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1-1 フランス・パリ 前編 Part1

こんにちは、吉武です。はやくも投稿が遅くなりました 汗
まず第1回目は、フランス・パリについて紹介していきます。
個人的に馴染みも多く、書きたいことが多いのですが。

この記事では、去年行った際の歩行者空間関連の調査関連と、比較的最近できた広場や公園について書いていきます。
次回記事で、パリ中編として歴史的に著名なものなどを紹介してパリ全体の文脈の概要を、パリ後編として、建築と周辺オープンスペースの作られ方を取り上げられたらと思います。


※前編だけでも長くなりすぎるので、小分けに書くことにしました。。。
前半は、最近の都市交通施策の方向性、後半でそのフラッグシップとなったリパブリック広場のデザインについて書きました。
ということでPart1です。どうぞ。。


0.パリの交通・公共空間施策について

 まず、最近のパリの都市整備に関する動きについて、有名なのはコロナのタイミングで打ち出された「15分都市」の概念かと思います。こちらについてはほかの記事で分かりやすく説明されているので今回は割愛します。
15分都市の土台になっているのが、道路を人のために取り戻すという考え方です。



できるだけ簡単に交通・都市施策の背景を説明すると、大気汚染防止、交通安全・騒音の抑制・賑わいの創出(商業活力の向上)の観点から(最近では併せてパリ五輪も睨みつつ)自動車のための空間を人のための空間に取り戻す方向へと変わってきました。

各プロジェクトについては、後述しますが全体として

①7つの広場整備=自動車から人への面的空間整備
②自転車ネットワークの構築
③Paris Respire=「パリの呼吸・息吹」=中心市街地の自動車抑制
 

の3点がポイントになるかと思います。


①7つの広場整備=自動車から人への面的空間整備

以前からもイダルゴ市長によって、セーヌ河岸の自転車高速レーンを廃止し遊歩道にする政策(中編で記述予定)や、大通りの自転車レーン拡充整備がすすめられていました。
その流れで、後述するリパブリック広場が人のための広場として整備されたことを契機に、自動車交差点(ランドアバウト)となっていたパリの主要な7つの広場を2020年までに整備するという目標が掲げられ、この度その整備が完了しました。現地の様子は後述します。これらの都市プロジェクトは、専門家集団と、市民との共同で設計がすすめられています。有識者へのインタビューやデザインワークショップや検証を経て現在に至ります。こうした整備プロセスであったり、整備にあたって、緑化の数値目標や交通の空間分担などを明確に数値で示すことも非常に大事かと思います。


バスティーユ広場の完成イメージ
(https://www.paris.fr/pages/le-renouveau-des-grandes-places-parisiennes-6994)


②自転車ネットワークの構築

①は主にコロナ前からの動きで、それに連動して、自転車道の整備が少しづつ進められていました。更にコロナで外出が制限され街中から人が消えたタイミングで、パリ市は自転車空間整備を急速に進めました。市内の大動脈的道路の片側車線を自転車専用レーンに暫定的に変更し、最終的に今も自転車レーンとして使われています。
(当時パリに住んでいた時の感覚からすると、パリは地下鉄が発達している一方でストライキのために利用できない(2019年の12月頃1か月近くストライキがあった)、汚い、治安が悪い等の理由でコロナ以前より代替の交通手段として自転車が少しづつ増えていた、一方で自転車道の整備が不十分で電動キックボードも含めた高速運転に対する交通安全の問題がありました。このギャップを解決するためのチャンスとしてコロナの外出規制を利用したという印象です。)

自転車施策については、電動シェアサイクルの拡充などの周辺施策の展開とともに、空間的にも自転車と歩行者と車を断面的にも空間を分けたこと(段差など)やネットワークをしっかり結んだこと、信号現時の調整など自転車をヒエラルキー上位に持ってきていることで成功しているかと思います。

リヴォリ通りの自転車道


③Paris Respire=「パリの呼吸・息吹」=中心市街地の自動車抑制

これは、中心市街地から車を締め出す取り組みといってよいかと思います。
元々は、パリで始まったカーフリーデーの流れを汲んだものですが、有名なマレ地区あたりで、休日に自動車通行禁止の通りを設けるというものです。この地区は道路が細く、一方通行の道が複雑に入り組んでいると同時におしゃれで歩いて楽しいエリアです。これに対して、エリア全体を通行止めにするわけではなく、一方通行の路線を戦略的に通行できなくすることで、ネットワークとしても全体の交通静穏化を図り、通過交通を大いに抑制するものとなっています。
実際の通行止めの路線の入り口は写真のようになっていて、住民・荷捌き等の許可車両は、看板を外して通行できるように工夫されています。(エリアの入り口に近いところには、警察が立っていました。)(パリの道路管理者と交通管理者の関係性は日本と異なります。)


紫が出会いゾーン(速度制限)、黄色は第1日曜日のみ、薄紫は毎週日曜日に自動車を制限
上の地図のマークのところにこのようなバリアが立ちます。

詳しくはこちらから


リパブリック広場のリノベーションで道路が人のために代わるというのはどういうことなのか、空間で示される
→①7つの広場が、主要なポイントを結ぶ楔になっている
→②パリ全体を結ぶネットワークの整備も進める
→③ネットワークの網を埋めるように細やかにゾーンづくりをしている

というような感じだと理解しています。この全体的な都市の流れに対して、ビジョンを実際の空間に落とし込んだという意味で、リパブリック広場はとても重要かつ力の入ったプロジェクトです。交通などの諸条件をうまく整理して、空間に落とし込んでいると思います。


1.リパブリック広場 / Place de la République

ようやく空間の話に移れますね。この広場は、僕がパリに行きたいと思った一つのきっかけでもあり、また、たまたま当時の下宿先が近くて、インターンしていた設計事務所もこれまた近く、毎日ここを通って通勤していました。それだけに何かと思い入れの強い場所です。

①概要

もしかするとこの画像を見たことある人もいるのではと思います。当時のドラノエ市長によって再整備が宣言された300×100mほどの広場です。2010年のデザインコンペでTVKという事務所の案が採用されました。

http://www.tvk.fr/en/architecture/place-de-la-republique-paris

左が従前で、濃いグレーがすべて道路です。道路によって、6つのエリアに分断されていました。
右側の整備後は、左側の道路のみが残って、右側の道路と真ん中を横切るルートが廃止されています。右側の廃止された道路は、現在トランジットモールとして運用されています。

②空間デザインについて
かなり広い空間ですが、構成要素としては大きく分けて、中央のマリアンヌ像、水盤、カフェ、並木、ベンチ、可動式イス、段差、舗装だと思います。

これだけ大きな都市空間の一部を居心地よいものにすべく、都市の軸線を並木、舗装で構築し、主景となるマリアンヌ像を水盤で演出しています。

水盤に映るマリアンヌ像
プラタナス並木。樹勢もよくとても居心地よい緑陰をつくる


続いて段差についてですが、これが特にポイントかなと思います。おそらく後述する複合的な理由から、元のなだらかな地形にあえて段差を生み出しているのではないかと思います

http://www.tvk.fr/en/architecture/place-de-la-republique-paris

まずは全体の空間構成について。面積が広いので、地面の傾斜で処理できる高低差なのですが、あえて階段を設けることで空間をうまく分節していると思います。ヨーロッパの人は、日本人よりもはるかに地面に座ることに抵抗がないので、踏代を少し調整するだけで人の居場所になります。実際にコンペの際にこの階段で分節された空間は、テラスと呼ばれここに稼働構造物を置いて日常とイベントの変化や地域のテーマを演出するとされていました。


テラスのイメージ図(http://cms.tvk.fr/site/assets/files/1990/tvk_dp_republique-en-web.pdf)

下の画像の右下あたりを見ると、もともと生えていたプラタナスと別に、テラスの空間に新たに木を植えて日陰を作り、キオスクを設置していることがわかります。

(http://www.tvk.fr/en/architecture/place-de-la-republique-paris

さらにテラス右側はトランジットモールになっていてバス・タクシーが侵入しますが、階段で分節し、広場中央レベルよりも路面を1段下げることによって自動車が視界に入ることを防いでいます。ここの交通計画との連動も一つのポイントと思います。


次に舗装についてですが、石ではなくコンクリート平板を使っていたのが印象的でした。おそらく予算の都合だと思いますが、このコンクリートの質感や経年変化が悪く見えないような舗装デザインになっているのではないかと思います。

http://www.tvk.fr/en/architecture/place-de-la-republique-paris

明度をコントロールして作った4色ほどのブロックを用いてムラ感を出していると同時に、特に人が多く集まるようなところと、それ以外のところとで材の寸法を変化させています。色のまとまりの大きさは変えずに全体性を保ちつつ、一つずつの舗装材を半分の寸法にしています。これをするために舗装材の目地を通した芋張りになっていたんですね。

右側がテラス

更に、写真だとややわかりにくいですが色ムラについてもテラス・日陰に近づくにつれて濃い色の舗装材の割合を変化させています。
こういった様々なデザイン行為によって空間のグラデーションが作られています。滞留の広場であると同時に、地下鉄路線が複数入り混じる交通拠点でもあるので、動線処理が重要になるためこのような空間の考え方が重要になります。


最後にファニチャーですが、当初は大きな縁台、長ベンチ、可動式イスが設置されていたようですが、現在はなくなっていて、代わりにスケートボード用の施設が設置されていました。おそらくスケートボード需要が高く、木のファニチャーは壊れたなどで撤去されたのかと思います。

完成当初の写真(http://www.tvk.fr/en/architecture/place-de-la-republique-paris)
スケボーパーク的に変わっていました。


あとは、カフェの建築の前に先述の水盤があり、特に夜景の演出が成功しているように思いました。マリアンヌ像もライトアップされていますが、夜景の演出も欧州の広場では非常に重要です。

③まとめ

最後になりましたが、実はこの広場は歴史的にも非常に重要な意味のある広場で、共和国広場の名を冠していてマリアンヌ像はフランス共和国の象徴とされています。そのためかなりの頻度で大規模のデモや集会が行われます。

こうした市民の意思表示の場としての広場のあり方を、留学しているときに目の当たりにして欧州における広場の重要性を再認識しました。

そういう意味でも、かなり多様なスケールのアクティビティが想定されていて、それに対応できる全体のプラン、細やかな断面操作、ディテールの作りこみがなされているわけです。

このプロジェクトによって、都市における広場のあり方が示され、やはり車の空間を人のために取り戻したいよねと市民が認識し、7つの広場プロジェクトにつながったと思います。


終わりに

1回目からかなりのカロリーを消費してしまいました。。。。
改めて文字にしたためると細かな空間の様子がつかめて自分にとっても有意義でした。他の場所について同様の解像度で語れるかは怪しいですが、都市デザインの話と各空間の両方について今後も取り上げたいと思います。

半ば力尽きる形で前編Part1を終えますが、前編で紹介したいほかの公園などを次のPart2で紹介しますので、お楽しみに!

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