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インドで審議が始まった“二人っ子政策” 人口抑制論が再燃した「本当の理由」【クーリエ・ジャポンからの抜粋-Vol.130】

インディラ・ガンディーの息子サンジャイ・ガンディーが実施した悪名高い強制避妊手術政策では2年間で800万人が避妊手術を受け、そのうちの600万人の男性が精管結紮(パイプカット)手術を受けたことで知られる。

それから半世紀、インドで再び「人口抑制」という非常にデリケートなテーマが議論の俎上に上がっている。7月23日からインド連邦議会下院「ローク・サバー」で与党のヒンドゥー至上主義政党の議員が提出した人口抑制に関する4法案の審議が始まったのだ。

法案の狙いは「将来的には1家庭につき子供は2人までとすること」だ。表向きは、インド国内の人口増の圧力を減らすためだと謳われている。

インドの人口は2030年までに14億人を突破し、中国を抜いて世界一になると予測されている。人口抑制を呼びかける議員たちに言わせれば、「家族計画の奨励と普及に努め、人口を国の資源と開発状況に適合させることが必要」なのだ。

なお、インド紙「インディアン・エクスプレス」が、戯れにインドの議員の子供の数を調査してみたところ、議員の子供の数は「2~4人」だったことがわかった。下院「ローク・サバー」では「540人のうち子供が2人以上いる議員は168人」で子供が7人いる議員もいた。政権与党のインド人民党では「子供3人の議員が66人、子供4人の議員が26人、子供5人の議員が13人」だった。

最大野党の「国民会議派」は人口抑制政策を時代錯誤だとする立場だ。同党の幹部はインド紙「ヒンドゥー」に対し、「2031年にはインドも人口高齢化問題に直面することになる」と語った。ヒンドゥー紙によれば、「インドの大半の州が人口減少に転じる重要な転換点をすでに迎えており、そのことを踏まえれば、この種の法案は不要だ」という。

インド国内で人口減少に転じた最初の州は、南部のケララ州(1988年)で、その後、やはり南部のタミルナド州(1993年)が続いた。前出の国民会議派の幹部の話によれば、「現時点でもインドの大半の州の出生率はすでに人口置換水準程度で落ち着いている」とのことだ。

出生率が依然として高い東部のジャールカンド州、中部のマディヤプラデシュ州、北部のラジャスタン州とウッタルプラデシュ州も2026年頃には人口置換水準程度まで下がり、2030年にはインド最後の州として東部ビハール州の出生率も人口置換水準程度まで下がると予測されている。

人口抑制政策の議論が再燃するきっかけとなった出来事は2021年7月にウッタルプラデシュ州で起きた。この州はインドで最も人口が多く(2億3500万人)、州首相は過激なヒンドゥー至上主義の僧侶だ。そんなウッタルプラデシュ州で人口を抑制する法律を作る動きが出たのである。

「イスラム教徒が多産であるせいで、国内の人口のバランスが崩れているという説をインドで聞くことが多い。インドの右派のプロパガンダでは、イスラム教徒が多産なのは、すべて政治権力を握るための策略なのだと説明されている」

人口抑制政策の議論の再燃の背景にイスラム教徒の人口増加があると指摘するのはインドのオンラインメディア「スクロール」だ。

たしかにインドの人口に占めるイスラム教徒の割合は、1951年の9.8%から2011年の14.2%へと増加を続けている(2011年は最新の国勢調査が実施された年)。とはいえスクロールの記事によれば、「いまはイスラム教徒のほうがヒンドゥー教徒よりも家族計画を受け入れるのに積極的だ」という。

また、インドの出生率が高いのは、「宗教的要因によるものではなく、識字率や所得、医療機関へのアクセスといった社会的要因によるもの」だということを忘れてはいけないと指摘している。

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