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映画評 サン・セバスチャンへ、ようこそ🇪🇸

(C)2020 Mediaproduccion S.L.U., Gravier Productions, Inc. & Wildside S.r.L.

ハンナとその姉妹』『ミッドナイト・イン・パリ』のウディ・アレン監督による、スペインで開かれる映画祭「サン・セバスチャン映画祭」を舞台とするロマンティック・コメディ。しかし、退屈極まりない作品といっても過言ではない駄作であった。

かつて大学で映画を教えていたモート・リフキン(ウォーレス・ショーン)は、人生初の小説の執筆に取り組んでいる。映画の広報の妻スー(ジーナ・ガーション)に同行し、サン・セバスチャン映画祭に参加。スーとフランス人監督フィリップ(ルイ・ガレル)の浮気を疑うモートはストレスに苛まれ診療所に赴くはめに。そこで医師ジョー(エレナ・アナヤ)とめぐり合い、浮気癖のある芸術家の夫との結婚生活に悩む彼女への恋心を抱き始めるが。

本作は主人公のキャラ設定やストーリー展開まで、『ミッドナイト・イン・パリ』に酷似している。創作活動に行き詰まり、妻の浮気が頭痛の種で、アレン監督を投影したかのような神経質。極め付けは、現地で出会った女性と恋に落ちること。毎年1本のペースで作品を発表してきたアレン監督作品に、同じような話があるのは致し方ないのかもしれないが、あまりにもオリジナリティにかけており、志の低さを指摘せざる得ない。

(C)2020 Mediaproduccion S.L.U., Gravier Productions, Inc. & Wildside S.r.L.

邦題はモートの苗字をなぞった『Rifkin's Festival』。モートがこれまで見てきた映画に入り込む妄想を通じて、アレン監督が思入れのある作品をオマージュするという、アレン監督による映画祭なのだ。『8 1/2』をベースとし、『市民ケーン』『勝手にしやがれ』『男と女』『突然炎のごとく』『仮面/ペルソナ』『野いちご』『第七の封印』『皆殺しの天使』の9つの作品が、アレン監督を形成し、のちに作家として影響を与えてきた映画たちだ。

しかし、モノクローム映画のワンシーンに主人公が入り込む映像的フックも面白さに繋がってこない。あくまでも、監督自身による思入れのある作品らを登場させるための、オマージュを目的としたオマージュでしかないからだ。つまり、アレン監督の好きなシーンを詰め込んだサンプリングだ。また、映像的フックがオマージュであることが明らかに分かるというのもオリジナリティに欠ける。昔の映画が好きな自分という自己陶酔に浸っている自己満足なのだ。

(C)2020 Mediaproduccion S.L.U., Gravier Productions, Inc. & Wildside S.r.L.

そして何より、本作が詰まらない映画になった決定的な要因。それは、サン・セバスチャンが舞台として機能していないこと。スペインが舞台にも関わらず、ほとんど描かれているのは、オフィスビルのような映画祭の会場、スイートルーム、そしてモノクロームの映画の世界だ。無論、極僅かながら美術館やビーチに赴くシーンはあるものの、展示品を堪能したり、泳いだり遊んだりするようなことはない。会話内容も場所とは関係の無いため、事務的に登場させたようにしか見えない。

ここでも『ミッドナイト・イン・パリ』との比較になってしまう。同作は主人公がパリに憧れており、雨に打たれながら歩いたり、下町の本屋で古本を買うなど彼なりのパリの堪能の仕方があった。また、フランスの歴史や文化にも詳しく観ている方も勉強になる。極め付けは、90年前のパリにいたかのような体験ができること。つまり、パリがストーリーに機能しているのだ。

一方で本作は、サン・セバスチャンである理由がない。夫婦喧嘩と新たな恋に目覚め距離を縮めていく過程がメインのお話であるため、ニューヨークに置き換えることも可能だ。さらに映画祭が舞台として機能してない。アレン監督がモデルとなった映画祭に思入れや愛情がある訳でもなければ、批評性もない。ストーリーに絡んでこないどころか機能すらしていないため『ミッドナイト・イン・パリ』の劣化版なのだ。

自身の過去作焼き回し兼サンプリング映画というウディ・アレン監督の腕が落ちすぎたのではないかと心配になる映画であった。

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