マガジンのカバー画像

長い夜を歩くということ

162
【この夜はまだ明けない。まだ、明けて欲しくない。】 「雨は朝でも昼でもなく、夜に降るものが一番好きだ。なぜなら夜の雨は黒く、家や街すらも塗りつぶし忘れさせてくれる。そんな気がす…
運営しているクリエイター

2022年4月の記事一覧

長い夜を歩くということ 137

 濃淡で模様を作る灰色の空が、裸の樹々を圧迫していた。 肌を刺すような冷たい空気はより透…

しゅん
2年前
1

長い夜を歩くということ 138

彼女は悪戯な瞳で私の顔を覗き込む。遊んでいるような、試しているような、演じているような。…

しゅん
2年前
1

長い夜を歩くということ 139

「それは…光栄なことですね。麗華さんにとって初めての男になったということですから」 「先…

しゅん
2年前
1

長い夜を歩くということ 140

彼女は 「私って意外と気さくだから、アプローチは誰からでも受けるのよ」 とわざとらしく胸…

しゅん
2年前

長い夜を歩くということ 141

彼女は口だけ笑顔を作り、葉から露が落ちるように視線を布団の上に落とした。 見つめる先には…

しゅん
2年前
1

長い夜を歩くということ 142

 新しい部屋での生活には何の支障もなかった。 家具家電は一通り揃い、1LDKの間取りは独…

しゅん
2年前

長い夜を歩くということ 143

 ゴッホが塗りつけたように無愛想な暗灰褐色の幹には、深緑の苔が吹きつけられ、上へ伸びていくに従って、細かく小さく分かれていく。 枝一本一本は丸く、表皮は艶やかで、若々しい灰褐色に染まっていた。 末端には似つかない白桃色の蕾を蓄え、春の訪れを待ちきれない幾つかの勝気な膨らみは、解けて風に踊っていた。 「あら先生、こんにちは。今日は遅かったですね」 私は自分の表情が心配になって、ゆっくりと力を加えた。 「はい。珍しく後輩の仕事に付き合っていましたので。急に予定変更しても

長い夜を歩くということ 144

「少し汗をかいてしまったので窓を開けても良いですか?」 彼女は「どうぞ」と目尻に皺を作る…

しゅん
2年前

長い夜を歩くということ 145

「どうしてですか?」 「ドラマでもよくあるでしょ?気になるところで翌週に持ち越したりする…

しゅん
2年前
1

長い夜を歩くということ 146

「でも、あれはやっぱり暑いものですよ。熱はこもるし、頭は坊主でも結局帽子を被るわけで、そ…

しゅん
2年前

長い夜を歩くということ 147

言葉に毛が逆立つ。 私は彼女の顔をしっかりと見た。 彼女は宝石のように光る瞳を箱に仕舞う…

しゅん
2年前
2

長い夜を歩くということ 148

「それはどうしてですか?」 「麗華さんにはこれからまた、私のような一般人には体験できない…

しゅん
2年前
1

長い夜を歩くということ 149

「先生は優しい人ですね」 「優しくは、ないですよ。ただ自分勝手なだけです」 私は膝の上に…

しゅん
2年前
1

長い夜を歩くということ 150

「それに坊主なんてことしたら、それはもう思い出ではなくて、ほとんど呪いですよ」 私は言った後に自分の言葉に気づいた。驚いた。彼 女を見た。彼女も驚いていた。 そして、なぜだか嬉しそうに微笑んだ。 「呪い?ああ、呪い、ね。うん、その方が良いじゃないですか。残酷な先生には私からの呪いを与えるくらいが丁度良いのではないですか?」 「女優というお仕事もなかなか残酷みたいですね。それとも麗華さんだけですか?」 「女は少し悪いくらいのほうが可愛げがあるのよ」 首を傾げて笑い