長い夜を歩くということ 142
新しい部屋での生活には何の支障もなかった。
家具家電は一通り揃い、1LDKの間取りは独り身には広すぎるくらいだった。
部屋は帰宅するといつも居心地が悪いくらい暖かかった。
私はリビングの椅子にバッグを置くと、とにかく急いでテレビをつけ、なるべく汚い笑い声のするバラエティを探した。
それは湖面の波紋さえ責め立てるような静けさを壊し、放たれる無数の音で私のことを汚して乱して、酩酊させてくれた。
「一年契約をしているから。その間は自由に使ってくれ」と肩を叩いた院長の言葉の意味を私はあえて探すことはしなかった。
それでも、言葉の音だけが私の耳には痛く、彫刻刀で彫られたようにはっきりと残っていた。
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