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映画評 貴公子🇰🇷

(C)2023 GOLDMOON PICTURES & STUDIO&NEW. All Rights Reserved.

新しき世界』『THE WITCH 魔女』シリーズのパク・フンジョン監督による、莫大な遺産を巡る攻防に巻き込まれた青年と自らを”友達”と名乗る謎の男「貴公子」による執拗な追跡を描くアクションノワール。パク・フンジョン監督の作家性が垣間見える一方で、アクションの描き方には疑問符が湧く内容であった。

冒頭、囚われた貴公子が椅子に括られたところを脱出し、『イコライザー』のマッコールのような手際の良さで、敵を斬殺するシーンは、まさにパク・フンジョン監督作品に登場するキャラクターを体現しているといえよう。『V.I.P 修羅の獣たち』のキム・グァンイル『THE WITCH 魔女』の英語を話す謎の男(役名クレジットなし)のような、好青年の見た目からは想像できない残忍性に満ち溢れたギャップには釘付けになる。

また、『時計じかけのオレンジ』のアレックスを参考にしたというキム・ソンホの演技には、残忍性とコミカルさが融合され、暴力や殺伐とした状況を楽しんでいるかのようなサイコパスに仕上がっている。貴公子の殺し屋としての実力やキャラクター性を短い時間で描き切れた冒頭は、期待感を抱かせる最高の滑り出しを切ることに成功している。

パク・フンジョン監督の作家性はストーリーにも多く反映されている。父親に会うためにフィリピンから韓国に赴いた貧しい青年マルコは、巨大財閥グループの後継者争いに巻き込まれる。自身が意図しない組織問題に飲み込まれていく様子は『新しき世界』のイ・ジャンソンを放物とさせられる。マルコ、貴公子、父親、血の繋がらない兄弟たち、財閥を支える弁護士らといった様々な立場の思惑によって、血は血で争えない攻防に発展する展開は『新しき世界』や『V.I.P 修羅の獣たち』のエッセンスが垣間見える。キャラクター描写及びストーリー展開から、本作は監督の作家性を堪能できる一作と言えよう。

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フィリピンでの展開は、貴公子の残忍性やマルコを探す財閥グループの陰謀というフックなど面白い展開が多かったのだが、韓国に入ってからの展開はイマイチであった。まず貴公子がプロの殺し屋としては間抜けすぎる。追いかけっこを楽しんでいるかのように、目と鼻の先にいるマルコを追いかけ回すのだが、挙げ句の果てには逃げられる。『ターミネーター』を意識したとされているが、『13日の金曜日』の徒歩にこだわるジェイソンのようだ。再び追いつき、ついに捉えたかと思いきやマルコの腹パンチをくらい、再び取り逃す。冒頭の強さは何処へ行ったのやら。

貴公子がマルコを捉える目的は金銭を強請るためなのだが、尚更追いかけっこを楽しんでいる暇はない。さっさと捉え交渉に持ち込むほうが無駄な動きをせずに済む。プロを自称してるにも関わらず非効率を選ぶほうがリアリティがない。と言いつつも「僕はプロの殺し屋」と何度も連呼しているため逆に怪しく、正直腕前に関しては信用はしていなかった。だがここまで非効率的な行動を取り続ける貴公子はやはり間抜けに見えてしまう。

ラストの銃撃戦は『THE WITCH 魔女』の劣化版だ。ただでさえ、何処に誰がいるのかよく分からないにも関わらず、撮影の手ブレ補正がかかっていないため、銃撃戦が起きている状況把握以外に頭の処理が追いつかない。取り囲んでいる多人数をいっぺんに相手しなければならない弊害が起きてしまったといえよう。

貴公子は多人数相手に圧勝するのだが、主人公補正がかかっているようにしか見えない。『THE WITCH 魔女』も似たような展開が終盤にあるのだが、そもそも最初から部が悪すぎる前提知識があったため飲み込むことができた。しかし貴公子は、殺し屋といえども生身の人間で実力差的にはそこまで変わらない。もし貴公子が『イコライザー』のマッコールのようなプロフェッショナルさを突き詰めるか、『ジョン・ウィック』のように怪我をしていたとしても目的遂行のためには手段を選ばず諦めない残忍性を持ち合わせていれば、貴公子の圧勝も飲み込むことができたかもしれない。

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