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僕がCallaway Golfから学んだもの<"Make a Story"編・その2>

ゴルフビジネスにおける"Make a Story"

語るべきものストーリーを創る。
優れた製品を成功させるには唯一、最初のステップが肝心である。
成功するには、競合との競争の中で
いかに興味深いストーリーを持つかである。

ワインビジネスにおいては「英国エリザベス女王陛下のお墨付き」が最大のストーリーとなり素晴らしい結果をもたらしました。
ゴルフビジネスにおいてはどのようなストーリーを考え、実践したと思いますか?
ストーリーの最も効果的なものは著名人が使用して「これは良い」と製品の良さをアピールしてもらうことです。ゴルフでは著名なプロゴルファーがその候補としては最右翼です。それを使うことによってクラブの性能の確かさ、良さを自らのショットで証明してくれるからです。

しかし、著名なプロゴルファーはメーカーと用具の使用契約がすでに締結されていて、その契約金額も小さなメーカーが提供できるものではないのです。しかも、創業者イリー・キャロウェイ(以後イリー)はゴルファー全体の10%未満の上級者用のクラブを作るより、「道具で少しでもミスを減らしゴルフを楽しみたい」と考えるゴルファーを対象としたクラブを作る方が圧倒的にビジネスとしては大きなものになる、と考えていました。
だから、プロゴルファーを使ったストーリー創りはできないのです。
無名に近いメーカーの新製品が、発売と同時に大きな売り上げを達成し、会社のポジションを大きく引き上げ、ブランドとして確率するにはどのような仕掛けが、ストーリーとして必要なのでしょうか?

3つの仕掛けでストーリーを創る
小さなメーカーの画期的な新製品が従来の市場を大きく変化させ、自社のポジションを決定的なレベルにまで一気に持っていく、これがイリーの戦略、やり方です。製品はDSPD(明らかに優れていて、その違いを楽しむことができる)的な製品です。これをどのようにしたら「確かにそうだ」と認めてもらう方法が手段なのです。
販売としての理想は発売時に、その新製品を求めているゴルファーがショップに押しかけ「XXXXXX」をください、と新製品を指名し購入することです。
つまり新製品の名前は斬新で覚えやすくシンプルで製品をイメージしやすい名前をつけることが最初の仕掛けでした。

2つ目の仕掛けは発売前に噂を作ることです。「キャロウェイゴルフというメーカーから新しく発売されるドライバーはものすごく良いものらしい」という噂を。つまり口コミをどのようにして引き起こすかです。

3つ目は発売する時期、タイミングを見計らって発売することです。口コミという噂が最高潮に達し、ゴルファーがいつそれを手に入れられるのか、どのくらいの需要が見込めるのかを見ながら、最初に購入した人の評価で第2の需要の波が起こっても欠品という事態を招くことなく製品の供給ができるタイミングまで見定めた上での発売日の決定です。

このようなアクションは経験と消費者心理を理解した上で、さらにPR効果を最大限に引き出す手腕がなければできないことです。それを普通にやってしまうところがイリーの経営者としての器の大きさであり、僕が学んだ最大の部分なのです。

1、「Big Bertha:ビッグバーサ」という名前
イリーは新製品の名前は画期的な製品である以上それにふさわしい名前が必要だと考えていました。誰でもがイメージするようなものではなく、意外性を持ったものでゴルフクラブにはありえない名前は強い印象を顧客に与え、購入に当たっては他の類似した名前の製品と間違えることなく手に入れられるものです。
イリーはこの画期的な新製品(ドライバー)の名前を「ビッグバーサ」としたのです。
なぜ、この名前にしたかは詳しく書くと長くなるので手短に書きます。

まず、この新製品の正式な名前は「ビッグバーサ」にする、と社員に発表した時、すべての社員からは大反対の声が上がったのです。「Big・Bertha」という名前をよく見ると「ビッグなバーサ」と言うものです。バーサは女性の名前ですからさしずめ日本語に訳すと「太っちょバーサ」となります。
反対される理由がわかりますよね。
イリーはこの名前をどのようにして思いついたのでしょうか?
彼は画期的な新製品を武器に置き換えて考えていたのです。もし、誰かと武器を持って戦うなら、誰でも明らかに相手より優れているものを使います。しかも「ビッグバーサ」というドライバーは明らかに従来のドライバーよりまっすぐに遠くにしかも正確に飛ばせる機能を持ったものなのです。兵器であれば大砲をイメージしたのです。他の大砲に比べ、遠くに正確に弾を打てるものであれば、有利に戦えるからです。
そこでイリーは図書館に行って過去の大砲で画期的なものと言われたものがあったのか、それはどのようなものでなんていう名前かを調べたのです。

見つけたのです。第1次世界大戦でドイツ軍が開発した巨大な大砲があり、その大砲はドイツ語で<ディッケ・ベルタ>と名付けられたもので当時の技術では15km先の標的に届く性能が最高のものであったものを数100km先に着弾させるものでした。ベルタとはこの大砲を開発・製造したドイツのクルッペ社の社長夫人の名前からつけられたもので、連合軍は英訳して「ビッグバーサ」と呼んで、この兵器を潰すことが当面の作戦になったほどのものでした。この機能は第2次世界大戦末期、やはりドイツ軍が開発したV2ロケットができるまで破られなかった射程距離を持っていたのです。
<写真はウィキペディアより>

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イリーは文献で「ビッグバーサ」の事実を知ったことでこの名前を最新のドライバーにつけることにしたのです。
しかし、すべての社員が反対したのにイリーは押し切ったのです。この名前こそ新製品の機能を明確に表すものとして、この事実をストリーとして語るべき、と力説したのです。
狙い通りの「ビッグバーサ」の世界的な大ヒットのあと、イリーは社員に対して「君たちは画期的な製品を開発することはできる素晴らしい能力があることは証明された。しかし、それにふさわしい名前をつける能力は私の方がどうも優れているようだ。以後、新製品の名前は私がつけることにする」と言ったのです。
誰一人反論する人がいなかったことは理解できますね。

2、噂を創り出すという仕掛け
クラブの性能を正しく評価できるのはやはりプロゴルファーが一番です。しかし、このドライバーはプロが好んで試合で使うものではなく、一般的なゴルファー用に開発されたものだけに、どのようにして噂を創るかをイリーは考えていました。
そこで、著名なメンバーコースのクラブプロに噂の元になってもらうべく手段を講じたのです。
それは1本の試打用ドライバーと手紙を添えて彼らに送ったのです。
手紙の内容はこうです。
”私たちは画期的なドライバーを開発しました。より完成した状態で発売したいと考えています。お送りした試打クラブを打っていただき、どこをどのように改良した良いかを教えていただけると助かります。ご協力よろしくお願いします”と。

イリーは「ビッグバーサ」の機能については自信がありました。彼の狙いは、クラブを手にしたプロはまず試し打ちをするだろう。そして、今自分が使っているものより明らかに優れていれば、自分のクラブとして使うことになる。そして、自分の顧客でもあるメンバーに「面白いクラブがテスト用として送られてきたので試してみませんか? きっと驚くような結果が出ると思いますよ」と言って試打をさせるのですが、ほとんどが「何これ、凄いドライバーだね、いつ手に入るの? すぐ注文します。予約を入れといてください」となるのです。プロはプロショップも経営しているので注文は売り上げに直結します。まだ発売もされていない商品で在庫も持つことなく、1本の試打クラブだけで何本も売り上げが取れるものはめったにないものです。

同時に、試打をして注文をした人は仲間に「ビッグバーサというキャロウェイゴルフから近々発売されるドライバーを試打したけど、飛ぶしやさしく打てるので注文してきた。君も試した方がいいよ」とコチコミが始まるのです。クラブを配った先々でこのような現象が起こり始めたのです。

3、発売のタイミングを見極める
「ビッグバーサはいつ発売になるのか、早く手に入れたい」注文した人からはこのような声が日増しに強くなってきました。
期待が怒りに変わってしまうと元も子もありません。人々が渇望しているそのタイミングを見極める必要が重要なポイントです。
最初に発売日を告知することで期待感は維持できることから、新製品の正式発表を1991年1月に開催されるPGAマーチャンダイズショウとし、発売はショウの後2月から発売開始として関係者に告知したのです。
PGAショウはビジネスショウなのでゴルフショップの人たちはここで年間の発注をするところがほとんどとなります。
噂は全米に広まっていました。キャロウェイゴルフから凄いドライバーが発売されるそうだ、今のうちに注文を出しておかないと欠品でもされたら顧客にも信頼されなくなるし、売り上げも作ることができない。PGAショウに行って注文を出して商品の確保を確実にしておこう、消費者心理を読んだ展開です。

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もう一つ特筆すべき行動がありました。
PGAショウはフロリダ州オーランド市のコンベンションセンターで開催されるのですが、近くにはディズニーワールド、シーワールド、ユニバーサルスタジオそして多くのゴルフ場が点在し、オーランドは冬季の観光スポットとしても有名なところです。市内のホテルの部屋数は約2万室。そこに配られる新聞を買取り、ビッグバーサの発表と発売日を明記したポスターを新聞に挟み込みPGAショウ前日の夜から全室に社員総出で手分けをしてドアの下から配布したのです。わずかな人数のため明け方まで作業が続いたのでした。
ポスターにはこのように書かれていました。
「大変お待たせしました。ビッグバーサは明日PGAショウで発表します。発売は2月から行います」

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2万人以上の人がそのポスターを目にするわけですが、当然顧客もその中に入っています。しかし、イリーの狙いはライバル会社の人たち、メディア関係者、ゴルファーやゴルフをしない人たちにまで「ビッグバーサ」と言う奇妙な名前のゴルフクラブを印象付けるものでした。
翌日、キャロウェイゴルフのブースは大変な人だかりで、セールス担当者は戦場のような慌ただしさでメディアもその様子をニュースとして報道することとなりました。
キャロウェイゴルフから発売される新製品「ビッグバーサ」の人気具合を報道することで、新たな購入希望者が生まれるのです。

口コミという最も強い宣伝力を生み出し、これを"Make a Story"として機能させたのです。
正直、ここまで考えての行動とすれば凄いの一言です。広告代理店などは不要ですね。

どのくらいの本数が販売できたと思いますか? 営業担当者などは過去のヒット商品などを参考にして、更にそれを上回る需用として6万本を見込んで生産をしていました。この数字自体天文学的なものです。しかし、イリーは万一需用予想が外れて欠品状態を起こすと購入できなかった人たちの声は期待から怒りに変化し、その後に影響を与える、と考えていました。
小さな会社が部品を発注して製品を作り、それを出荷して販売しお金として回収できるまでには約半年かかります。その間、収入はなく先行投資という形でお金が流れていくのですが資金繰りを見ながらの発注となります。予想通りにいかなければ大変な負債を一気に追うことになるので、これも大きなリスクなのです。"Take a Risk"そのものです。

そこでイリーは自分の資金でヘッドを更に数万個発注して顧客の期待に答えたのです。 最終的には1991年、ビッグバーサは年間で20万本という素晴らしい数字を達成したのです。しかも、当時の平均的なドライバーの価格は1本$150が相場だったものを、ビッグバーサは$298と約2倍の価格でも顧客は喜んで購入したのです。
イリーは「製品の価格はかかったコストから逆算して決めるものではない。コストが安くても製品に価値があるなら高くても売れる、価格は市場の欲求度二よって決まるものだ」と言っていたことを思い出します。

ビッグバーサの大ヒットはゴルフ界に「良いものは高い価格でも販売が可能だ」という概念を新たに作り出し、それこそ多くのメーカーも恩恵に預かったのです。
イリーが"Make a Story"を強調する意味がお分りいただけたでしょうか。
要点を纏めるとこのようなものです。

*最初に出す製品は市場のニーズに沿ったもので最高品質のものでなけれ 
 ば ならない。
*新しいものを出すときは最初が肝心である。
*最初に持てる力の全てを集約して勝負する。
*製品のもつ強さをストーリーとして語る、
*競合他社とは違う土俵でビジネス展開をする。
*これらもストーリーとして纏める。

真実ですね。

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