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【食の短編小説】はんぶんこ②

#2 ネパールカレー


「体調が悪くなると、人はカレーを欲しやすくなる」と、テレビで目にしたフレーズが忘れられず、カレーを食べたくなるとすぐに、その言葉が連想される。


雨上がりの夕焼けを見ながら川沿いを歩いていると、ランチで定期的に足を運んでいるネパール料理店の店主に遭遇した。

「こんなとこで会うなんて、どこかお出掛けですか?」と声をかけると、今日は休みだから家族で外食するそうで、お腹を空かせるため軽いジョギングをしていたそう。そういえば、小学生になったばかりの娘さんがいるって前に話してくれたな。


他人に優しい人が作る料理は、味にも優しさが表れている。
そう思わせてくれたのは、このネパール料理店の店主だった。

慣れない日本語で気持ちの良い挨拶をしてくれたり、食べきれないときに「持って帰りますか?」と声をかけてくれたり、おしぼりは手に取りやすいように袋を半分だけ開けておいてくれたり。サービスやおまけをしてくれるから良いお店というわけではなくて、店主にとっては自然な振る舞いが、ここに足を運び続けたいなという気持ちにさせるのだと思う。


自分にとって少し距離があったネパール料理というジャンルが、店主のおかげで自分の日常に馴染んでいく。

ネパール料理はインド料理と少し違って、スパイスが控えめでシンプルな味付けだからか、日本人に相性がいい。よく食べる玉ねぎとじゃがいもとの組み合わせのアチャール(漬物)に、こっそりではなくしっかり蜂蜜の甘みを感じられるバターチキンカレー。顔より大きいサイズのナン、マンゴーラッシー、珍しい羊肉が入ったマトンカレー。日本の食材を差し色に、ネパールの食文化が広がるこのお店での時間は、わたしにとってのオアシスだ。



そんなことを思い出していると、「帆乃果さん、最近お店で見ていないのでまた時間があれば来てくださいね」と日本語で伝えてくれた。


そうだ、引っ越してから行けていなかったから、思い切って今度の休日に彼を誘ってみよう。ネパール料理のイメージはないけれど、彼なら楽しんでくれるはずだ。お腹を満たすだけでなく、心も満たしてくれる店主のネパール料理店だから。



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食体験をはんぶんこしてくれた人

いしかわしゅんさん(ファシリテーター・アーティスト)

1995年8月生まれ。法政大学を卒業後、探究学習塾を運営する教育ベンチャーへ入社。幼児〜社会人を対象に様々なワークショップを提供している。2022年より個性を活かした商いをつくる講座、コアキナイゼミを運営。現在はコアキナイゼミの代表を務める。 学生時代から音楽活動に傾倒しており、バンド「シップストーリー」のベーシストとして年間約50〜60本ほどライブ活動をしていた。現在バンドは脱退。その後、楽曲提供サービス「あなたレコード」起業、詩の個展「選ばれなかった僕たちへ」主催、東京発3ピースバンド「カラカル」ソングライター兼編曲を担当するなど、ライブ活動にとどまらず、さまざまな表現活動をしている。
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