ホンダがスーパーカブでアメリカ市場を席巻した理由

ハーバードビジネススクールなど世界トップのビジネススクールで、ホンダのアメリカ市場攻略がケーススタディとして取り上げられていることはご存じでしょうか。

アメリカ進出からたったの7年で63%のシェア獲得

ホンダは1959年にアメリカ市場に進出しています。当時、アメリカのバイク市場はイギリス企業が席巻していました。オートバイ輸入市場の49%をイギリス企業が占めていたほどです。

そこからたった7年後の1966年、ホンダはアメリカのバイク市場の63%ものシェアを獲得したのです。わずか7年の間に、ホンダはどうやってアメリカ市場を完ぺきに攻略したのか、誰よりも知りたかったのはイギリスでした。

ホンダの完ぺきな市場開拓戦略

アメリカのオートバイ市場でホンダにいいようにしてやられてしまったイギリスは「なんで?」と疑問に思ったに違いありません。そこでイギリス政府は、トップコンサルファームのボスコンに調査を依頼しました。

ボスコンが作成したレポートは、ホンダの経営戦略のすばらしさを称えるものでした。ホンダの経営陣はアメリカの中産階級にターゲットを絞り、戦略的に小型のバイクで参入することで成功した、と書かれていました。

でも、それって本当なの?

ボスコンのレポートに「それって本当なの?」と疑問を持った学者がいました。リチャード・パスカルという経済学者です。のちに『ジャパニーズ・マネジメント―日本的経営に学ぶ』を著すことになる一流学者です。

彼は日本へ飛んで、アメリカ市場を担当したマネジャーたちにインタビューを行いました。ホンダが「本当は」どうやってアメリカ市場を攻略したのか、その糸口を探りたいと思ったわけです。

「戦略なんてなかった」

ホンダのマネジャーの答えは意外なものでした。彼ら「実は、アメリカで売れるかどうかやってみよう、という考え以外に特に戦略があったわけではないのです」と打ち明けたのです。

つまり、ホンダにアメリカ市場進出の戦略なんてなかったのです。まずアメリカに進出してみよう、何かがわかるかもしれない。そんなレベルで彼らはアメリカ進出を決めていたのです。

大型バイクで大失敗...

当初、ホンダはアメリカ人に対して大型バイクを販売していました。価格的にも、性能的にも「イケるはず」とホンダの経営陣はかなり自信を持っていたようです。

ところが、いざ販売してみるとトラブルが続出しました。アメリカ人がオートバイを長距離、高スピードで乗るために、ホンダのバイクが壊れ始めたのです。そこで仕方なく、小型バイクの販売に切り替えます。

ケガの功名でスーパーカブが大ヒット

仕方なしで始めた小型バイク「スーパーカブ」の販売は、予想外の大ヒットにつながります。アメリカ人はスーパーカブをおもちゃ感覚で使い始めたのです。キャンピングカーに積んで、旅先で乗り回すような人々も出てきました。

これは、ホンダが当初想定していた計画とは全く違います。大型バイクがたまたま市場にフィットしなかったから、結果的にスーパーカブがヒットしたのです。まさにケガの功名です。

まとめ

ホンダの事例が教えてくれるのは、事後的な分析の限界です。後から振り返ると、戦略は一本道で筋が通っているように感じられるものです。しかし、実際には試行錯誤が山ほどあるはずです。

例えばAmazonはやることなすこと成功しているように感じられます。でも実際には、ジェフ・ベゾスCEO入魂のスマホ「Fire phone」など、たくさんの失敗があるわけです。

頭でっかちな分析脳になることなく、まずやってみる、そして失敗から学ぶというフットワークの軽さが重要なのではないかと思う今日この頃です。

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