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長い夜を歩くということ 141

彼女は口だけ笑顔を作り、葉から露が落ちるように視線を布団の上に落とした。

見つめる先には結ばれた両手があり、そこには黄昏の趣が宿っていた。

「自分ができないものを他人に求める。自分の虚しさを夢と憧れにして誰かに託す。これは人間の永遠の性みたいなものだと僕は勝手に思っています」

私は自分の言葉の弱さに呆れた。

今、この瞬間だけでも太陽が現れて、私の言葉を焼き殺して挽回のチャンスを与えて欲しいと思った。

視線だけを彼女に移すと、彼女は落ちた頬を少しだけ持ち上げて、組まれた両手は咲いていくように緩んでいた。

ペンを強く握っていた私の右手も緩んで膝の上に着地した。

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