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映画評 変な家🇯🇵

(C)2024「変な家」製作委員会

2024年、今年一番のサプライズは『変な家』に間違いない。YouTuber雨月氏による、家の間取りを用いて展開されるミステリー小説を原作とする本作は、封切りから4週連続のVを獲得し、興行収入も30億を突破するなどの大ヒットを記録している。だが肝心の内容は「この間取り、なんか変なんです」ならぬ「この映画、なんか変なんです」と言いたくなるような内容であった。

基本的に筆者のスタンスを明確にさせていただくと、酷評よりだ。大ヒットを記録しているということから、どんな内容なのか気になって鑑賞したが、「なんでコレがヒットしてるの?」と懐疑的ではある。「世間の多くの人が観ているから」という動機で鑑賞した自身のミーハー心に落胆する日は最後にしたい気持ちになった。

だが良いところは2つある。1つは本作の肝である間取りを用いた推理描写だ。窓がない子供部屋に間取りを重ね合わせると見えてくる謎の空間。しかも家の近くで奇妙な殺人事件が起きていることから、ホラー系YouTuberとして活動している雨男(間宮祥太朗)と建築技師の栗原(佐藤二郎)による間取りから推測される仮説の数々には鳥肌が立ち、恐ろしい出来事に足を踏み入れてしまった感覚を体感できる。また、ホラー系YouTuberとしてのホラー知識と建築技師としての専門知識の融合は、恐ろしさに説得力をもたらす効果を発揮できていだといえる。

もう一つは、雨男によるマクガフィンだ。冒頭にYouTubeの再生回数が減少し、マネージャーから過激な動画を撮るよう催促されている様子が描かれていることから、再生回数欲しさに危険を顧みず、間取りを調べ、対象の家に足を踏み入れる潔さが、本作を見やすさを最低限担保させることができた。また、ミステリーの謎の鍵を握る柚希(川栄李奈)のためを思いつつも、カメラを回しているところから、YouTuberとしてのプロフェッショナルさや再生回数を求めるために行動しているという軸のあるキャラとして、惹きつける魅力がある。

(C)2024「変な家」製作委員会

ただ筆者が冒頭でも記したように、筆者の立ち位置は酷評よりだ。見せ場になるはずのシーンが色々なところでディティールが甘すぎる。雨男が変な間取りの家に土足かつ無断で侵入するのも大概だが、売りに出されてる物件であれば不動産屋に連絡して内見すれば良いだけの話だ。しかも家の中、特に例の子供部屋に関しては、この状態で売りに出そうとしているのかと不動産屋の舐めた仕事ぶりに憤慨した。仮に内見希望者が内見時に例の子供部屋を見たらビックリするに違いない。リフォームをするなど事故物件であることの違和感を隠すような努力はするべきだろう。

本作は間取りを用いた仮説を立て立証していくミステリーが肝なはずだ。しかし、家に侵入する件然り事件の真相に辿り着いた先で起こる展開は、もはやオカルトホラー映画だ。山奥の田舎に存在する集落が舞台となり、田舎ならではの閉鎖感(個人的には偏見的ではある)や狭いコミュニティによって培ってきたであろう悪しき伝統、世間と断絶されたことで生じる殺伐とした雰囲気、そして行われるオカルト的儀式。間取りミステリーはどこへ行ったのやら。

怖がらせ方はクリシェで、何かに取り憑かれたかのような人や見るからに怪しい人が襲いかかってくる 見た目通りの展開。お化け屋敷的な瞬間的怖さはあるものの、次第に飽きてくるため、興味の持続は無い。チェンソーで襲いかかる描写には空いた口が塞がらない。しかも肝心なオカルトのルールは曖昧にされる杜撰さで、行われていることの整合性がなく、無意味さが際立つため時間の無駄だ。

本作の肝でありながら他の作品にはない間取りミステリーという強みを益々手放す作り手の愚策としか言いようがない。原作者である雨月氏がSNSで原作小説の宣伝はしているものの、映画には一切触れていないことから、雨月氏による煮えたぎる想いがあるのかもしれない。

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