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映画評 ある閉ざされた雪の山荘で🇯🇵

(C)2024映画「ある閉ざされた雪の山荘で」製作委員会 (C)東野圭吾/講談社

東野圭吾原作の同名小説を『ステップ』『ヒノマルソウル〜舞台裏の英雄たち〜』の飯塚健監督で映画化したサスペンスミステリー。しかし、ミステリー映画として成立しているのかと疑問を呈さざる得ない内容であった。

劇団に所属する7人の役者のもとに、新作舞台の主演の座を争う最終オーディションへの招待状が届く。オーディションは4日間の合宿で行われ、参加者たちは「大雪で閉ざされた山荘」という架空のシチュエーションで起こる連続殺人事件のシナリオを演じることになる。しかし出口のない密室で1人また1人と参加者が消えていき、彼らは互いに疑心暗鬼に陥っていく。

映画冒頭、オーディション参加者の久我和幸(重岡大毅)を除く、6名全員がアイマスクをつけたままバスに揺られるシーンから始まるのだが、ドッキリ番組のような絵面だ。しかも公共バスで移動しているため、頭がおかしい集団にしか見えない。また、オーディション会場は、山や森の奥地といった人目のつかない場所ではなく、人通りのある海が見える道路沿いに位置する別荘。これから事件が起こる場所としては、あまりにも不細工すぎる。

6人が会場に到着すると、先に久我が待ち構えている。久我は一人一人に挨拶がてら、名前を呼んで登場人物の説明をする。誰が企画に参加しているのかを視聴者に呑み込みやすくするためのバラエティ番組の演出だ。さらに会場に入ると、大塚明夫ナレーションでオーディションの説明が語られるのだが、バラエティ番組で聞き慣れているため、より密室脱出バラエティにしか見えなくなってしまっている。

(C)2024映画「ある閉ざされた雪の山荘で」製作委員会 (C)東野圭吾/講談社

本作は登場人物の掘り下げが不十分であるため内容が薄い。本作のフックは、逃げ出したい所を踏み止まる心理描写だ。毎晩一人ずつ消えるという事件が起きている状況下でも逃げ出さないのは、主役の座をかけたオーディション。つまり監督による演出の可能性があるからだ。そして一番早く謎を解き明かした者が主役の座を勝ち取る。オーディションに参加している7人の主役候補全員が、主役を射止めたい想いや役者として演技に対する熱量が重要になる。しかし、これといった想いや熱量がなく深く掘り下げられることはない。

「講演直前になって主役の座を降ろされた」「令嬢だから役をもらえていると思われている」など面白くなりそうなフックがあるにも関わらず、基本プロフィールとして述べるだけに留まり、掘り下げられない。そのため、最終選考に残った主役候補というよりかは、無作為に集められた7人でしかない。演技・役者がテーマの本作においては致命的だ。

そもそも論、本当に主役の座を狙っているように見えない問題もある。主役の座を勝ち取ることができるのは、一番早く謎を解き明かした者だ。例え本当の事件である可能性があったとしても、人間関係が拗れそうになるまで執念深く疑い、互いの推理をぶつけ合うくらい議論をし、誰よりも躍起になって謎を解き明かそうとするはずだ。しかし、誰一人と真剣に事件の謎を解き明かそうとする様子は見てとれないため「早く帰った方が良くないか」と思わざる得ない。

主役の座を狙ってるように見えないということは、推理描写もほとんど描かれていないことになる。聞き込みや現場検証をしてないことは無いが、ミステリー映画としては少なすぎるため、事件の謎を解き明かしたとしても説得力が低い。犯人の動機に至っては、犯人の口から説明される始末。『名探偵ポアロ』シリーズなどのミステリー作品は常に聞き込みや現場検証を行なっているため、解決描写に説得力が出てくる。また、事件を解決しようとする過程で人の豪も明らかになるため、犯人の動機も頷けるものがある。本作では解決描写も犯人の動機もすべて唐突感が否めない。後者に関しては後付けのように見て取れた。

バラエティ番組のような序盤に面食らったが、肝心な人間ドラマは薄っぺらく、ミステリーをやろうとせず上辺だけのやり取りで解決させる。こちらの志の低い姿勢の方が狼狽ものであった。

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