J3 第7節 レビュー【いわてグルージャ盛岡 vs 鹿児島ユナイテッドFC】スキルと強い気持ち
2021.5.2 J3 第7節
岩手グルージャ盛岡 vs 鹿児島ユナイテッドFC
こんにちは。
今回もご覧いただき、ありがとうございます。
今週のお相手は、開幕から5戦無敗の岩手。
便宜上、「岩手」の記載でお送りします。
先週の宮崎は、モダンなサッカーで敵ながら見ていて楽しいサッカーをしていましたが、岩手は良くも悪くも逆。
僕は「強い気持ちで」サッカーと呼ぶことにしました。
「何を怖がっているんだ!プロとしてしっかり闘え!全員で行くぞ!」でお馴染み、秋田監督っぽいサッカーです。良くも悪くも。
ただ、岩手の選手のクオリティは文句無しに高く、参考になることは多くあったんじゃないかなと思います。
敗戦が重くのしかかる一戦ですが、振り返っていこうと思います。ご笑覧ください。
0.スターティングメンバー
まずは鹿児島のスタメン。
変更は、前節負傷交代したウェズレイに代わって藤原の起用のみ。衛藤はメンバー入りしましたが、スタメンとはならず。コンディションなのか、単純なスタメン落ちなのか?今節のフォゲッチのタスクを見ると、衛藤でも良いような気はします。
また、ジェルソン・グスタヴォの助っ人外国人2人もメンバー入り。グスタヴォは初出場となりました。。
個人的にはどちらかと言うと、薗田寄りなタイプかなと感じましたが、もう少し観察してみたいですね。2人とも、周りとのコンビネーションの意味でもこれから発展させていければ良いかなと思います。
一方の岩手。3-4-2-1の採用です。
前節からは49番中野に代わって13番色摩が先発。後述しますが、シャドーはローテーションせざるを得ないタスクを抱えているので、深い意味は無いかなと思っています。
また、3試合ぶりにヨンテがメンバー入り。こちらも後述しますが、岩手の1トップにはゴリゴリに収められる系FWが必要なので、ブレンネルと共に適材適所な使われ方をされていました。
そんな岩手の基本的な形と共に、今節の様相を振り返って行きます。
1.岩手の思惑
まずは守備面から。
ゾーン3では1トップ2シャドーの前3枚に、WBやDHが追随してハイプレスを敢行します。追随の彼らがどこまで追うかは、ゲームの状況や相手の出方で変えていました。
今節も、先制から同点に追いつかれるまで・60分頃からの疲労が溜まる時間帯はリトリート主体、前半序盤・同点に追い付かれてからは、前3枚とDH2枚が前プレに向かうなど、守備の形を対応しています。
ここが「強い気持ちで」の最たる部分で、コレクティブでは無いけれども相手に認知的な負荷を掛けて、ボール奪っちゃおうぜ!という意気込みが感じられました。
なんだかショボく聞こえてしまうんですが、そもそもコレクティブにプレッシング出来ているJリーグのチームってあるのか?というのと、「強い気持ち」は本当に重要なので設計としては悪くないのだと思います。
一方、ゾーン2以後は素直に5-4-1に移行。
陣形が整ってしまうと中々崩すのは難しいです。今節の先制後は、ゾーン1に全員戻って人海戦術で対応する場面もありました。
ただ、積極的に人を捕まえる前提は変わらないので、サイドに密集することや、CFやトップ下の降りる動きにCBが釣り出される場面も多くありました。
また、リトリートでは「4」のところまで戻り、最前線ではCBまで追いかけていくシャドーは圧倒的な運動量が求められます。流石に90分は厳しいぞということで、今節は2人とも途中交代でフレッシュな選手を投入してましたね。
次に、ポジティブトランジション。
ゾーン3で奪った時には、そのままショートカウンターに移行。実際、ショートカウンターでピンチが何回もありましたね。
ゾーン2移行で奪った時は、前述の通り低い重心のため、難しくなるのが陣地回復。よって、ゴリゴリで収められる1トップにロングボールを送り、収めていてくれている間にシャドーやWBがスプリントし掩護、ボール保持に移行しています。
そして速く攻め切ることを念頭に置いているので、ボール保持は多く見られませんでした。しかしWBを押し上げ、シャドーが落ちて楔を当てるなど典型的な3-4-2-1ではあったと思います。
最後に、ネガティブトランジション。
ゾーン3で奪われたら、ボール保持で高い位置を取っているWBやDHもそのままプレッシングに参加。ショートカウンターの移行や、前進させないよう振る舞います。
尤も、裏返せることも多く、鹿児島のチャンスに変わる場面も見られていました。
ざっくりこのように振る舞った岩手でしたが、次項ではまず、失点シーンの岩手ハイプレスと鹿児島ビルドアップのせめぎ合いに触れようと思います。
2.失点と、八反田。
失点シーンは、ゴールキックからでした。
ゴールエリア内で2CBと中原が位置取り。まずは大西→中原と繋ぎますが、11番ブレンネルのプレスを受けた中原は、藤原へのパスを選択。
しかし狭いスペースの中で、13番色摩もプレスの予測がしやすかったため、ロスト。最終的には、11番ブレンネルが冷静にほぼ無人のゴールへ。
パッと見れば、岩手のプレッシングの思惑がハマったとも取れますが、中原がパスを受けた時、11番ブレンネルとは距離があり、時間とスペースがあったはずです。
なぜ詰められてしまったのか?何が出来れば良かったのか?について考えてみようと思います。
まずは、プレーについてもう少し細かく振り返ります。
大西から受けたパスのファーストタッチ。左回転して右サイドを向きますが、11番ブレンネルがプレッシングに来ていること・体の向き的に見えているフォゲッチには17番中村がチェックへ来ていることに焦っている様子が窺えます。
また、タッチそのものはボールを完全に止めるタッチをしています。出し所の無くなった中原は、苦し紛れ気味に藤原にパス。失点に繋がるという流れになりました。
個人的なターニングポイントは、2つ。
①周囲の状況認知と、体の向き
②タッチの種類
①については、まず11番ブレンネルの動向把握が出来ていなさそうです。また、フォゲッチの位置取り・マークの有無、左サイド方向へ移動する野嶽寛の動きも認知していないかと思われます。
結果、左足で素直にコントロールし、袋小路になってしまいました。ゴールキックからの展開でしたが、最前線からプレッシングに来ることは分かっていたはずなので、状況認知を正確に行うべきでした。
続いて②について。
きっちりボールを止めたコントロールですが、止めてしまうことで相手プレスの向きを定めやすくなるデメリットがあります。
改善策としては、相手プレスの動向・味方の位置、動向を認知した上で、優位が得られる方向へ流すようにタッチします。
すると、ボールを狙ってプレスしてきた相手は、急激なボール位置の変化に、方向転換の対応出来ません。さらにその間に前方へ運んで、相手を置き去りにします。まぁ、コントロールオリエンタードしましょうという話です。
そういった状況把握と技術を実行出来れば、今節に限らずビルドアップの質が格段に上がります。ボールを流すことで、プレスの向きを確定させない・プレスが間に合わせないための時間を作ることが出来るので。それが簡単に出来るようになれば苦労はしないとも言えますが。
そしてこれは中原だけでなく、鹿児島の選手全体的に言えることだと思います。ボールを止めるコントロールをすることで、プレスのベクトルを確定させてしまい、プレスが追いつくまでにこちらのプレーが間に合わない事象。
一方で、これが出来る選手も鹿児島にいます。
それがスーペル八反田。
八反田のプレーを見返していただきたいのですが、ビルドアップにて受けたパスは殆ど止めずに、流すようにコントロールしています。今節は、八反田のところでクリーンにボール奪取される機会は無かったのではないでしょうか。
また、八反田は急いでプレーしているイメージもあまり無いと思うのですが、そのようにしてプレスを無効化し、余裕を作っているのでゆったりプレーしているように見えるんだと思います。
お手本はチーム内にいます。
今後、チームの底上げを図る上でロールモデルになってほしいです。
3.ボール保持とトランジション合戦
いずれにせよ、岩手に高い位置で奪われピンチを多く作られた試合でした。
後半にもセットプレーから得点を許し、岩手の強みを存分に生かされてしまったかなという印象です。
しかし、出来たことも確かにあり、ボール保持やトランジションは個人的な予想より良い場面を作れていました。2パターン触れていきます。
ボール保持での裏返し
ボール保持にて上手く前進出来た場面は、シャドーにCB対応を強いることで鹿児島SBにWBを引き出し・DHの一方を高い位置まで釣り出せた状況が再現性を持って出来ていたと思います。
上図は、7番モレラトが田辺にプレス。砂森・中原へはそれぞれ25番有永・5番石井が出てきた場面です。このことでまず、選択を迫られるのが28番増田。約束事に則り高めの位置を取る野嶽寛を見るか、五領を見るか迫られます。
このことで、結果的にパスが出た五領へのプレスが遅れました。さらに、これにより選択を迫られることとなる36番小野田。五領か米澤で迷わされます。この場面では、五領に対応すべく前進しますが、すぐさま米澤にパスを出されプレスバック。対応が遅れています。
このように「強い気持ち」に頼りがちな岩手のプレスを剥がし、後方の選手に選択を迫りながら前進出来た場面は、特に左サイドで多く見られました。
この場面では米澤へのパスがややズレており、トラップに苦慮したところで遅れさせられましたが、このような場面を再現出来ている事実はチームが熟成してきている証左でもあると思います。
トランジション合戦
トランジションの意識も出来ていたのではないでしょうか。
ゾーン1まで攻め込まれると難しい場面も多かったのですが、WBやDHまで高い位置を取る岩手に対し、その裏を速く攻め切る意識はあったのだろうと思います。
ただし、あくまで繋いで前進を基本としていたのはパパス監督の意図なのか、結果的にそうなったのかは今後も見ていく中で精査する必要があります。
4.対峙時の正対
最後に、岩手の選手のプレーにも1つだけ触れようと思います。
途中交代で投入されたシャドーの20番西田、79:40~の一幕。
ポジトラに移行した場面で、ボールを持つ西田。
大外には25番有永が滑走をスタートしています。
79:42頃には、中原が対応。西田が大外を向いたことで、中原も大外方向へ重心移動しました。しかしその後西田は、中原と正対。中原も重心を戻します。
そしてすぐさま、大外の25番有永にパスを送り、中原を置き去りにすることでクロスまでありつけています。
恐らく大外を向いた状態では、
①選択肢が大外へのパスのみになる
②中原がカットしやすい
というデメリットが浮かんでいました。
しかし、正対することで
①大外の選択肢に加え、中央へのドリブル・パスの選択肢が増える
②中原に選択肢を迫りカットしにくくなる
③正対して逆を突くのでマーク置き去りに出来る
というメリットが得られています。
第2章の付加事項でもありますが、ビルドアップや崩しのドリブルにて身に付けて、相手を出し抜きたいところです。
5.あとがき
岩手戦を見てきました、というよりは個人戦術に着目して、やって欲しい・出来ていれば優位にゲームを進められたスキルに触れてきました。
いやしかし、チームとして戦術理解を深めるだけでは限界がある、というよりは個人戦術無しには成立しないのが実情。個人のスキルアップが欠かせません。
他にも様々あると思いますが、一つづつ着実にこなしていきたいです。
次節は、1週跨いでホームで藤枝戦。
新加入の選手も続々ベールを脱いでいる中で、個人戦術の視点で見るのも面白いかもしれませんね。
それでは次回もよろしくお願いします。
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