編集者が身につけておきたい15のスキル
実用書の編集者にはいろいろなスキルが求められます。
今回、15個に分けて、その技をピックアップしてみました。
すべての力がすばらしいレベルにある人は、ほとんどいません。
その方は、特別な存在「スーパー編集者」だからです。
そうではない、普通の編集者でも、15のスキルそれぞれが、ある程度、備わっていることが必要でしょう。
一方、これらをある程度、身につけていれば、他の職業に就いても困らないと思います。
つまり、編集スキルを身につけている人は、世の中に求められる存在である!
私はそう信じています。
では、15のスキルを紹介していきます。
編集者に必要な15の能力
まず、現時点で私が考えている、実用書の編集者に必要なスキルを列挙します。
①企画力
②コミュニケーション力
③好奇心力
④調査力
⑤憑依力
⑥構成力
⑦深掘り力
⑧文章力
⑨語彙力
⑩図解力
⑪取材力
⑫キャッチコピー力
⑬プレゼン力
⑭プロモーション力
⑮法律力
このように、15個に分けてみました。
もちろん、「文章力と語彙力」「コミュニケーション力とプレゼン力」のように、近しいスキル、関係の深いスキルもあります。
それでも、あえて上記のように並べてみました。
では、それぞれの項目を見ていきましょう。
①企画力
個人的には、この企画力と次のコミュニケーション力が、編集者にとって最重要な2つのスキルだと考えています。
書籍の編集者に求められているのは、売れる本を作ることです。
ヒット作ができるかどうかは、企画を見つけ出す力にかかっています。
初心者・初級者向けの実用書は、大きく分けて2つの企画力があります。
A:新しいテーマを見つけ出す力
B:既存テーマの異なる見せ方を見つけ出す力
Aは、今までなかったテーマ。数年前のSDGsやDX、最近ではNFTなどが、これにあたるでしょう。
SDGs本は多数刊行されていますが、『60分でわかる! SDGs 超入門』(技術評論社)は、2019年の刊行。私が書店で見た最初の実用書でした。早い時期に発売されたため、8万部という売れ行きになっています。
Bは、たとえば『認知症世界の歩き方』(ライツ社)。
これまでにも認知症をテーマにした本は、文字物だけでなく、図解を含めたさまざまなものが出版されていました。
しかし、本書のような見せ方は初めてです。
だからこそ、10万部を超えるベストセラーになっているのでしょう。
また、これまで専門書としては刊行されていたものの、初心者・初級者向けの本としてはなかった企画も、Bのひとつです。
たとえば、「行動経済学」。少し前は専門書やテキスト中心の一般書は存在しましたが、図解された実用書としてはほとんどありませんでした。
『サクッとわかる ビジネス教養 行動経済学』は、それが受け入れられたのでしょう。10万部を突破しています。
②コミュニケーション力
コミュニケーション力も、編集者に求められる2つの最重要スキルのひとつ。
本づくり全体をみると、編集者はハブの役割。
著者・監修者を筆頭に、ライター、イラストレーター、カメラマン、デザイナーなどのスタッフをつなぎあわせながら仕事を進めます。
それぞれのプロフェッショナルと連絡をとりながら、本の最終形に近づけていく役目。だからこそ、コミュニケーション力は欠かせません。
出版社の編集者ならば、営業部の人間の力を借りることができなければ、自分の担当書は売れません。
ここでもコミュ力が求められるのです。
③好奇心力
好奇心力(造語です)は、企画力と深いつながりがあります。
好奇心が少なければ、いいアイデアは出てきません。
売れる本は生まれないのです。
新しい事柄に興味を持ち、つねにアンテナを張り巡らせることが編集者には求められます。
④調査力
調査力も、企画力と関係が深いスキルです。
好奇心力によって発見されたテーマが、世の中のニーズ・ウオンツとして存在するのか。
それをリサーチする力が必須だからです。
また、本づくりのときも、調査力が求められます。
調べる力がなければ、内容の裏取りをしきれず、間違いが残ったまま出版することになってしまいます。
本の信頼性を担保するために、ファクトチェックは欠かせません。
この面からも、調べる能力が要求されるのです。
⑤憑依力
憑依力は読者の視点に立つ力、読者の立場になる力です。
ターゲット読者に乗り移るくらい、その人たちの考え方・気持ちを理解することができれば、必ずいい本になります。
どのくらい目線を合わせられるかで、書籍の役立ち具合が決まります。
憑依することは、容易ではありません。それでも読者のニーズ・ウオンツに応えた本にするためには、避けては通れない、とっても大切なスキルです。
⑥構成力
構成とは、簡単に言えば「本の目次」です。
テーマが決まり、読者に憑依することができれば読者が欲しがっている要素を理解できます。
それをベースに、どのような順番ならば読み手が知りたいものをわかりやすく伝えられるかを考え、実際に落とし込む力。これが構成力です。
⑦深掘り力
書籍はWeb記事や雑誌と違い、1つのテーマで100〜200ページ程度で展開します。
エッセンスだけでは本は成立しません。
掘り下げて丁寧に解説できるくらいの、深堀りする力が求められるのです。
これは、とくに実用書の編集者に求められる、特有のスキルといえるでしょう。
⑧文章力
書籍を作る編集者にとって、文章力は欠かせません。
原稿は、著者やライターさんが執筆することがほとんどですが、それでも、よりわかりやすくするためには、文章を直す力が求められます。
場合によっては、大幅なリライトをするケースもあります。
文字を扱う職業ですから、文章力は必須です。
⑨語彙力
文章力と関係の深いのが語彙力です。
多くの言葉が自分の引き出しの中に入っていると、文章に幅が出ます。同じ意味の異なる言葉を用いることで、文章にリズムができ、読者を飽きさせなくなるからです。
また、のちほど出てくるキャッチコピー力のベースとして語彙の豊富さが必須です。
⑩図解力
実用書では図解が標準です。
文章だけでなく、ビジュアル要素を使ってわかりやすくする。とくに、初心者・初級者向けの書籍では重要な役割を果たします。
テキストだけでは理解しにくいことを、図、イラスト、写真などを用いて説明することで、わかりやすくするのです。
これも実用書の編集者特有のスキルでしょう。
⑪取材力
実用書では、監修者に取材をして本作りを進めるケースは少なくありません。
読者のためになる事柄を引き出すには、テーマの本質や具体例などについて、しっかりと話をしていただく必要があります。
そのためには、とくに質問力が大切です。
いい問いかけをすることで、監修者がお持ちの有益な情報、読者の腹落ちしやすいエピソードなどを引っ張り出す。これが取材力です。
⑫キャッチコピー力
キャッチコピー力は、売れる本にするためには、大変重要なスキルです。
書籍はタイトルによって売れ行きが大きく変わります。
同じ内容でも、タイトルが異なるだけで、何倍、何十倍も部数が伸びます。
実際、読者に刺さる言葉を見つけ出すために、編集者はかなりの時間を費やしています。
帯の文面も、コピーの力が活きるところです。
きらめく表現にてアピールできれば、購入に結びつけることができます。
見出しにも惹きつける言葉が求められます。
立ち読みで目次を見たときに、読者に自分事と感じてもらうため、読みたいと思ってもらうために、見出しのコピー力は重要なのです。
⑬プレゼン力
本の企画は、5本や10本に1つ、場合によっては何十本に1点、通るかどうかです。
企画の採択者に「売れそう」と思ってもらえなければ、その本は出版されません。
企画を通す確率を上げるためには、プレゼン力がMUSTです。
また、営業部の人間に「売りたい」と思ってもらえるか。売りたい、売れそうだと感じてもらえれば、本の売れ行きは伸びます。
売る現場にいる人間のやる気を生み出すには、プレゼンする力が不可欠なのです。
⑭プロモーション力
本を買っていただくには、プロモーション力も忘れてはなりません。
SNSで読者にアピールする、メディアに取り上げてもらうには、このスキルが必要なのです。
もちろん、キャッチコピー力やプレゼン力も、プロモーション力に大きな影響を与えます。
⑮法律力
最後に法律力です(これも造語です)。
編集者は、著作権という知的財産を扱う職業。
そのため、著作権の知識は必須です。
許諾を必要としない「法律に沿った引用」の扱いになるためには、掲載時にどのような条件が求められるかを理解していなければなりません。
グレーゾーンの部分も、法律に詳しければ、キチンと判断できます。
法律知識も編集者にとって無視できないスキルなのです。
以上が、「編集者が身につけておきたい15のスキル」です。
駆け足での紹介となってしまいましたが、大まかに掴んでいただけたかと思います。
もちろん、すべてのスキルが高いレベルにあるに越したことはありません。
でも、そんなスーパー編集者はなかなかいないでしょう。
編集者は、自分の得意なスキルをさらに磨きあげる。そして、不得手なスキルのうち、重要と考えているものについては勉強し続ける、ということです。
私も、キャッチコピー力や語彙力には、まったく自信がありませんし、文章力も「?」です。
一方で、図解したり構成を作ったりすることは、ある程度、得意です。
憑依力についても、まだまだです。でも、つねに意識し続けるようにしています。
また、売れ行きに大きく関わるキャッチコピー力も、自信はありませんが身につけたい! と思っています。だからこそ、つねに磨き続けていきます。
今回15スキルについて、駆け足での紹介となってしまいましたので、次回以降、それぞれを詳しく掘り下げていきたいと思っています。
文/ネバギブ編集ゴファン
実用書の編集者。ビジネス実用書を中心に、健康書、スポーツ実用書、語学書、料理本なども担当。編集方針は「初心者に徹底的にわかりやすく」。ペンネームは、本の質を上げるため、最後まであきらめないでベストを尽くす「ネバーギブアップ編集」と、大好きなテニス選手である「ゴファン選手」を合わせたもの。
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