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「《人間性の問題》でしょ!」で想い出すのは「恋愛小説家」のジャック・ニコルソン

正月に娘夫婦と食事をしている時、会話を何から始めるか、という話題になった。
「《営業職》は《ホメ言葉》からはいる」
という。職業がら板についているので、相手が家族であっても、例えば手料理をホメたり、服をホメたりするところから入っていくのだとか。

「うーん、じゃ、オレの場合は……」
とカミさんを横目で見ながら、
「──《小説家》は《皮肉》からはいる」
口にした途端、猛攻撃が始まった。

「それ、小説家と全然関係ないじゃん! お父さん個人の《人間性の問題》でしょ! …〇%$▲*@#…
アンタという《人間自身に問題がある》からじゃないの! …▽$+*#¥…
「おおおおーっ!」
機銃掃射を浴びる私に、慣れないムコ殿は心配そうに見ていたが、この反応はけっこうウケていた ── 他ならぬ、私自身に。
弾丸タマが快感を呼ぶ体質になってしまったのだろうか?

そして想い出したのが、映画「恋愛小説家」。なぜかは読んでいただければわかります。

ネタバレご注意。かなり昔の映画だから問題ないかな。
これも、「全身小説家」同様、会社の映画同好会時代に書いたエッセイをほぼそのまま掲載します。

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ここの所、土曜日は会社で仕事をして日曜は家族と過ごす、という生活が続いていたが、ひとり家に残される日曜ができたので、ヘラルド・シネマプラザ*の地下に出かけた。ここにはかつて「木村家の人びと」の試写会に招待された。
(*今はもうありません)

原題は「 As good as it gets」という。あえて訳せば、いい意味で「相応ふさわしい」ってな感じだろうか。
主人公のメルビン(ジャック・ニコルソン)は恋愛小説を書くプロ作家だが、超・自己中心的な性格のため、社会的生活が困難となっている。

日頃より家族から「自己中心的だ」と非難されている私には他人事ではないが、逆に、家族に映画を見せて、
「ほら、いくらなんでもここまでひどくはないだろう」
と言ってやりたい気もする。

歩道の継ぎ目を絶対に踏まない、レストランには自分用のプラスチック製ナイフ・フォークを持参し、必ず同じ席に座る、というこのエキセントリックな人格をジャック・ニコルソンが絶妙の演技で見せる。
初めは毒舌で相手を傷つけ他者を排斥している彼が、ほんの少しずつ他人に心を開いていく過程を、どもったり、照れを隠すためにやはり毒のある言葉を吐いたりする行動で表現する。

メルビンが好きになった子持ちの女性・キャロルが、どう見ても異常な彼に親切にされた礼を言った後、でも、
「I will never, ever, sleep with you」
と強調されてショックを受けた彼が、自分流の生き方をほんのわずか変え、もう少しマトモになろうとする

つまり、
「You make me want to be a better man」

そして、キャロルとの電話に出る前に、見えやしないのに、髪を整えるのである。メルビンの齢は間違いなく五十を過ぎているが、これらは初めて恋をした頃の少年たちに共通の気持ちだろう。

決して煉瓦道を歩かなかった(継ぎ目だらけだからだ!)メルビンも、最後にキャロルとならば歩けるようになる(というよりも、一緒に歩くためには、継ぎ目を踏まざるを得なくなるのである)。

まあ、そういうものだろう。
恋愛とか結婚とか、社会的生活には、得るものもあれば失うものもあるのだ。


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