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左手に金の滝が打つ 4

第1話

前話

今日の予定は夕方まで何もなく、その用事も三十分ほどで終わる。大した用事でもなく、それは定期検診のようなものだ。

いや、それよりも、飼育状況の確認、といったほうが良いのだろうか。

 部屋に戻った私は届いたダンボールを開けて、中身を勉強机の上に積み上げた。英語、フランス語、ドイツ語、韓国語、中国語。背表紙に並ぶ文字はバラバラで、そこに日本語がないことが私の高揚を誘った。

指の腹でほぐすように高速でページを捲りながら過ごす時間が私にとっての幸せであり、外から迷い込む自然の雑音が、動きのある世界の中に静止した自分がいることを教えてくれる。

この世界の中で私はようやく才能を発揮できるのだ。

次話

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