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トップアスリートのココロとカラダ 「感謝」は人を強くする?

 賛否渦巻く大混乱のなかで開催されたオリンピック・パラリンピック東京2020大会。スポーツに関心がない人からすると、冷めた感じで観ているかもしれませんが(むしろコロナの第5波が心配?)、選手たちのパフォーマンスはかつてないほどの素晴らしさで、連日のメダルラッシュが続いています。

 特に驚いたのが、柔道。今までこれだけの金メダル数を獲得した大会を見たことがありません。日本発祥の競技ゆえ、必勝が義務付けられ、4年に1度というプレッシャーも相まって、選手によっては地に足のつかないパフォーマンスで敗れてしまうことも多く見られました。

 しかし、今回出場した選手たちには、いつものオリンピックとは違う雰囲気を感じました。ココロとカラダがピタッと一致して、浮ついたところがないのです。どんな逆境に追い込まれても、自分の柔道を徹底して貫く、そんな態度が印象的でした。

キーワードは「感謝」

 いつもと違うな〜と感じたのは、選手たちのインタビューにも現れていました。

 かつては当たり前のように用意されていた五輪の舞台。開催すら危ぶまれた状況のなか、実はそれが当たり前ではなく、選手たちのために最高の舞台を用意し尽力してくれた人々の思いがあるという事実。

「多くの人に支えられ、自分は今この舞台に立てている」ということを、これほど選手たち自身が実感する大会はなかったのではないでしょうか?

 そこから自然に出てくるのは、「感謝」という言葉。

 嘘偽りのない「感謝の念」というのは、これまで私自身が取材してきた多くのトップアスリートたちからも共通のキーワードとして挙げられた言葉でした。

「打って反省、打たれて感謝」

 武道は「礼に始まり、礼に終わる」とよく言いますが、その正しい意味を私に教えてくれたのは、数年前に亡くなられた昭和の剣豪・千葉仁(まさし)範士八段でした。全日本選手権を3度制覇した伝説の名剣士です。

 武道では、相手と対峙するときはもちろん、道場への出入りのときも礼をします。

 単なる礼儀作法なのかな〜くらいに思っていましたが、千葉先生は、「相手があって、初めて自分の技を磨くことができる。自分を成長させてくれる相手に感謝するのは当然のこと。だから礼をするんだよ」とおっしゃいました。

 目から鱗でした。
 道場に礼をするのも、「この場があるおかげで自分を磨けます」という感謝の意。

 さらに相手を打ったら奢らずに反省し、打たれたら「課題を与えてくれてありがとう」と感謝する。まさに稽古相手に感謝しながら、心のこもったPDCAを回して自己の成長を目指していく、それが武道のココロだったのです。

挫折で知った感謝のココロ

 柔道家で思い出すのが、故・斉藤仁先生です。斉藤先生もロス五輪とソウル五輪で金メダルを獲得したレジェンド。私が取材した当時は北京五輪の柔道男子監督で、書籍を3冊ほど担当編集としてご一緒しました。

 ロス五輪はイケイケの勢いで優勝し、一躍注目を集めたせいで「驕り高ぶってしまった」と語っていました。それが、大きなケガをきっかけに状況が一変。畳の上に立つことすらできず、次回のソウル五輪出場も危ぶまれました。
 
 どん底の状況で出会ったのが、リハビリ施設で一緒だったご年配の方々でした。その必死にリハビリを続ける姿を目にし、「自分はなんて小さい人間なんだ」と奮起し、さまざま人々の助けを借りながら、どん底から這い上がって見事ソウル五輪で優勝。

 ソウルで畳の上に立ったときは、「支えてくれた人や応援してくれている人たちへの感謝の思いしかなかった」と語っていました。

感謝は人を強くする?

 スポーツで世界の頂点を目指す戦いは、相当なプレッシャー。そこで揺るぎないメンタルを保つのは難しいものです。その苦境を勝ち抜いたアスリートたちに共通するのは、このような「感謝の念」である気がします。他の競技でトップに立った方々も最後に出てくる言葉は「感謝」でしたから。

 おそらくなのですが、感謝の念に包まれると、「なんとしても勝ちたい、負けたらどうしよう」といったエゴ(雑念)から解放されるのではないかと思います。

 ただただ「ありがとう」という気持ちが、心を穏やかにし、不動心みたいな心境になるのではないかと。だから強い。

おかげさま

 私自身、アスリートたちの教えにかなり影響を受けました。今、自分が編集者として働けるのも、仕事を与えてくれる出版社の方々はもちろん、ライターさん、カメラマンさん、イラストレーターさん、デザイナーさん、モデルさんをはじめ、多くの人に支えられているから。もちろん家族も。

「おかげさまで、自分はなんとかやれています」

 自分を成長させてくれる相手に感謝するのは当然でしょ? という「当たり前の感謝」の教えを忘れずに、これからも頑張ります。

 皆さん、いつもありがとうございます!

文/編プロのケーハク


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