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無重力状態の実験で見えた「障がい者が優秀な宇宙飛行士になりうる可能性」【クーリエ・ジャポンからの抜粋-Vol.193】

世界中を移動するエリック・イングラム(31)の生活には、車椅子が付き物だ。彼は、生まれつき関節異常を引き起こすまれな先天性難病「フリーマン・シェルドン症候群」を抱えている。宇宙飛行士になるのが夢だったが、2回応募していずれも門前払いされた。

しかし10月に行われた特別な飛行体験で、イングラムはいっさい物に触れることなく、宙に浮いて体をくるくる回した。月面重力が再現された飛行では、もっと驚いた。地球重力の6分の1しかない月の重力で、彼は生まれて初めて自分の足で立つことができたのだ。

これは、無重力状態が障がいを持つ人にどのような影響を与えるかを検証する実験飛行で、南カリフォルニアで行われた。イングラムは、放物線飛行によって空中浮遊を体験した12人の障がい者のひとりだ。

実験飛行を企画したのは、誰もが宇宙の旅に参加できることを目標に掲げるNPOのアストロアクセス。1960年代に有人宇宙飛行が始まって以来、宇宙へ行った人間は約600人にのぼるが、アメリカ航空宇宙局(NASA)をはじめとする各国の宇宙機関は長い間、宇宙飛行士という仕事を人類のごくひと握りに限定してきた。

しかし大富豪らが資金を投じ、政府の宇宙機関の支援を受けた民間宇宙飛行サービスが注目を集めるようになると、さらに多様で幅広い階層の人びとが宇宙の入り口と、さらにその先へ向かう道が開かれはじめた。障がいのある人びとも今、その一員になることを目指している。

参加者は90%の確率で自席に戻れた

アストロアクセスのような試みの目標は、「宇宙飛行におけるアクセシビリティ」に関して、政府機関が検討する際の指針を提示することにある。

宇宙へは行けないものの、ジャーナリストとなった彼は、ポッドキャスト「宇宙について話そう(Talking Space)」などで宇宙の話題を発信している。

だが日曜日の実験飛行でローゼンスタインは特別に改造されたフライトスーツを着用した。ストラップがついていて、ここを握って膝を曲げたり伸ばしたりができるようになっている。

「自分自身、自分の体すべてを動かすことができました。長いこと奪われていた自由をやっと手に入れることができて、なんと言ってよいか、言葉が見つかりません」

アストロアクセスのミッションコミュニケーション部門を統括するアン・カプスタによると、12名の参加者は無重力再現状態で12回、月面重力再現状態で2回、火星重力再現状態で1回の計15回のシミュレーションテストを行った結果、約90%の確率で自分の席に戻ることができたという。

実験飛行中、アストロアクセスはこうしたテストを繰り返した。持続時間はいずれも20〜30秒で、7月にジェフ・ベゾスが実施したような弾道飛行に障がい者が参加し、限られた時間内に安全に着席して大気圏再突入が可能であることを確認した。

着席訓練は弾道飛行を行う場合は一般的だが、再突入前に時間的余裕がある軌道周回飛行ではその限りでない。

微小重力下では障がいを持った人の体が楽に動かせるようになるという事実は、実験飛行を企画したチームの一部にとっても驚きだった。

アストロアクセスのスポンサーで、宇宙教育振興NPO「ユーリズナイト」エグゼクティブディレクターのティム・ベイリーもそのひとり。ベイリーは当初、「障がい者は繊細だから、地上にいるとき以上の予防医療措置が求められるのでは」と心配していた。

「この実験で得たいちばん重要な学びは、『これは厳しいことになるぞ』という最初の考えが間違っていたことです。彼らはほとんど補助器具なしで過ごせたのですから」

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