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編集者は本のアンチレビューに傷ついている

今宵、本の深みへ。編プロのケーハクです。

本がある程度売れてくると、「アンチレビューが増える」のは仕方のないことなのかもしれません。気にするものではないとわかってはおりますが、作り手としてはやはりそういうのを見ると傷ついてしまいます。

批判的な感想であっても真っ当な意見なら「なるほど、次に活かそう」と、しっかり参考にさせていただいておりますし、むしろ感謝しております。

しかし! ただただマウントを取りたがっているような方々の発言には、いけないことだとはわかっておりますが、正直「はあっ!?」と本当に僅かなのですが憤りを感じてしまうのです。

たとえば、生涯をかけて研究を続けてきた専門家である著者の先生に対し、賢明で良識ある大人の方々であれば、「もう少し勉強したほうがいい」などと上からものをいうことなどあろうはずがありません。

的外れな「知識マウント」レビュー

「この程度の情報、ネットで十分。読むべき価値はない」
実用書や健康書の編集者には、あるあるとされている必殺のレビューです。

このような方々の意図としては「知識豊富な自分を認めてもらいたい」ということなのだそうですが、本来はご自身のことよりも本の感想を述べる場であるはず。このようなコメントを述べる方々は、かなりの専門知識をお持ちの場合がほとんどですので、ぜひ本の詳細な感想をお聞かせいただきたく存じます。

それから大変申し訳ないことなのですが、すべての本には想定する読者というものがあります。ターゲットに合わせて情報レベルも設定されており、もし情報が物足りないと感じられるようでしたら、ぜひ情報のレベル設定が上位の本をお選びください。

「中級以上には物足りないけど初心者にはよいかも」をはじめ、そういう場合の模範的なコメントを出されている方々もたくさんいらっしゃいますので、お困りのようでしたら、そちらもぜひ参考にしていただければと思います。


本にはそれぞれの役割がある

ある専門分野の知識を学ぶ際には、やはり段階というものがございます。本を制作するときは、それぞれの段階において必要な、そして適切な情報を整理し、これらの設定を考慮しながら、その本が果たすべき役割として最適な表現を探すよう心がけております。

A. これから新しく学ぼうとする人のための「入り口」の本
B. さらにもう少し詳しく知りたい「中級レベル」の本
C. より深い専門知識を得るための「上級レベル」の本

BやCのターゲット層である方々が、Aの本を手に取ったら物足りないのは当然のことかと。そして「情報の深度が物足りない」ことは本の評価とは別物かと思われます。読む価値がないと断罪する前に、可能であれば、ご購入される前の段階で今一度検討いただければ、このような行き違いが起こることもないと思いますが、いかがでしょうか?

教養に対する「偏見マウント」レビュー

「読書マウント」というものも最近よくあると耳にしております。「エンタメ小説より純文学でしょ」のような偏見のことだと伺っておりますが、認識に間違いはありませんでしょうか? 

このようなジャンルが異なるものに優劣をつけることは大変難しいことだと思いますし、そのような判断を下すまでには相当なご苦労があったのではないかと推察します。

難しそうな表現の本のほうが、カンタンに表現された本より「価値が高い・スゴイ・偉い」という発想は、一般人にはなかなか思いつくものではありません。

教養はお手軽なものではない!
なんでもカンタンにするから読解力が落ちるんだ!
格調高き読書の文化を守れ!

このような尊い考えをお持ちの方々であれば、近年の出版不況を打開する方法や、未来の読者となる若年層への働きかけなどにも、きっと思いが及んでいるに違いありません。

意味不明の批判より自分のために時間を!

最近、専門性の高いテーマを豊富な図解でわかりやすく解説する本が売れております。しかし、「そんなものは教養じゃない」「内容が薄い」「嘆かわしい」「こんな本が売れる世の中って」と批判されてしまうケースも少なくありません。

ビジュアル豊富でカンタンな表現の本。これらには前提として明確な目的や役割がございます。たとえば医学系の最新論文などを、知識のない一般の方々に届けるにはどうすればよいのか? そのままではハードルが高すぎて絶対に読んでいただけません。

ターゲットにとって有益な情報を取捨選択し、その表現法や見せ方を考える必要があります。このひと手間がかかるぶん、むしろ、カンタンな表現の本をつくるほうが難しいとの意見もあるほどです。なぜなら、その分野のことを深く調べ、理解したうえでないと、噛み砕く作業はできないからだと思われます。

読書の習慣のない人に読んでもらうには?
この本を足がかりにもっと深く本の世界へ足を踏み入れてほしい。
未来の読者を育てたい。

いろいろなことを考慮し、結果として導き出したアウトプット。

これらを読書マウントのようなひとつの偏見だけで批判されたら……?

メインターゲットにも役に立たないような不誠実につくられた本であれば、批判されても仕方ないことだと思います。しかし、そうではないとすれば……?

ご自身の目的とずれた本を批判するより、ご自身にとって最高に役に立つ本、心が動かされる本を探すことに時間を使ったほうがよほど意義あることだと思うのですが、いかがでしょうか?

本を批判するとき、少しだけその本をつくった著者や編集者の意図に思いを馳せてみてください。「ああ、なるほどね」と。

そのうえでご批判いただければ幸いです(笑)。

文/編プロのケーハク

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