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J3 第10節 レビュー【鹿児島ユナイテッドFC vs カマタマーレ讃岐】コンセプトの実行

2021.6.6 J3 第10節
鹿児島ユナイテッドFC vs カマタマーレ讃岐

こんにちは。
今回もご覧いただきありがとうございます。
今回のお相手は讃岐です。

戦前までには最下位のチーム。
とはいえ、5月以降は沼津に勝利、岩手にドローなど3戦無敗で調子を上げてきていました。

試合内容には、皆さんそれぞれ感じたところがあるとは思いますが、出来るだけ起こった現象を冷静に眺めながら、褒めるところは褒め、物足りないところは指摘出来ればと思います。

早速行きます。ご笑覧ください。

0.スターティングメンバ―

TACTICALista_2021H讃岐戦スタメン

スタメンの振り返りです。まずは鹿児島。

前節とはメンバーの変更は無し。結果が出たとはいえ、様々なスカッドを用いてチームの底上げを図ったパパス監督とは対照的な采配です。尤も大島監督のスタンスというより、そんな余裕が無い状況であるからこそと察しますが。

そしてスタメンだけでなく、ベンチメンバーも同じ顔触れ。フォゲッチはどうしたんですかね。いざとなれば、今節のように野嶽惇をSBで使えるという算段でしょうが、本職のSBが控えていないのは少し不安ですね。何事も無ければ良いですが。また、砂森のリリースがあるなら、早く欲しいところです。

一方の讃岐。

こちらもスタメン変更は無し。
ゼムノビッチ監督の就任後、成績は上がってきているとはいえ、まだまだ固定メンバーのスタメンを余儀なくされています。

ただ、対戦相手ごとに振る舞いは変えており、準備の質が良い様子はこれまでの試合にも見られてきました。次項では、今節の讃岐の振る舞いとそれに対応した鹿児島の振る舞いを振り返っていきます。

1.相手を見たビルドアップ&崩し

讃岐は今節、2トップと2枚のIH、アンカーの計5枚で前プレ、3バックと両WBは5バックを形成する形が主でした。

特に鹿児島SBに対してはIHがプレスし、IHが空けたスペースはアンカーの7番西本が前進し対応。それによって空く酒本に対しては、CBの一角が前進する形を取っていました。

それを逆手に取って、プレスを交わし前進出来た場面をいくつか。
まずは、14:00頃~のシーン。

TACTICALista_2021H讃岐戦前半1

まずは鹿児島左サイドでのボール保持から。
田辺がボールホルダーで左に展開しようとしたところ、IHの15番岩本は決まり事通り、木出へのアプローチ準備をします。この時、萱沼がサイドに落ちてきてパスを受け、ウェズレイまでパスを通しました。

この田辺を飛ばしたパスにより、ウェズレイ→衛藤に展開した時には讃岐の横スライドが間に合っておらず、28番中村のプレスも遅れています。

さらに、15番岩本もスライドが間に合わないので、28番中村の後方では中原と酒本を7番西本一人で見ざるを得ない状況が出来上がっていました。

ここでは28番中村の中切りに対して、衛藤は素直に酒本を選択したため、7番西本も予測がしやすく失敗に終わりますが、相手の出方を見た良い前進パターンだったのではないでしょうか。

続いて、12:30~。

TACTICALista_2021H讃岐戦前半2

ここでは、中原がCB間に落ちています。それにより讃岐のプレス基準点がズレており、15番岩本が田辺にプレスを掛けています。

この時逆IHの28番中村は、衛藤まで展開された場合のプレス準備のため、ボールサイドには寄り過ぎない位置で待機しています。そうすると、ぽっかり空くのが八反田。ここを放棄すると危険だということで、7番西本が前進しマークに付きます。

そうすると酒本が空くわけですが、木出が19番川崎を5バックの一角を釣り出しつつ、米澤と萱沼が讃岐DFラインをピン留めしているので、計画通りCBが酒本対応にも行けない状況でした。

それを見た、田辺・酒本は19番川崎が空けた裏のスペースを活用し、一気にボールを送り込みました。ここも讃岐DFラインを晒せた良い場面だったと思います。

これ以外の場面・これまでの試合にも田辺は、to米澤やto CFへも効果的なパスを供給できています。発想としては、CBをジェルソン・ウェズレイで中央を固めるというのもアリだと思いますが、これだけ前進に貢献できるCBは簡単に外せないだろうなとも思っています。

続いて、39:20~のシーン。

TACTICALista_2021H讃岐戦前半3

ここでも左サイドからの展開で衛藤がボール保持。
プレスに出た28番中村の後方では、中原が余っています。7番西本が中途半端なポジショニングだったので、衛藤→中原と繋いだところにはCBの2番西野が対応。

さらに、五領も降りてきて4番薩川を引き付けており、讃岐5バックの内2枚を釣り出せている状況でした。この食いつきに対し中原は、五領へとレイオフ。五領は萱沼へとボールを送り、最終的にはペナ内に侵入できています。

このシーンは、相手を見たビルドアップ、5バック攻略の崩しという点を見ても、成功した場面でした。

得点シーンもそうでしたが、5バックを前方やサイドへ釣り出して、中央を攻略するという局面は多く作れていました。前半はそういった、讃岐のプレス基準を見た前進や、食いつきの良さを活かした崩しを数多く出来ていた時間だったと思います。

2.讃岐が作った問題

一方で、第2Qには非保持にていくつか問題を作られていました。
まずは、31:20~のシーン。

TACTICALista_2021H讃岐戦讃岐1

今日の鹿児島は、讃岐のボール保持に対して基本的に4-4-1-1。酒本が7番西本を監視し、ビルドアップに関与させない形を取っていました。

これまでの試合では、7番西本を消されるとビルドアップが難しく、栗田への単調なロングパスに終わっていた讃岐。「西本消し」はスカウティングで共有出来ていた事だと思います。

しかし、左右CBにボールが入り、萱沼がプレスを掛けられない状況の時は、流石に危ういぞということで、酒本も西本を背中で消しながら、2番西野へプレスに向かいます。

この場面で問題を引き起こしたのは9番栗田。
DH間までウェズレイを引き起こして7番西本にレイオフ。酒本は2番西野に対しては、背中で西本を消していたものの、このレイオフには対応出来ません。

そのウェズレイが空けたスペースを28番中村に使われ、被決定機を迎えています。

今回は9番栗田が落ちていますが、13番重松もポジションから降りてきて問題を生み出す場面も多くありました。2トップと2IHの4枚で中央をピン留めできるメリットを存分に生かした前進をしてきています。

続いて、38:00~のシーン。

TACTICALista_2021H讃岐戦讃岐2

この場面は押し込まれた後。鹿児島の盤面がややスクランブルですが、陣形自体は崩れていません。

ここでは2番西野がSHの位置にいた酒本脇まで前進しています。鹿児島DHやCBは、讃岐FWやIH・アンカーによって中央にピン留めされている状態です。

そのことで、2番西野・28番中村・4番薩川のトライアングルに対応しきれない事態が生じています。このように守備場面で、讃岐陣形のメリットに苦労し始めていました。

とはいえ、1点リードして良い場面も作れた収穫もあり、改善すべき課題も生まれた中で終わった前半。アウトプットした成果は悪くなかったですし、チームの経験値を積む上でも期待できる締めくくりでした。

が、その後。激戦の後半に突入していきます。

3.退場後の思惑

事は49分に起こりました。
ここでは詳しい言及を避けます。
次ピッチに立った時に取り返してもらうのみです。

いずれにせよこのことで、前述したような今節の守備の生命線である「西本消し」を担当するトップ下が不在になる、という大問題を抱えることになった鹿児島。

CFはすかさず、讃岐最終ラインを放棄して「西本消し」を選択していました。ここはやはりスカウティングで共有し、最優先事項として決まっていたのだろうと思います。

しかしこれにより、讃岐3バックは自由にプレーできることになります。特に、左右CBにボールが渡ると、鹿児島SHは少なくない問題を抱えました。

10人になってからのSHの守備基準は主に以下の3点だったと思います。

①ゾーン2(相手陣内)では左右CBまで出て、プレス。
②ゾーン2(自陣)では4-4ブロック形成を優先。
③WBに付いて行くか、SBに対応してもらうかはケースバイケース

①に関しては今年のスローガン通り、アグレッシブに「劇走」するという基準に則り、コンセプトに沿った守備の考え方でした。

空回りすることもありましたが、ここでドン引きするのは今シーズンの「戦略」レベルの考え方を全否定する「戦術」レベルのアウトプットなので、前から行くという判断になったのかなという印象です。

主に第3Q中に問題を引き起こしたのは②で、4-4ブロックを形成した時でした。
これ自体は今まで通りなのですが、讃岐の左右CBにプレスを掛けることが出来ず、IHが鹿児島SH・SBに影響を与える中では、前述した38:00~のような局面となり、WBへのパスコースが空く構造になります。

TACTICALista_2021H讃岐戦後半1

讃岐WBへのパスを数多く通されたのはこのような構造的な問題の為でした。

このため、③のWB対応どうする?が主な問題になります。例えば、SHがWBを見る場合。

TACTICALista_2021H讃岐戦後半2

先ほどの場面から、米澤が対応したような局面です。
5バック様の陣形で対応しますが、鹿児島2ndラインは3枚なので米澤が空けたスペースへ簡単に右CBの5番小松が侵入出来ます。

そこからはシンプルにクロスを入れて、中央で跳ね返す力が物足りない鹿児島DFラインに脅威を与えました。

ならばと、SBがWB対応をした場合が下図。

TACTICALista_2021H讃岐戦後半3

木出が大外対応するので、当然ハーフスペースを15番岩本が狙います。
これには、中原が付いて行き対応。セオリー通りです。

しかし、やはり中原が空けたスペースを利用されて中央で待っていた7番西本にシュートを打たれてしまう場面も見られました。

配置論では、讃岐に優位を取られてしまう現状。スコアを勝ち越された第4Qには個人の頑張りに振り切れて、ハイプレスと各々の運動量で問題を解決しようという意図が見えてきたように思います。

試合後の白坂のコメントが、この第4Qの姿勢を退場直後から連続的に続けたかったという主旨でしょうか。

前半は優勢に試合を進めていたが、後半1人退場者を出して1枚少ない状況になってからチームが守りに入ってしまった。こういう状況でも攻撃的なスタイルをもっとだしていく必要がある。守りに入ると、相手はどんどん前に出てきて苦しくなる。たとえ1枚少なくなっても一人ひとりが110%、120%の力を出して跳ね返す力が上位に勝ち上がるチームには必要だ。

ーー10人になってからは守備の意識が高くなったのか?
1人少なくなると、それぞれが守る範囲も広くなってしまうし、(守る意識が)どうしても出てしまうものだが、それを見せないぐらいのアグレッシブさを出していければこういう結果にはなっていなかったのではないか。難しいことだが、上に行くチームにはぜひとも必要な姿勢だ。

実際、76:30~などには個々の頑張りからカウンターで脅威を与えられた場面もあり、最初から振り切れていても良かったのかなと思う次第です。

4.采配の疑問点

恐らく、試合前に最重要として組み込んだ「西本消し」を前提にすると、かなり難易度が高かったであろう後半の采配。

そんな中ですが、1点だけ疑問点があります。
リアルタイムに感じた違和感で、フェアだと思うので考えの一つとして書き記します。

それが、萱沼→三宅の交代です。意図としては、ボール非保持が増える中でカウンターの起点と最終ライン押し込み、推進力を得たいという考えがあったのでしょうか。

しかし、ボール保持で無理に前進する必要のなくなり、後方で待ち構えていた讃岐3バックに対して、三宅1人で陣地回復を図るより、萱沼に7番西本付近まで落ちてプレーしてもらうことで、カウンターにも移りやすかったのではないでしょうか。

さらに1人少ない状況でCFが最前線で待ち構え、直接ボールを送ると、カウンター局面ではSHなどを押し上げる時間が掛かってしまい、その間にロストしてしまう可能性も大きいと考えます。

それならば60:45~のように、CFが比較的他の選手と近い位置でプレーし、SHなどと共に前進したかったように思います。

5.あとがき

試合自体は押し込まれている中で2失点し、敗戦。これまでの課題も露呈しており、悔しさも募りますが、様々な要素を勘案すると敗戦自体は妥当な試合だったと思います。

しかし、負け方としては今年の最上位概念を体現出来たのではないでしょうか。

(登尾GMコメント抜粋)
昨シーズン、J3リーグ18クラブ中総得点2位の攻撃力を発揮することが出来ました。我々は攻撃的サッカーと表現していますが、攻守において主導権を握り、見ている人たちを魅了するサッカーがクラブの目指すスタイルです。攻撃的なサッカーを主体に置き、継続し結果を出すことが私どもの使命だと思っております。

(パパス監督コメント抜粋)
特に先ほど登尾GMが言ったように、鹿児島ユナイテッドFCの目的が私のやりたいこととも重なったので、鹿児島の監督をすることを決めました。何を達成した以下もそうですが、どのように達成したいかというところでも考えは合致しています。(中略)私たちは勝つことだけにはこだわりません。私たちの信念を持った勝ち方で勝つことにこだわります。それが私のこれからどのようにプレーするかに関わってきます。これが私の一番のメッセージです。

そもそも今シーズン、というよりここ数シーズンの理念がどういうプロセスで作られたのか、整合性は高いのかという指摘はあるにせよ、この理念の下に動いていることは、監督や選手のコメントから読み取れます。

現実問題、結果としては今節のように裏目に出ることも、前節のように良い思いをすることもあります。

しかし少なくとも我々も、この最上位概念が念頭にあることを再確認し、ピッチ上だけでなくフロント他の考えを読み取ることも重要なのではないかと思います。

その上で、どのレベルの考え方でエラーを起こしているのかを考えられればクリティカルな指摘になるはずです。

いずれにせよ、ミッドウィークに天皇杯・週末にリーグ戦も帰ってくるので前に進むのみです。次回もよろしくお願いします。

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