日本未公開…映画祭映画のススメ②
こんばんは。前回の記事が意外と好評だったので第二弾やろうと思います。
『ニーナ・ウー(Nina Wu)』(ミディ・ジー / 台湾)
ハリウッドを震撼させたMe Too問題に触発された作品。台湾映画界を舞台に主役の座を射止めたものの精神的に追い詰められる女優を描く心理サスペンス。ミディ・ジー作品の常連ウー・カーシーが脚本兼主演を務めた。カンヌ映画祭「ある視点」で上映。
ミディ・ジー監督はミャンマー生まれで現在は主に台湾で活動しているアーティストです。ドキュメンタリーも多く手がけ、長編三作目『Ice Poison』では金馬奨監督賞にノミネート、次の『マンダレーへの道』ではヴェネツィア国際映画祭に出品、金馬奨でも作品賞、監督賞など6部門にノミネート、東京フィルメックスにも招聘されました。そして本作ではカンヌ国際映画祭ある視点部門に出品され、東京フィルメックスで上映されました。
個人的には赤を印象的に使った作品には無条件で惹かれてしまう癖があるのですが、本作も美術や照明が本当に素晴らしく、色彩が不穏で美しく最高です。
そして映画としてとても面白いし上手い。時系列を交錯させながら現在と過去を巧く演出し、精神が壊れ現実と虚構が入り交じるクラクラするような世界観に魅了されました。
主演のウー・クーシーの持ち込み企画だということもあり、本当に素晴らしいんです!この女優さんを見ているだけで得した気分になれます。
『薄氷の殺人』のビジュアル&『プロミシング・ヤング・ウーマン』のプロットが好きな人は必ず気に入るはず!
『列車旅行のすすめ(Advantages of Travelling by Train)』(アリツ・モレノ / スペイン)
コソボ戦争に赴いて片腕で帰還した男、不幸な結婚を繰り返す女、正体不明の医師…。複数のエピソードが互いに絡み合いながら、奇想天外な結末へと邁進する熱量の高い物語。何が現実で何が虚構か? スペインの新鋭が紡ぐストーリーテリングに注目。
監督のアリツ・モレノは本作が長編一作目となる新人監督です。これまでは短編を何本かとっており、『Colera』という作品を観たのですがこれも素晴らしかったです。リンク貼っておきますね。
本作は原作があり、とにかく複雑怪奇で映画化不可能だとされた小説だったようです。しかし監督がどうしても映画化したいと何年もかかって実現したのが本作という経緯があるようです。
無名の新人にも関わらずまずシッチェス映画祭に出品、スペイン・アカデミー賞であるゴヤ賞では新人監督賞を含む4部門でノミネート、ヨーロッパ映画賞のコメディ映画賞にもノミネートされました。日本では東京国際映画祭で上映後すぐに開催されたラテンビート映画祭でも上映されました。
まるでマトリョーシカのように入れ子構造になっており、ある人が話していると場面が変わりそのシーンになり、またその中で話している内容に場面が飛んでいくという感じで「いったい何を見ているんだ?」となります。
一つ一つが本当なのか分からない、ブラックユーモアに溢れた興味深い話で、鮮やかなビジュアルも非常に強烈。
めまぐるしい展開に強烈なビジュアル、クスッとくる笑いも秀逸で飽きさせない。これは日本公開してもめちゃくちゃ話題になりそうな作品だと思いますよ!配給の皆さん!
『バグノルド家の夏休み(Days of the Bagnold Summer)』(サイモン・バード / イギリス)
ヘビメタ少年のダニエルは母と離婚した父が住むフロリダへの旅行が中止になり、やむなく夏休みを母と過ごす羽目になる…。思春期の少年とチャーミングな母親の関係が愛おしい、クールで心温まる親子のドラマ。
監督のサイモン・バードはシットコムの俳優としてイギリスでは知られている人物で、本作が長編一作目となります。
そしてなんといっても本作、ベルセバことベル&セバスチャンが音楽を手がけています。東京国際映画祭でもベルセバ目当てとみられる観客が多かったです。また、原作があり、2012年に刊行されたグラフィックノベルです。
思春期の青年と母親が夏休みを過ごすだけというとてもミニマルな物語ながら、美しい撮影や思わず笑ってしまうようなディテールも満載でこの母子がとてつもなく愛おしい。
母親の元恋人や犬の存在によって死の匂いを感じさせるのも見事。ささやかながら希望が持てるような爽やかなラストもグッド!
『熱帯雨(Wet Season)』(アンソニー・チェン / シンガポール)
「イロイロ/ぬくもりの記憶」以来となるアンソニー・チェン待望の監督第2作。前作のキャストを再び起用し、中学生と担任の女性教師の間の感情の揺れ動きを繊細に描く。トロント映画祭のプラットホーム部門でワールド・プレミア上映された。
アンソニー・チェン監督は長編デビュー作『イロイロ / ぬくもりの記憶』がいきなりカンヌ国際映画祭カメラドールを受賞、金馬奨でも作品賞を含む四冠に輝き、アカデミー賞シンガポール代表作品になりました(ノミネートはならず)。
それから6年ぶりの長編作品となった本作、なんと『イロイロ / ぬくもりの記憶』では親子役であった二人の役者が女性教師と生徒の恋愛を演じています。
生徒と教師の恋愛という物語は一部には全く受け付けない人もいるでしょう。でも本作、とにかく画面が豊かで映画的。細かな心理描写やハッとするよな画面作りが非常に巧みなのです。
いくらでもしょうもない、共感できない作品になりそうなのにしっかりとした構成力と美しい画面構成がそうさせないのです。もうこれは天性の才能としか言いようがありません。
本作もアカデミー賞シンガポール代表作品に選ばれました。そして実はJAIHOで配信も先日までされていたのですが終わってしまいました。配信中に書けば良かったと反省しています。
『轢き殺された羊(Jinpa)』(ペマ・ツェテン / チベット)
広大なチベットの草原を舞台に、「ジンパ」という同じ名を持つ二人の出会いを現実と幻想を入り交えながら描く。ウォン・カーウァイがプロデュースを担当。ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映され、脚本賞に輝いた。
ペマ・ツェテンはチベット映画の代表作家と言っていいでしょう。フィルメックスでは『オールド・ドッグ』(2011)『タルロ』(2015)『羊飼いと風船』(2019)の三度もグランプリに輝いています。
本作はウォン・カーウァイがプロデュースし、ヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ部門脚本賞を受賞しました。フィルメックスでも審査員特別賞を受賞しています。
乾いた西部劇のようなロードムービーでありながらチベット独特の空気感もあり見応えがあります。
ハードボイルドな運転手と人を殺しに行くという男、どちらも重い過去を背負い充たされない思いを抱えています。
思わせぶりなだけで終わらず、映画としての強度があります。想像の余地を残す結末も含めかなり好みの作品でした。
ということで今回は5作品紹介しました。
それではまた!
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