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あなたのお相手は恋人ですかセフレですか配偶者ですか内縁ですか?

 上記のような質問を急にされたら、「なんて失礼な!」と誰だって怒り心頭だろう。ましてや仕事の場であれば、コンプライアンスや個人情報に厳しいご時世、謝罪だけじゃすまないかもしれない。でもかつて、これほどストレートじゃなくても、似たようなレベルのぶしつけな質問を、日常的にしていた時期があった。そう、週刊誌の編集者時代、だ。
 まもなくスタートするNHKの新連続ドラマ『半径5メートル』のリリースを見ていて、じわじわと当時のことを思い出した。30代のほとんどを、私は毎週毎週、数ページの記事をつくるのに必死だった。つくれれば、まだいい。ときには企画が1本も通らず、後輩がつくる記事のヘルプをすることもあった。たまになら、いい。これが続くとほんとうにメンタルをやられる。だから、毎日毎日〝ネタ〟を探していた。〝通る〟ネタを、だ。誰もが(読者が10万人いれば10万人が)共有できる、半径5メートル以内の身近なネタを。

日本一ドラマを見ていた(キリッ)? 週刊誌時代


 週刊誌の記事は、ある種 独特だと思う。本人に一切取材ナシで、超人気芸能人のページをつくる。たとえば木村拓哉&常盤貴子主演のドラマ『ビューティフルライフ』が大人気だったとき、当時グラビア班にいた私は毎号『BL』の記事をつくった。もちろん、キムタクにも常盤貴子にも取材はできない。だから、あのシーンで着ていた服のブランドは◯◯だとか、あのシーンで使われたカフェは神宮前の◯◯だとか、そんなことばかり調べては書いていた。演者は無理でも制作スタッフに近い人に聞き回ったり、何度も録画シーンを見直してはロケ地を特定したり(インターネットの普及も大いに味方してくれた)……とくにドラマの最後に流れるエンドロールは情報の宝庫で、毎回食い入るように見ていたものだ。
 あのとき、私は日本一ドラマを見ている自信があった(キリッ)。テレビ大好きなテレビっ子だったし(NHK大河デビューは『草萌える』)、ネタが尽きることはなかったと思う。

週刊誌ならではのルールがあった


 あるとき、女性ファッション誌の編集者Aと話をしていて、編集者目線でみたときの、ファッション誌と週刊誌の大きな違いってナンだろうね?という話題になった。
 そこで、冒頭に戻る。Aは、「ファッション誌は“パートナー”のひと言でふわっとまとめる。週刊誌は、恋人かセフレか配偶者か内縁関係かを確認してから書く」と言い放ったのだ。
 そう、たとえば恋愛話をテーマに取材するときに、いまでこそ多くのメディアはその相手を「パートナー」とスマートに書く(呼ぶ)が、これ、ここ10年くらいでようやく落ちついて発することのできる呼び名に成長したと思う。かつては、ワンランク上(この表現も懐かしい!)を志向する女性誌御用達で、原稿に書くならまだしも、口にするのはちょっと抵抗があったような……。
 ところが週刊誌は違う。取材対象が「彼(彼女)が……」といおうものなら、彼(彼女)との関係性をできるだけ定義づけようとする。明確に、事象を捉え、他と区別するための限定的概念を設定するのだ。そこで初めて安心して、恋愛話に入っていけるのだ。
 年齢を必ず表記するのも、週刊誌ならではかも。絶対明かさないからな!というスタンスを貫く芸能人には、あえて「年齢非公表」と書いていたっけ。

 私が週刊誌にいたのは、もう10年以上も前のこと。いまは違うルールがあるのだろうな。でも、登場人物の属性や背景、事実をできるだけ公表し、そのうえで報道するというスタンスは、好きだった。性に合っていたように思う。
 ドラマ『半径5メートル』では、どんなふうに週刊誌編集者が描かれるんだろう。見たら、懐かしく思うと当時に、当時を思い出してちょっとつらくもなるんだろうな。(文/マルチーズ竹下)。

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