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凍結中の芸術祭の現場で、「平時の想像力」と、「緊急事態宣言下の想像力」を考える。

1:はじめに

この原稿は、3月初旬に感じたことを書き留めたメモから始まり、ゴールデンウイーク明けの2020年5/11に自宅で書き進めたものです。

継続してきた活動が止まってから、「平時」ではなくなったライフスタイルの中で感じたこと、考えたことを「想像力」をキーワードにまとめてみたいと思います。新しい「平時」が訪れた時、忘れないように。


私は、生活都市さいたまで、「ライフスタイルにアートを」標榜し、「さいたま国際芸術祭2020(以下、芸術祭)」の先行プロジェクトとして、2019年8月から継続的に、アートに参加できる場をつくる「さいたまアートセンタープロジェクト(以下、SACP)」を実施してきました。

2020年3/28、芸術祭本体の開幕日の「当面の間延期」がアナウンスされ、事実上の凍結状態になっています。

SACPのプログラムは、人が生活を営む「さいたま」という場所に、芸術文化の活動が溶け込み、ライフスタイルに合わせた「アートへ参加する習慣」をつくりだすことを目的としています。(詳細はこちらのリンクへ


「多角的に、客観的にものごとを考えたり感じたりする想像力や感性を膨らませ、日常そのものや住む土地の魅力を改めて考え、楽しむ機会を参加する方とつくりたい」とプログラムを実施してきました。


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2020.2/15
表現と鑑賞の関係を考えるワークショップ 
「簡単で新しい詩の作り方・こころのたねとして。ことばを人生の味方に」+「アート鑑賞の実験室vol.3 -アートのツアーコンダクター」」
釡ヶ崎芸術大学、上田假奈代さんと足利市立美術館、篠原誠司さんによる表現と鑑賞の関係を考えるワークショップを実施した。



2:これまでのCOVID-19の関する概要

2020年1/7、中国 湖南省武漢で発生した未知の肺炎が新型のコロナウイルス(SARS-CoV-2 以下、CoV-2)、このウイルスによる疾患(新型コロナウイルス感染症/COVID-19 以下、COVID-19)であることが判明。(これよりも前に発症していた報告も有り。)それから瞬く間に感染が拡大しました。

3/11、世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を「パンデミック(世界的大流行)」と認定しました。

この間も様々な国で入国拒否や入国制限が行われ、見えないウイルスによって様々な壁がつくられていきました。

国内では、3/24、東京オリンピックの延期が決定。4/7、緊急事態宣言が7都道府県に出され、4/16、緊急事態宣言は全国へ拡大。4/25、大型連休前には、「いのちを守る STAY HOME 週間」1都3県共同キャンペーンと題し、東京都知事、埼玉県知事、千葉県知事、神奈川県知事による「これまで以上の外出自粛への更なるご協力をお願いする」と呼びかけ、5/4、政府の専門家会議より、新たな感染者の数が限定的となった地域でも感染拡大を長期的に防ぐための「新しい生活様式」の具体例などを提言としてまとめ、公表。

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(「いのちを守る STAY HOME 週間」1都3県共同キャンペーンより)


このCoV-2の前にも様々なウイルスは存在していましたが、これまでの他のウイルスと異なり、CoV-2は、「世界中の全ての人間を「当事者」にした」と言えるのではないでしょうか。CoV-2は人類が知る限り最も単純な生命体で、国籍、年齢、性別、性格、社会的地位の差はなく、人類を3つのグループに分けます。

それは、感受性人口(これから感染させることのできる人類)、感染人口(ウイルスにすでに感染した人類)、隔離人口(もう感染させることのできない人類)となります。現在(2020年05/11)では、世界の新型コロナウイルス感染者は411万人とされているのでその数の世界の人口との差だけ感受性人口が存在します。つまり、まだ感染していない人は、CoV-2から見れば、感受性人口となってしまうのです。

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米国のジョンズ・ホプキンス大学の特設サイト
https://coronavirus.jhu.edu/map.html


その環境下、日々流れているニュースなどでは、「あなたは今、健康であるかもしれないが症状が出ていないだけの感染人口かもしれないので、外出を控え、人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減に協力しよう!」と繰り返し呼びかけられ、外出自粛を促されています。あなたとあなたの大切な人を守るためにと。


3:ライフスタイルそのものの変化

数ヶ月でCoV-2によってライフスタイルそのものが変化しました。

3密(密閉、密集、密接)を避け、人と人の一定の距離を保ち、リモートでのコミュニケーションが主となり、金銭や物資の交換を行うということによって生活を成り立たせていく経済活動を停滞し、見直す必要に迫られています。

その中で、さいたま国際芸術祭2020の会場となる予定だった公共施設も、3/8から閉鎖され、人と人が直接出会い、アートのプログラムで時間を共有することが困難になりました。

SACPでも、ライフスタイルそのものの変化にどのように対応するか模索しています。ささやかですが、5/4から5/31まで、「お家で芸術祭」をつくろう!SACPカードゲーム」をオンラインで提供し始めました。

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「Sightama Art Center Project Original Card Game」
SACPのプログラムに参加するとガチャを引きランダムで1枚GETできる仕組み。継続的にプログラムに来てもらいたいという思いと芸術祭のコンセプトや関わっている人物を身近に感じてほしいという思いから制作した。オンライン限定でNo.40「新型ウイルス」とそれを無効にするNo.41「(プレイヤーが何かを考えて記入する)」カードを追加している。


また招聘作家の一人、遠藤一郎さんは、ほふく前進お百度参りを2/8よりさいたまに入り、積み重ねています。

(2020.5/17で100回目を達成!以下のリンクをごらんください。)

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2020.5/18追記:https://note.com/shunya_asami/n/n6e2b37c10c26


4:「平時」の想像力と、「緊急事態宣言下」の想像力


さいたま市には2012年4/1に施行された、「さいたま市文化芸術都市創造条例」があります。

この条例は、「生き生きと心豊かに暮らせる文化芸術都市」の創造に向けて、条例に基づく7 つの基本施策を定めるとともに、「文化芸術を活かしたまちの活性化」、「文化芸術都市創造を担う人材の育成」、「さいたま市の魅力ある資源の活用と発信」を3 つの重点プロジェクトとして位置付け、計画期間である今後7年間において、重点的に取り組む」とされ、その具体的な方策事業として、「さいたまトリエンナーレ2016」が開催されました。

その時のディレクターの芹沢高志さんは、「さいたま市」を「生活都市」と表現し、そのさいたま市を舞台に、アートのための祭典ではなく、市民がアーティストとともに、自分たちの未来を探していく、「市民の想像力の祭典」としたいとトリエンナーレを位置付けました。

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さいたまトリエンナーレ2016


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その中で特に私にとって印象的だったのは、トリエンナーレを「ソフト・アーバニズム」=「柔らかな都市計画」と考え、文化、芸術を核として、まちの営みに創造性を吹き込むための社会的な実験であるという点です。

「やわらかな都市計画」とは従来のハードをつくる都市計画ではなく、前述した「さいたま市文化芸術都市創造条例」にもあるように、文化芸術の持つ、「自分や他者の再発見、多様性の認識と共有、異なる文化への理解や協働などを生み出す可能性」によってソフト、精神的なインフラを都市計画として捉えるというチャレンジングな試みであると私は考えています。

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そのコンセプトを継承し、「さいたま国際芸術祭2020」の先行プロジェクトであるSACPでは、招聘アーティストはもちろん、さいたま市でユニークな活動をする方々との作品鑑賞、ワークショップ、レクチャーなどのプログラムを通して、表現することの喜びや苦しみ、生活都市を改めて考える時間をつくってきました。


アートは、「自分や他者、ものごと、生活そのものを多角的に、客観的に考えることができる想像力、ないものを想像する想像力」を生み出します。


アーティストの作品や活動に触れ、体験することは、既存の価値観や思考が揺さぶられ溶けていく経験をすること。また、ありのままの存在そのものを肯定する経験を重ねていくこと。そうすることで、失敗や挫折、悲観的に考えられる状況下で、その状況を突破するアイデアやイメージが湧く想像力が生まれる一助になります。


この想像力は、一朝一夕で獲得できるような力ではなく、様々な経験を積み重ね、自分の思考とともに育てていくことで高まるものであると私は考えます。


過去の「平時」は、「緊急事態宣言下」の今の状況では考えられないほど、規制や心配事が少なく、様々な手法、環境を生かした豊かなプログラムを実行でき、それを計画的に開催することが可能でした。


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「SACPのプログラムロードマップとプログラムデザイン」
2019年8月から2020年5月までの期間をタームテーマを設け、プログラムを配置し、様々な表現を相互連動的に体験できるよう工夫した。現在は予想していなかった「新型コロナウイルス凍結期」でできることを行っている。

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2019 11/16
招聘作家Yorikoさんの旧大宮図書館大ヘンシンプロジェクト。
もともと書架だった場所をレクチャーやワークショップを展開する「ことば基地」として、芸術祭サポーターさんや飛び入りで参加してくれた方とDIY!ワクワクする空間にダイヘンシンさせました!完成披露会ではYorikoさんのこれまで制作してきた映像を見ながら素敵な空間の完成を皆で祝いました。

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2019 12/25
招聘作家DamaDamTalの埼玉栄高等学校とのアウトリーチプログラム。作家が学校現場に入り、表現方法や作品についてレクチャーを約2ヶ月重ね、中間発表を行った。DamaDamTalの個展「幕はすでに開いております。」の空間で46名がパフォーマンスを行った。個展会場にはA4の紙が敷き詰められ、それらを使い、重ね、壊し、構成する約2時間の即興をつくりだすプログラムを実施した。

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2020 2/12
「おわりかた‐小林未季ライブ」
出演:小林未季(チェロ:冨田千晴、映像・詩:一写一想)、
会場:旧大宮図書館・地下劇場 
シンガーソングライターとして活躍する小林未季のライブ。全4回のうち、第1回「はじまり」(2019年12/25開催)に続き第2回は「おわりかた」をテーマに構成した舞台を実施。誰にも、どんなことにも必ず訪れる「おわり」。その「おわり」を見つめることで新しく見えてくるものがたくさんあります。「好きな人やものを大切にするため?自分をまもるため?未来を見つけるため?」チェロ:冨田千晴、映像・詩:「一写一想」とのコラボレーション。小林未季の楽曲と写真詩作品「一写一想」の朗読が、重なり、深い自己との対話とそこから生まれる表現の喜びを共有する時間となりました。



そして、「緊急事態宣言下」の想像力について気になる出来事があります。

前述した通り、CoV-2は全ての人類を「当事者」にしました。

このことの意味することは、皆、「主観でしかものごとを考えられない状態になっている」ということです。つまり客体が存在しません。皆、「主観にとらわれている状況」です。

それを顕著に感じる出来事は、「自粛警察」と呼ばれる外出自粛や営業自粛に応じない人や店舗に対して、正義感を暴走させ、私的な取り締まりを行う人たちや、エッセンシャルワーカーと言われる人たちへの差別です。

それらが生まれる要因は様々あると思いますが、主観でしかものごとを判断できないことに由来すると考えられます。平時であれば、誰かが「考えかたを変えてみたほうがいい」と客観的な視点を提供したり、自らを多角的に捉えることができるゆとりがあります。


このような状況下であるからこそ、「自分や他者、ものごと、生活そのものを多角的に、客観的に考えることができる想像力、ないものを想像する想像力」がより一層必要ではないでしょうか?


アートは「客体の眼」を獲得する営みに他ならないと今、強く感じます。


イタリアの作家パオロ・ジョルダーノ「コロナ時代の僕ら」では、「日々を数え、知恵の心を得よう。この大きな苦しみが無意味に過ぎ去ることを許してはいけない。」と記述し、「忘れたくないものごとのリストをつくってみよう!そして平穏な時が帰ってきたら、互いのリストを取り出して見比べ、そこに共通の項目があるかどうか、そのために何ができることはないか考えてみるのがいい。」と呼びかけています。


「緊急事態宣言下」の今、家にいる時間で、自分の考えを客観的に捉えることができる日記や手紙を書いてみても、想像力は育まれるかもしれません。

未来から見たら歴史的な場所に今わたしたちは生きています。その未来の誰かに、今を伝えてみることは目の前の様々な事柄を、想像的に編集し、客観的な視点で自らを見る機会になるのではないでしょうか?


芸術祭が再び動き出す時は、「緊急事態宣言下」に育まれた想像力も重なり合い、豊かに響く場になることを想像しながら、二度とない今を大切に過ごしていきたいと思います。

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2020.3/19
凍結状態に入る前に「ことば基地」の黒板に書いたメッセージ


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遠藤一郎 「にげねぇ」 2011年作 新聞紙にクレヨン
旧大宮図書館エントランス前に5/17まで展示中



●関連リンク

・さいたま国際芸術祭2020
https://art-sightama.jp/jp/

・「Sightama Art Center Project」とは?
https://art-sightama.jp/jp/artist/uFoQfZSn/







⚫︎写真作家・造形ワークショップデザイナー ・キュレーター・「時間」と「記憶」をテーマに制作。2012年〜ヒロシマの被爆樹木をフォトグラムで作品制作 ●中之条ビエンナーレ2019参加アーティスト ●さいたま国際芸術祭2020 市民プロジェクトコーディネーター