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文章力に自信がない編集者の文章術
「編集者が身につけておきたい15のスキル」の記事にて、実用書の編集者に求められるスキルとして、企画力、憑依力、深掘り力、文章力、語彙力などを、それぞれ大まかにご紹介しました。
今回は、その中で「文章力」についてご紹介します。これは「語彙力」とも関連が深いスキルです。
では、詳しく見ていきましょう。
私がなんとか文章を扱う仕事を続けられている理由
文字を扱う編集者にとって、文章を直す・書くという仕事は切り離せません
でも、実は、私は文章力に自信がありません。
若い頃の私は、スポーツばかりしていました。
本を読んでいなくはなかったのですが、たくさんの読書はしていません。
実際、私の学生時代と、付き合いのある編集者の学生時代とを比べると、私のほうが圧倒的に少ない読書量です。
多くの編集者が好んで読んでいる小説ジャンルに至っては、彼らの1割どころか5%にも満たない冊数しか読んでいません。
小説は、文章のプロ中のプロである小説家によって書かれたすばらしい表現に満ち溢れています。当然、小説を読むことで、文章力が養われます。
その数が致命的に少ないのです。
また、中学生や高校生の時代の私は、国語の成績もよくありませんでした。
ですから、言葉を知らない、語彙力がない、表現力が乏しい……。
結果、書けない、直せない……。
当然、「シュッパン前夜」メンバーの中でも、いちばん文章力がありません。
メンバーのマルチーズさんが書かれたnoteの記事を読むたび、「情景が浮かぶな〜」「感情を揺さぶられるな〜」「こんな文章っていいな〜」って憧れています。
同時に「一生、こういう文章は書けないんだろうな〜」とも。
(私が書けないテイストだから、より惹かれるのでしょうね)
このように圧倒的に文章力に自信がない私でも、編集者として何十年も本を作り続けられています。
それは、ある段階で自分の立ち位置を決めたからでしょう。
「国語力に自信がない読者でも理解できる本を作ろう」と。
中学や高校時代の国語で、私と同じような成績だった方、つまり「国語が得意ではない、苦手!」と思っている方でも、充分に理解できる国語レベルを用いて、わかりやすい本を作っていこう。そう思ったのです。
文章力に自信がない人が、文章を書くときのコツ!?
そうはいっても、私が求めるレベルの文章力でさえ、当時はまったく持ち合わせていませんでした。
書くことはもちろん、直すこともできないという状態。鍛えていく必要があったのです。
鍛え続けた結果、少しずつ書くこと、直すことに対しての恐怖心が薄れていきました。
現在の私の文章力は、今回の記事を含めたnote記事のレベルです。
まだまだですが、これでも昔と比べると、信じられないくらいの成長なんです。
文章力のレベルが高くない私が、書くときに気をつけていることは
・漢字だらけにしない
・1文を短くする
・リズムを意識する
です。
一方で、
・情景を鮮明に思い浮かべられる文章
・引き込む文章
・感情をゆさぶる文章
といった文章スキルを追い求めることは、あきらめました。
「わかりやすい実用書を作る」ことに専念したのです。
漢字だらけにしない
紙面を眺めたときに「漢字だらけ」という印象を与えてしまわないように注意しています。
そう感じると、役に立つ実用書であるのに「むずかしそう」と思われてしまうからです。
とくに、「国語が苦手」という自覚をお持ちの方にとっては、「漢字だらけ=読みたくない」となってしまいます。
そのために、工夫していることがあります。
まず、むずかしい漢字・熟語は、なるべく使わないことを心がけています。
基本は、実用漢字の範囲内に収めることです。
いえ、実用漢字に含まれているものでさえ、「開く」ことが多々あります。
「開く」とは、編集者が使う専門用語の1つで、漢字をひらがなやカタカナにすることです。反対に、ひらがなやカタカナを漢字にすることは「閉じる」といいます。
つぎに、気をつけていることは、漢字を4つ連続させないことです。
上記のような「常用漢字」や「専門用語」といったもの以外は、なるべく漢字を並べないようにしています。
たとえば、
「税法改正された」→「税法が改正された」OR「税法の改正があった」
とすることです。
このように漢字を減らし、ひらがなやカタカナ、さらには読点(、)や改行を増やすことで、「漢字だらけ」の印象を軽くして、「国語が苦手」という方でも、とっつきやすい印象を与えられるように努めています。
1文を短くする
1文を3行以上にはせずに、できるだけ1〜2行で終えるようにしています。
私自身、1文が長いと頭がついていけず、理解できないことがあるからです。
文章が上手な方は、1文が3行以上になっても、読者にキチンと伝えられます。そういったスキルが身についているのです。
さらに、長文の後に10文字くらいで終わる1文を続けたりします。
そうすることで、読者を惹つけられます。
そのような取り組みは、私にはハードルが高く、トライしてもなかなかうまくいきません。
ですから、私は「1文は短くする」を基本としています。
リズムを意識する
次々に読み進んでいただくためには、文章のリズムが大切です。
世の中の書き手は、読み手を飽きさせないために、さまざまなテクニックを使いこなし、リズムを作ろうとしています。
たとえば、上記の「3行以上+10文字」も1つのテクニックです。
でも、これは高度な技であり、私にはできません。
一方、文章力がない私でもできそうなことがあります。
それは、
・語尾を変える
・「〜の〜の」を、なるべく減らす
・1文の中で単語のダブりを減らす
・あえて主語などを書かない
です。
まず、語尾を変えるについてです。
たとえば、
「〜です。」「〜です。」「〜です。」
「〜ます。」「〜ます。」「〜ます。」
のように、同じ語尾を連続させずに、
「〜です。」「〜。」「〜ます。」
と、語尾を変えていくことで、リズムを出すことができます。
真ん中の「〜。」は、体言止めです。
たとえば、
「〜は文章力です。」→「〜は文章力。」
のようなものです。
こうした変化をつけることで、読み手を飽きさせないように努めています。
つづいて「〜の〜の」をなるべく減らすことも気にかけています。
たとえば、
「数千円の価格の専門書」→「価格が数千円する専門書」
のように、「の」を繰り返さない方法です。
文章が上手な方は「の」を繰り返しをほぼゼロにできますが、文章力のない私は「なるべく減らす」です。
私の場合、1文の中で単語のダブりを減らすことにも努めています。
たとえば、「文章」という言葉を「表現」に変えたり、全体を変えて「書く」を使用することで「文章」という言葉を繰り返さないようにしています。
しかし、実際の私は、この方法をまだまだできていません。
語彙力が必要になってくるからです。
ボキャブラリーが乏しい私には、ハードルが高いのですが、努力は続けています。
あえて主語などを書かないことも気にしている方法です。
学校時代に「主語と述語はセット」と学んだと思いますが、あえて主語を抜くことでリズムを作ろうとしているのです。
それまでの文を読んでいれば、まずどんな主語が省略されているか迷うことはないだろうと思うときに、あえて主語を入れないことで、飽きさせないようにしています。
これは主語だけでなく、「この言葉は省略しても通じるだろうな」と思うときは、取り除いています。
文章力に自信がない私は、上記のようなことに注意を払っています。
私は、これだけでも「わかりやすさ」が求められる実用書では、なんとか伝わると考えています。
とくに、私と同じような「国語力に自信がない」という読者には、キチンと伝わると信じています。
もちろん、漢字の量などは、書籍のターゲット読者によって変更しています。
それでも、他の編集者と比べると、私が編集した本は、日本語のレベルが初級者〜中級者向けになっていて、やさしい印象を与えていると思います。
きっと、こうした私の思いは、読者に届いていると思います。
文/ネバギブ編集ゴファン
実用書の編集者。ビジネス実用書を中心に、健康書、スポーツ実用書、語学書、料理本なども担当。編集方針は「初心者に徹底的にわかりやすく」。ペンネームは、本の質を上げるため、最後まであきらめないでベストを尽くす「ネバーギブアップ編集」と、大好きなテニス選手である「ゴファン選手」を合わせたもの。
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