見出し画像

本屋大賞を獲った編集者の熱意

こんには、塚Bです。
今年の本屋大賞は、逢坂冬馬さんの『同志少女よ、敵を撃て』が受賞しましたね。
思い出すのは昨年、町田その子さんの『52ヘルツのクジラたち』が受賞した時の弊社の賑わい。
今回は中央公論新社で初となる本屋大賞受賞作を生んだ編集者であり、塚Bの同僚でもある山本美里と酒を交わしながら、話を聞いてきました。

銀座のbook barにて。

出会いは本屋から

『52ヘルツのクジラたち』の著者、町田その子さんは2016年、新潮社が主催する「女による女のためのR-18文学賞」を受賞し作家デビューしました。
そのデビュー作を、山本美里が書店で手に取ったことが、町田さんと山本との出会いとなります。
新人離れした町田さんの筆力に、山本は強く感情を揺さぶられました。
さっそく編集部の会議にかけて、町田さんにあたることとなります。
この時点で、町田さんはすでに2冊を出版していましたが、いずれも連作短編。
そこで山本は、「中央公論新社で、初の長編小説を書いてみませんか?」とメールを送りました。

編集人生を賭けるべき一作!

すると町田さんから、「“52ヘルツのクジラ”をテーマに書きたい」と返信が来ます。
しかも、出版の予定が確定していないにもかかわらず書き始めており、すでに1章分があるという。
山本はさっそくその第1章を送ってもらう。
読んでみると、とても面白い。
これで書き進めてもらうこととなり、半年後くらいには、『52ヘルツのクジラたち』の完成稿が山本の元に送られてきました。
読み始めると、涙が止まらない。
鼻をかみすぎたのか、鼻血まで出た。
そして、「これは、私の編集人生を賭けうる作品だ!」と感じ、その夜は興奮で眠れなかったと言います。

「本屋大賞を獲ります」

翌日、朝一で出社すると、原稿を10部以上コピー。
営業部、宣伝部、と会社中に配りながら「2020年、私はこの作品を絶対に売りたいです!」と宣言して回ります。
しかし、山本の思いに反して、当初は必ずしも営業の反応は芳しくありませんでした。
それでも、「とにかく書店員に配ってください!」と猛烈アピール。
営業担当者と一緒に、自らチェーン書店本部の新刊会議にも赴き、「これは本屋大賞が獲れます!」とプレゼンをしました。
その熱意が徐々に伝わり、ゲラを読んだ書店員から好意的な感想が届くように。
社内でも支持するものが現れ、町田その子さんの過去3作を上回る初版部数で刊行することが決まりました。

発売。即、コロナ……

そうして迎えた2020年4月の発売日。
ところが……。
新型コロナウィルス感染症により、初めての緊急事態宣言が発令されます。
多くの書店が閉店となり、初版部数が重く、思ったほど動かない。
やってしまったか……。山本の焦りが募ります。
しかしここで、事前に書店員さんにゲラを配っていたことが効き始めます。
発信力のある書店員さんたちが、twitterで『52ヘルツのクジラたち』を推し始めてくれたのです。
twitterで口コミが広がると、重たかった初版が動き始めます。
さらに、『王様のブランチ』で紹介されたことで話題沸騰。
「巣ごもり需要」が高まっていた時期とも重なり、版を重ねていくこととなります。

文芸編集者の苦悩

こうした努力が実り、宣言通り見事、担当作を本屋大賞受賞作にまで押し上げた山本。
実は中央公論新社は、文芸誌も発行しておらず、小説の新人賞も主催していません。
つまり、「小説のオリジナル媒体」を持っていない
のです。
そうした出版社が、「新人作家」を発掘し、育てることは至難の業。
そんな中、自ら著者を見つけ、大輪の花を咲かせることに成功した山本の「目利き」と泥臭い努力には、横で見ていた仲間として、ただただ圧倒されるばかりです。

(文=塚B)
本づくりの舞台裏、コチラでも発信しています!​

Twitterシュッパン前夜

Youtubeシュッパン前夜ch 

この記事が参加している募集

#仕事について話そう

110,122件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?