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実用書の編集者が身につけたいスキル 〜 ①企画力

前回「編集者が身につけておきたい15のスキル」の記事にて、実用書の編集者に求められるスキルとして「①企画力、②コミュニケーション力、③好奇心力、④調査力、⑤憑依力、⑥構成力、⑦深掘り力、⑧文章力、⑨語彙力、⑩図解力、⑪取材力、⑫キャッチコピー力、⑬プレゼン力、⑭プロモーション力、⑮法律力」を、それぞれ大まかにご紹介しました。

この15スキルのうち、「①企画力」と「②コミュニケーション力」の2つが最重要スキルであると、私は考えています。

今回は最重要スキルのひとつである「企画力」を掘り下げていきます。


編集者が求められていること

書籍の編集者に求められているのは「売れる本を作ること」です。

すばらしい内容の本であっても、売れなければ会社は認めてくれません。

出版不況の前でしたら、「出版は文化産業のひとつである。だから、売れなくても、読者のためになる良い本を刊行するのは出版社の重要な役割である」という主張が、ある程度、認められていました。
当時の出版社は、今よりも資金的な余裕があったため、「文化的な側面の大切さ」という意見に寛容だったのです。

しかし、出版不況が長期化し、現在も全体的に考えれば右肩下がりの出版業界、とくに実用書の世界では、そのような余裕がなくなってきています。

その結果、「売れる本を作る」という会社側の要求は年々強くなり、編集者はそれに応えようと売れる企画を探し続けています。


実用書の編集者が身につけておきたい「企画力」とは?

売れる本=ヒット作ができるかどうかは、企画を見つけ出す力にかかっています。

初心者・初級者向けの実用書では、大きく分けて2つの企画力があります。

 A:新しいテーマを見つけ出す力
 B:既存テーマの異なる見せ方を見つけ出す力

それぞれ見ていきましょう。


「新しいテーマを見つけ出す力」とは?

「新しいテーマを見つけ出す力」とは、今までなかったテーマ、これから流行ってくるであろうテーマを発見する力です。数年前のSDGsやDX、最近ではNFTなどが、これにあたるでしょう。

SDGs本は多数刊行されていますが、『60分でわかる! SDGs超入門』(技術評論社)は、2019年の刊行。私が書店で見た最初の実用書でした。
早い時期に発売されたため、8万部という売れ行きになっています。


新しいテーマの企画を考えるときに、以下の2つの注意点があります。

 (1)早すぎないか?
 (2)お金を出してくれるか?

「(1)早すぎないか?」とは、流行の先を行きすぎていないか? です。
流行しはじめたテーマを書籍にした場合、流行に敏感な一部の最先端な読者のみが購入します。
その数は、2,000人や3,000人という読者数になることがあります。

初心者・初級者向けの実用書の場合、「万部」という単位で売れることを期待されています。
2,000部や3,000部の本は、ヒット作として認識されないのです。


2つめの「(2)お金を出してくれるか?」は、とても重要です。

いくら流行っていても、本という商品との相性があります。

たとえば、現在の出版業界では、登録者数が多いYouTuberを著者として迎える書籍が多く刊行されています。

しかし、何十万人も登録者がいらっしゃる方の著書でも、ヒット作とならないケースがあります。

「無料ならばいいけれども、お金を出してまでは……」という視聴者や、「見るのはいいけど、本として読むのは……」という視聴者が多いコンテンツですと、書籍化してもヒット作と言われる部数に至らないのです。

一方で、登録者数がそれほど多くない方の著書でも、10万部を超えるヒット作となったケースがあります。

YouTubeコンテンツと本という商品の相性は、とても大事なのです。


流行とは少し異なりますが、私が担当した本に『敬語手帳』という本があります。

じつは、弊社のWebマガジンにて、この本を題材とした敬語コンテンツは、よく見られています。つまり、多くの人が興味・関心をもっている情報です。

しかし、書籍の売れ行きは芳しくありません。売れていない、ということはありませんが、ヒット作と言われるまでの販売数に届いていない本となっています。

「無料ならば読みたいが、お金を払ってまでは……」という読者が多かったということでしょう。

無料コンテンツと有料コンテンツには、とても大きな差があるのです。


「既存テーマの異なる見せ方を見つけ出す力」とは?

「既存のテーマ」とは、これまでたくさんの書籍が刊行されているテーマのことです。

たとえば、「お金」。何十年間も前から、初心者向けの本がたくさん出版されています。

つまり、テーマとして新しいものではないということです。
しかしながら、普遍的なテーマである証でもあります。

このような昔から求められているテーマを「どう見せるか」を見つけ出す力も企画力のひとつです。

弊社からも、2013年に『図解まるわかり お金の基本』という本が刊行され、5万部を超えるヒット作になり、現在は情報を新しく更新した改訂版を刊行しています。

もちろん、さまざまな出版社からも、初心者向けのお金に関する書籍は、多数刊行されていて、売れた本、売れなかった本があります


最近のヒット作は『今さら聞けない お金の超基本』(朝日新聞出版)です。

この本は、イラストやデザインが秀逸。今の時代に求められているイラストとデザインによって読者の心をつかみ、50万部の大ベストセラーになっています。


じつは、これらのお金本に共通していることに、構成に関して似ている部分が多いという点があります。
(編集者の視点から見ると構成の違いはハッキリしているのですが、一般的な読者から見た場合は、それほど大きな違いはないと判断されてしまうため)

構成が近しい本の中でも、『今さら聞けない お金の超基本』は、見せ方が時代にマッチしたことによって、大ヒットとなったのです。

その一方で、初版で終わってしまう本は、その何倍、何十倍と存在します。

ヒット作は、見せ方が、読者に受け入れられた、という証です。


『認知症世界の歩き方』(ライツ社)も、「異なる見せ方を見つけ出す」ことができた好例でしょう。

これまで認知症テーマは、図解を含め、さまざまな本が出版されていました。

しかし、本書のような見せ方は見たことがありません。
認知症の世界を「島」にたとえるユニークな見せ方によって、楽しく読み進めることができます

それらの工夫が受け入れられたからこそ、10万部を超えるベストセラーになっているのでしょう。


『サクッとわかる ビジネス教養 地政学』も同じです。

これまで地政学の本は、いくつも刊行されていました。
その中には、図解された書籍もあり、ヒット作もあります。

『サクッとわかる ビジネス教養 地政学』は、見せ方を変えることで、大きな売れ行きになっています。

基本「1項目=2見開き(4ページ)展開」で、1見開き目は1枚の大きなイラストを中心とした概要、2見開き目はその概要を掘り下げたつくりです。

この見せ方が受け入れられてことで、20万部のベストセラーになったのでしょう。


実用書は、そのテーマの初心者・初級者という読者ターゲットが同じでも、見せ方にはいろいろな工夫があるのです。

ターゲットにわかりやすく、おもしろい見せ方を見つ出すことができれば、ヒット作は生まれるのです。


今回は、「編集者が身につけておきたい15のスキル」のうち、最重要な2つスキルのひとつである「企画力」について、ご紹介しました。

次回は、もうひとつの最重要スキルである「コミュニケーション力」をご紹介します。
お楽しみに。


文/ネバギブ編集ゴファン
実用書の編集者。ビジネス実用書を中心に、健康書、スポーツ実用書、語学書、料理本なども担当。編集方針は「初心者に徹底的にわかりやすく」。ペンネームは、本の質を上げるため、最後まであきらめないでベストを尽くす「ネバーギブアップ編集」と、大好きなテニス選手である「ゴファン選手」を合わせたもの。


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