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映画評 ゴジラxコング 新たなる帝国🇺🇸

(C)2024 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

ゴジラ』と『キングコング』のリブート映画『ゴジラVSコング』の続編で、『GODZILLA ゴジラ』から始まった、モンスター・ヴァースシリーズの第5作目。怪獣たちによる迫真の演技が観れるという革新的な映画であると評価できる一方、今後のシリーズ展開に不安を残す内容であった。

本作における怪獣と人間の役割は過去の怪獣映画と類を見ないほどかなり歪だ。怪獣映画の基本構成は、人々の生活圏に怪獣がやってくることで巻き起こる人間ドラマや人間視点で描かれる戦闘がメインで描かれる。怪獣はあくまでも人類の脅威の象徴であり、乗り越えるべき障壁の役割を担う。

しかし、本作における怪獣と人間の役割は一変する。というのも本作の主人公はコングで、コングが悪い怪獣たちから地球を守るお話になっており、そこにゴジラやモスラが加勢する。乗り越えるべき障壁は怪獣であることには変わりはないが、人間ドラマならぬ怪獣ドラマが展開されるという異様な映画なのだ。

コングとゴジラをはじめとする怪獣たちが演技をしている間、人間たちは状況説明をするかオーバーリアクションを取るかのどちらか。完全に怪獣たちが主役で人間たちは添え物になっている。自分の居場所について葛藤する人間ドラマは一応申し訳程度に描かれてはいるが、希薄さは否めない。その分、怪獣たちのドラマに集中させる本作の狙いは見えてくる。

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まず、コングの演技が非常に上手く、表情や鳴き声のトーンで喜怒哀楽を巧み表現している。そのため、コングが何を考えているのか読み取りやすく、状況が理解しやすい。人類の脅威となる恐ろしい怪獣から非常に人間味のある感情移入しやすい怪獣として描かれる。

これまで怪獣や動物が主人公の映画は沢山あるが、凌駕するほどのコングの演技力で魅せる映画と言っていい。本作における演技が一番上手かった役者は誰かと答えるのであれば、間違いなくコングを選ぶ。

次に演技が上手かった役者を選ぶとするならばゴジラだ。敵を目の前にした時に襲いかかるギラギラした表情は本作も健在だが、特にコングを目の前にした時のやる気は迫力に満ち溢れる。しかも真横で迫真の演技をしているコングとの対比も相まって、ゴジラの暴君ぶりが見事に際立つ。

また、モスラに宥められ、言うことを聞き、コングと共闘するようになってからのゴジラは、暴君から打って変わって仲間のために立ち上がるライバルのようなカッコ良さがある。恐ろしい演技の引き出しを沢山持っているゴジラにもコング同様賞賛に値する。

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コングには感情移入し、ゴジラはカッコ良さの引き出しで魅了する。そのため、見やすい映画に昇華された。しかし、怪獣としての本質及びシリーズにおける怪獣の役割がブレてしまったのも確かだ。

怪獣らは基本的には、恐ろしく人間の脅威となる存在でなければならない。ゴジラは当然ながら、人類の守護神であるコングでさえも同じ。『キングコング:髑髏島の巨神』ではコングの守護神としての一面と、時に人間に牙を向く凶暴な怪獣としての一面、両方描けたことで怪獣としてだけでなく、ヒーローとしても描くことに成功していた。

また、前作の『ゴジラVSコング』では、敵対する相手のゴジラと対峙することにフォーカスを当てていたことで、戦いに巻き込まれかねない人類の脅威として恐ろしい存在感が際立っていた。しかし本作のコングに恐ろしく人類に対する脅威的な存在感は薄れている。演技で魅了し、考えていることが理解できる分、人間味を感じてしまう。感情移入し易くなったが故の負の側面と言えよう。

しかもいつの間にか人類と仲良くなっているのも頷けない。コングは歯を治療してもらうために人間に助けを求める。また、腕が凍傷になった際も、人間に助けを求める。人と仲良くなっているコングには、いつ牙を向いてもおかしくない脅威的な存在が微塵もなく、正しく牙を抜かれた状態だ。

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ゴジラに関しては、可愛いキャラになっている。散々暴れ回った挙句、コロッセオでお昼寝する姿は可愛いが、破壊神という異名はどこへ行ったのか。また、コングの事情を知らないで襲いかかる様子に、観客は目的を理解している分、若干間抜けに見えてしまうのも気の毒になる。それでも本気でやり合おうとする分、可愛く映ってしまう。

怪獣たちが恐ろしくなく、感情移入できるマスコットに成り下がってしまったことで、今後新作を通じて恐ろしい一面を見せられても、恐ろしさは半減してしまい説得力に欠けてしまう。逆に恐ろしさ全振りにしても「何か違う」と微妙な感触を確かめることになる。

可愛いキャラとして定着したゴジラとコングを再び恐ろしい怪獣に戻すのは至難の業だ。後にも引けないこの状況から、どのようにして本来の恐ろしい怪獣に戻すのか見ものではある。

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