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自己調整学習理論ー学習方略 ~自ら学習方略を獲得することの意味~

自己調整学習理論において目指されている学習者像は、学習活動に取り組むにあたって自ら「見通し」をたて、その見通しに沿った学習活動を「遂行」し、遂行した学習活動を「省察」することによって自ら学習サイクルを回していくというものです。
自己調整学習理論の先行研究に基づき、このサイクルを回していくために必要な要素が、「学習方略」「動機づけ」「メタ認知」そして「学習観」であると、主体的学びを科学する研究会では捉えています。

今回は、「学習方略」に焦点を当ててみたいと思います。
学習方略とは、端的に言えば「学習活動を進めるにあたってのやり方やその工夫」のことです。
例えば、読者のみなさんは英単語を「暗記」する時にどのようにして暗記をしますか?
・ただひたすら書く
・とにかく声に出して読む
・記憶したものを思い出しながら書き出すということを繰り返す
これらはすべて、「学習方略」です。

認知心理学の領域における研究が進む中で、明確に「効果が認められる」という学習方略があります。
つまり一般原則として、高い学習成果が得られやすい学習方略というのは存在しています。

ただ、それらの学習方略をただただ無検討に機械的に取り入れるということで主体的学習は促進されるのでしょうか?
「なるほど!そうやればいいのか!では、研究成果として示されているものその通りに学習を進めていこう。」ということが、果たして本質的に主体的学習なのか?という問いです。

学習方略の獲得には、そのプロセスにおける試行錯誤にも大きな意味がありますし、そもそも、個々の認知特性の違いによって合う学習方略と、そうではない学習方略があるはずです。
しかしながら、英単語テストの結果が良くなかった生徒に間違えた単語をテストの裏に10回ずつ練習させて、再テストを行う。
数学の計算テストで不合格だった生徒を放課後に呼び出し、類題を徹底的に繰り返し解かせて再テストに臨ませる、というようなことが現場ではよく行われているのではないでしょうか。

もしかしたら、上記のような「反復方略」が合わない児童・生徒にとって、それらの取り組みというのはただの「苦行」「作業」になっていて、かえって学習に対するネガティブな捉え方を強化してしまっているかもしれません。

では、どのような働きかけや活動が有効なのでしょう?
それは、学習のやり方や工夫にはどのようなものがあるのか、ということを伝え、その枠組み(学習のやり方や工夫)を活用して学習を進めることができるような支援を行うということです。

学習がうまく進んでいないという学習者は、往々にして、何をすれば良いのかが分からない、そもそもどうすれば良いのかのイメージが持てないために学習に取り組むこと自体が困難、という状況に陥りがちではないでしょうか。
あるいは、とにかく繰り返し、とにかく量をこなす、という学習を求められることによって、「学習は量が大事」「学習は過程ではなく結果が大事」「結果が良くないのは量が足りないからだ」という価値観が強化されてしまっているということもあるかもしれません。

だからこそ、効果があるという学習方略をゲームの攻略本を参考にするがごとく取り入れるということではなく、自ら学習の進め方を工夫しながら自分なりの学習方略を構築していくという過程が大切なのであり、その過程を有効に進めるためにも「枠組み」を示す、ということが重要になるのです。
そうでなければ、本質的に主体的に学びに取り組む態度を養うことは難しいでしょう。

枠組みを示すということについて、ひとつは数ある学習方略を明示的に示し、「学ぶ」ということがどういうことなのかを児童・生徒に伝えていくということが挙げられるでしょう。
意外にも、このような取り組みはそれほど多くは実践されていないのではないでしょうか。

また、もうひとつには、教科独自の学ぶ視点を提供していくということも枠組みを示すという取り組みのひとつであると整理できると思います。
例えば、社会科は暗記すれば良いという考え方を持つ児童・生徒は少なからずいると思います。一方、歴史でいえば、歴史的事象をアナロジーとして捉えて今の社会的出来事を整理する力を養う。原因と結果を対比的に捉えることによって、物事を論理的に整理する力を養うなど、それぞれの教科を学習する際に持つべき「独自の視点」があるはずです。

残念ながら、それらの視点を持ち合わせている児童・生徒というのはそれほど多くなないはずです。
学習のやり方や工夫に加えて、こういった視点を明示的に示していくということもまた、学習方略の獲得に向けては必要なことになります。

次回以降、この学習方略にフォーカスした実践を紹介していきたいと思います!

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