の過去でありながら、未来を見つめる。if を語り、来ることのない未来を妄想しつつも、見つめる先は大人になったノラと夫のアーサー。真ん中のノラは、ヘソンという過去の思い出と未来のアーサーの板挟み。思い出に浸り華を咲かせつつも、来ることのない未来を憂い、自分の”イニョン”はアーサーである現実に引き戻される。そして、アーサーからすれば、知る由もない2人の過去だ。アーサーが1人入ったことで、登場人物それぞれの立場と今何を考えているのか明確になる。

ラストシーンのウーバーを待つヘソンと見送るノラの無言と24年前の別れのショットは、再び別れることを示唆する。ヘソンは「サヨナラ」の代わりに来世で結ばれようと言葉を残し、ノラは涙を流しつつもアーサー(イニョン)と共に未来を歩んでいく。未練を残すことなく、それぞれの未来へと歩み始める。

この記事が参加している募集

スキしてみて

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?