長い夜を歩くということ 143
ゴッホが塗りつけたように無愛想な暗灰褐色の幹には、深緑の苔が吹きつけられ、上へ伸びていくに従って、細かく小さく分かれていく。
枝一本一本は丸く、表皮は艶やかで、若々しい灰褐色に染まっていた。
末端には似つかない白桃色の蕾を蓄え、春の訪れを待ちきれない幾つかの勝気な膨らみは、解けて風に踊っていた。
「あら先生、こんにちは。今日は遅かったですね」
私は自分の表情が心配になって、ゆっくりと力を加えた。
「はい。珍しく後輩の仕事に付き合っていましたので。急に予定変更しても