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語彙力が少ない私が、なんとか編集者を続けてきた方法

「編集者が身につけておきたい15のスキル」の記事にて、実用書の編集者に求められるスキルとして、企画力、憑依力、深掘り力、文章力、語彙力、キャッチコピー力などを、それぞれ大まかにご紹介しました。

今回は、その中で「語彙力」についてご紹介します。これは「文章力」や「キャッチコピー力」とも関連が深いスキルです。

では、詳しく見ていきましょう。


語彙力が備わっていないと……

前回の「文章力」の記事に、私は文章力に自信がないと記しました。

文章力の大きな要素の一つに語彙力があります。

この語彙力にも私は自信がありません

人を引き込むだけでなく、読者に飽きられず読み進めていただく文章にするには、語彙の豊富さが必要です。
同じ単語が何度も出てくると文が単調になり、文章のリズムがよくありません
読者がスムーズに読めなくなります。

リズムをよくするためには、同じ言葉を使わずに、同じ内容の異なる用語を使い分けることが求められます。

そう知ってはいるのですが、私の場合は、ボキャブラリーが少ないため、どうしても同じ言い回しになってしまいます。何度も同じ単語が出てしまうのです。

もちろん、変えるように努力をしていますが、まだまだスキル不足です。

たとえば、「語彙」という言葉。
代わりに「ボキャブラリー」「単語」を使ったり、少し異なる「文」「文章」「表現」「言い回し」を、文章を変えることで「語彙」を表現しています。

語彙力のある方ならば、「一文」「センテンス」「語句」「フレーズ」「書く」「言い方」などの近しい言葉を用いた文章を使うこともあるでしょう。

私には、これがハードルが高い。思いつくときもありますが、そうでないケースのほうが多いのが現実です。

そのため、私の文章は読み手を惹きつける力が弱くなっています。

それでも、私が編集する実用書は、なんとか及第点が出ている。私と同じくらいの語彙力しか持ち合わせていない方や、国語が得意ではなかった方には届くと考えています。

「かえって届くケースもあるのではないか?」と信じているところまであります(自己弁護ですが……)。

ボキャブラリーが豊富な方は、言葉を知っているからこそ、むずかしい語句を使われます。選択肢が多数あるため、自然と出てくるのです。

むずかしい用語は、私のような人には、

 「こんな言葉があるんだ」と勉強になるケース(前後の文から理解)以外に、
 「この言葉は、どんな意味なんだろう?」と、書き手についていけないケース

があります。

後者のようなことを起こさせないために、「あえて簡単な言葉を使う」と自分に言い聞かせているフシまであります

もちろん、語彙力をお持ちで、さらに私のような語彙の少ない人の気持ちがわかる著者や編集者でしたら、すばらしい文章になります。
つまり、上記は私の言い訳ですね……。


編集者に語彙力が必要なもう一つの理由

編集者のスキルとして、語彙力が必要な理由がもう一つあります。

それは、キャッチコピー力が求められるからです。

語彙力をベースとしたキャッチコピー力は、本のタイトル(書名)や帯文句の魅力につながるからです。

本のタイトルには、「どんな本かがひと目でわかる」わかりやすさと、「短い時間で惹きつける」キャッチコピー力が求められます。

タイトルが魅力的かどうかで、本の売れ行きが大きく異なるからです。

図解が多い実用書の場合は、いわゆる“普通の言葉”がタイトルに使われるケースが多くなっています。
そのため、文字中心のビジネス書や自己啓発書などと比べれば、それほど大きな差は出ませんが、それでも、タイトルの魅力による売れ行きの違いは少なくありません。

帯文については、図解の実用書にとっても、文字物の書籍と同じくらい重要です。

実用書では、タイトルのインパクトが少ない本が多いため、タイトルよりも帯文句のほうが悩むケースまであります。

帯に使われている言葉は、短い文章と長い文章を組み合わされています。

書店の店頭で、たくさんの本の中から立ち読みまでつなげる「惹きつけるキャッチ」と、短めの文で本の内容を伝える「わかりやすい文章」が組み合わされています。

もちろん、タイトルとの関連も無視できません。

タイトルだけで本の内容が一目瞭然でしたら、帯には内容を紹介する言葉は不要です。
読者を惹きつけるキャッチだけで構成されるでしょう。
その一つとして、どのような人に向けた本かを伝える文を使うこともあります。

つまり、帯そのものがキャッチコピーのオンパレード
そして、そこは語彙力が発揮する場所です。

魅力的な言葉を見つけるには、そもそも語彙が多くでなければ困難になってしまうからです。

語彙力は、本のよさをあらわすための基本となっているのです。

どんなにいい内容の本でも、タイトルや帯のインパクトが足りず、そして、それらを活かす装丁デザインの魅力が高くないと、本のよさが伝わりません。
短い時間で伝わらなければ、書店の店頭で手に取っていただけません。

ネットやSNSでも同じです。
本について書かれている記事やコメントを読んだときに、記事内容だけでなく、本のタイトルなども魅力的でなければ、購入に結びつきません。
購入に結びつかなかったとしても、タイトルの印象が残れば、別の機会に同じ本に出会えば、購入の可能性があがります。

しかし、印象に残っていなければ忘れられてしまう。当然、それでは本を買っていただくことは叶わず、いい本であっても読んでいただけません。

本を買って読んでいただく可能性を少しでも上げるには、キャッチコピー力が必要であり、そのベースとなる語彙力は必須スキルなのです。

語彙力の例として、たとえば、

 簡単にわかる
 サクッとわかる
 すぐわかる
 瞬時にわかる
 容易くわかる
 苦もなくわかる
 手軽にわかる

など、「かんたん」を表現するだけでも、さまざまな言葉があります。

「わかる」についても

 理解する
 気づく
 身につく
 おぼえる
 把握する
 習得する
 マスターする

など、近いしい言葉はたくさんあります。

語彙力をお持ちの方でしたら、もっとたくさん候補が出てくるでしょう。

さらに、これらのうち、「どれとどれを合わせるか」を選択するのは、キャッチコピー力の一つです。
「ターゲット読者に響く言葉はどれか?」を見つけ出す力です。

見つけ出すときに、語彙力があれば、より魅力的な候補が挙がるでしょう。

要するに、本を買っていただく、という視点からも、編集者にとって語彙力は身につけたいスキルの一つなのです。

語彙力がない私が行っているスキル不足の補い方

繰り返しになりますが、私には語彙力も文章力もありません。

では、どのようにして編集の仕事をつづけているかといいますと、ツールに頼っています。

類語辞典です。

ここ10年(?)は、「Weblio辞書」の「類語辞典」を活用させていただいています。

多数の類語や関連語が出てくるため、重宝しています。私の味方です。

では、私がタイトルや帯を考えるときに、類語辞典に頼っている例を挙げます。
2022年に刊行した和田秀樹先生の『不幸で不安な80代 健康で幸せな80代』のときを例に見てみましょう。

スタートは、自分の頭の中から、キーワードを何種類か書き出します

このときは「老い」「若返る」「健康」「受け入れる」「幸せ」「一生」「80代」などでした。

次に、これらの用語一つ一つについての類語を、自分で考えながら書き出します
たとえば、「老い」でしたら、「老いる」「老化」「老ける」などです。

この次に、類語辞典の登場です。

たとえば、類語辞典で「老い」を入力して検索します
検索結果の「高齢」「高齢者」「老年」などの中からピンときたものを、自分が考えたリストに書き加えます。

類語辞典での検索も、その他の言葉一つ一つに、それぞれ行います。

ここまでが、キーワードのピックアップ作業です。

次に、キーワードを組み合わせて、タイトル案を書き出していきます

同時に、帯キャッチの案も書き出します。

当時、考えたタイトル案は

 幸せで健康な80代を迎える本
 幸せで健康な90代を迎える「老い」の受け入れ方
 「80代での老後の不安」が消える考え方&健康法
 なぜ、あの人は90歳でも元気で幸せなのか?
 70代・80代のための「老後が不安!」がなくなる本
 70歳から(80代で) 健康で幸せに生きる人 不満を言い続ける人
 不幸で残念な80代 幸せで健康な80代

などでした。

これらを考えていくと同時に、帯キャッチが浮かぶケースもありますし、タイトル案を一通り出してから帯のコピーを考えるケースもあります。

その後、ピックアップした言葉の中から、ベストと思えるものを探し出していきます

そして、社内や著者と一緒に検討していきます。

他の編集者や営業部の人間の意見を聞き、一番大切な著者のご意見を伺いながら、決定していきます。

このときは、最終的に

 タイトル:不幸で不安な80代 健康で幸せな80代
 メインキャッチ:幸せに生きるコツは“老いを受け入れる”こと!
 サブキャッチ:老いを遅らせ充実した毎日を送る 考え方 食べ方 暮らし方

となりました。

続いて、本文の流れをよくするために、語彙力のない私が類語辞典に頼るケースを紹介しましょう。

本文にリズムを作るときは、「この言葉が頻繁に使い過ぎているな〜」と思ったときに「Weblio辞書」の「類語辞典」を活用しています。

これは、自分が原稿を書くときや、リライトするとき、また文章を修正するときなどで、自分のボキャブラリーだけではいい言葉、いい文章が思いつかないケースに活用しています。


なお、近年は「Weblio辞書」の「類語辞典」を活用していますが、昔は紙の辞典を活用していました。
私がよく使っていたのは『角川 類語新辞典』です。

この業界に入り、まだ経験が少ない時期に購入し、何十年も愛用していました。
本当にいい辞書で、大変お世話になりました。

最近では、ChatGPTにもお世話になっています。

まだ使い始めたばかりですが、「単語」の類語検索だけでなく、キャッチコピー(文章)の似た表現探しでも活用しています。

今後は、ChatGPTの利用頻度が増えていくと思います。


このように、語彙力が足りない私の場合は、類語辞典に頼りながら編集を行っています。
スキル不足をツールで補ってもらっているのです。
ツールがあるから、なんとか編集者を続けていられるのです。

仕事の現場では、学生時代はNGだったカンニングは問題ありません。
今後も、ツールや周囲の人の助けを借りながら、編集者として仕事を続けていきたいと思います。


今回は、「編集者が身につけておきたい15のスキル」の中から、「語彙力」についてご紹介しました。
いかがでしたでしょうか。



文/ネバギブ編集ゴファン
実用書の編集者。ビジネス実用書を中心に、健康書、スポーツ実用書、語学書、料理本なども担当。編集方針は「初心者に徹底的にわかりやすく」。ペンネームは、本の質を上げるため、最後まであきらめないでベストを尽くす「ネバーギブアップ編集」と、大好きなテニス選手である「ゴファン選手」を合わせたもの。

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