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J3 第1節 レビュー【鹿児島ユナイテッドFC vs ガイナーレ鳥取】新体制の型

2021.3.14 J3 第1節
鹿児島ユナイテッドFC vs ガイナーレ鳥取

こんにちは。
今年も始まりましたね、J3。

今オフはTMの情報も発信が無く、少ない情報を紡ぎ合わせる焦ったいオフになりました。
その結果、選手の5秒クエスチョンから主力を探るみたいな奇行に走った人もいました。(墓場まで持っていくつもりの今節のスタメン予想が9人的中した話は別の機会に)

長いオフを抜け、迎えた開幕節。
スコアは2-3の逆転負けとなりましたが、皆さんはどうご覧になったでしょうか?
初戦から情けない・悔しい、初戦だからまだまだこれから、タイムライン上でも色々な意見を拝見しました。

ここでは僕が感じたままの感想を記しますが、自分の中でも「アーサー・パパスのやりたいこと」がかなり曖昧なので、皆さんが見た鳥取戦や僕への意見・反論を頂ければと思います。
それでは、見て行きましょう。

1.TM vs鹿屋体大と「理想」の型

と、その前に今オフ唯一公式から発信があった動画に触れておきます。
2/7(日)に行われた鹿屋体大戦、中原のゴールシーンです。

1分ほどの動画ですが、今シーズンの「理想」を知るための重要な要素が詰まっていました。

まずはメンバーから。動画が粗くて判別が付きにくいですが、なんとか視認出来るのはCB藤原、右SB衛藤、DH野嶽寛・中原、右SH米澤、CF薗田辺りでしょうか。また左SBが中に絞り、左SHは反対側のタッチライン際に位置している事が分かります。

CFと両SHで相手DFラインをピン留め。
さらに左SB・DH2枚・トップ下のスクエアはかなり流動的に動き、誰かがサポートで持ち場を離れたところを補完しあっています。この場面では、左SBが最終ライン付近でボールに絡み、トップ下の五領も落ちてきているため、中原が中盤前方のスペースを埋めています。

今回の鳥取戦では、左SBだけでなく右SBもインナーに入ってきており、5人が流動的に動く形でした。「フォゲッチどこおんねん!」という意見の実情も、このチームの基本的な考え方から生じているはずです(その動き方や立ち位置の是非は別として)。また、特に砂森サイドでは偽SBの恩恵も大いに受けていました。それは後ほど。

TMに話を戻すと、衛藤から米澤へのパスを皮切りにCFと逆サイドSHがスプリントを開始します。この場面では、相手DFラインを押し込んだところを2列目から追走していた中原が仕留めるという流れでした。
これを踏まえて、鳥取戦を細かく見ていきます。

2.「理想」の先制点

まずはスタメンから。

まずはCBが田辺・ウェズレイ。田辺はプレシーズンにもCBをやっていたということで予定調和だったんだと思います。左足で運べてディストリビューションも申し分無し、危機察知も鋭いとなればコンバートも頷けます。
一方で、我々に情報が無いままスタメンに名を連ねたウェズレイ。フィードの技術やディストリビューションは素晴らしいものを持っていましたが、ディフェンスの軽さ、前に出て潰しきれないシーンなど守備面に不安を感じました。
いずれにせよイヨハの負傷はあれど、この2人の人選からは求めるCB像が窺えます。

後はSHの野嶽惇。去年末の流れから出場機会は増えるんだろうとは思っていましたが、開幕スタメンは少しサプライズでした。

一方の鳥取は、4番鈴木と18番石川が新加入組で開幕スタメン。その他は去年の主力メンバーが中心でしたが、フォーメーションについては臨機応変に対応していました。ただ、試合の入りについては、4-2-3-1として理解するのがしっくり入ってくるかなと思います。

試合開始後、チャンスはいきなり訪れました。

左サイドに両DHが寄ったことなどで、鳥取の1stプレス陣を集合させることで、時間とスペースを得た右サイドのウェズレイにボールを渡すことに成功します。この時、鳥取の左SH魚里は数が手薄な故、衛藤に付くか野嶽惇に付くかの選択を迫られます。結果的に衛藤へのプレスを選択しますが、これを見たウェズレイが野嶽惇にロングボールを供給します。この時点で最前線にて3on3が完成していますが、五領がCB-HV間に走りこむことで4番鈴木・2番小牧を順々にボールサイドへ引き出しました。野嶽惇→五領と繋いで、最終的には薗田がゴール。

逆サイドでフリーの米澤まで運べれば言うこと無しだったのかもしれませんが、この他の場面でも逆サイド大外を使いたい意図が伝わってきたので、近いうちにそのパターンも見られるかもしれません。いずれにせよ、TMでのゴールを再現した「理想」のゴールと言って差し支えないと思います。

幸先よく先制した鹿児島。
鳥取も柔軟に対応をとってきます。

3.鳥取の対応と困難

鳥取の対応は思った以上に早く行われました。
最初は恐らく、15分過ぎ。3-4-2-1へ移行します。抽出したのは26:25の場面。

3-4-2-1に移行したことにより、「鹿児島のDF4人 vs 鳥取最前線3人」と「DHはDHが見る!」という構造が分かりやすくなりました。また、「SBかSHか?」の悩みが無くなった両WBも最終ラインに吸収されやすくなり、ゾーン2~1では5バックに移行するようになります。

しかし、前線に掛ける人数は多くなった分、プレスを交わされた時に即時ピンチに繋がるのも悩みの種になりました。そこで30分過ぎには4-4-2に陣形を調整します。ただ大外に張る鹿児島の両SHは怖いので、右WB安藤が最終ラインに吸収される無理強いタスクを背負うことで、5バックは維持。

さらには後半、鹿児島の出足が徐々に弱くなっていったことと恐らく安藤の身が持たない為に、(鹿児島が前線に人数を掛けた試合終盤以外は)鳥取の5バック化は減少していきます。その代わり4バックで固定したことで、大外からのSBのオーバーラップに鹿児島が対応できず、失点に繋がるクロスやCKを与えてしまいました。

鹿児島としてはこのような変更に対応しきれず、「自分たちのサッカー」が終盤まで維持出来なかった側面があると考えています。個人的には、なぜ鳥取が序盤4-2-3-1様の陣形で挑んだかがピンと来ていませんが、意図としては前プレを嵌める目的だったのではないでしょうか。いずれにせよ、柔軟に対応を修正してきた鳥取には積み上げの差を感じました。

4.それでも出来たことと、改善点

そんな中でも出来たことは多くありました。
いくつかピックアップしていきます。

まずは、20:10の場面。
砂森がインナーに入り、鹿児島DHと砂森の中盤3人に鳥取CFとシャドー、DH2人が引き付けられています。それにより、守備に2つの選択肢を持たせられたのが左サイドの8番安藤。五領が砂森・米澤の中継地点に立つことで、安藤としては、五領と米澤どちらにマークすべきかの2択を迫られます。ここでは五領に近づいたところで米澤にミドルパス。疑似カウンターに移行しかけた場面でした。

一連の流れ、先制点の時の前進に似ていますよね。
恐らく、密集を作る→相手に2択を作るポジショニング→SHに直接パスを届ける、は意図的に作っているのだと思います。
先制点と比べてもこの場面が良かった点は、鳥取が5バックに移行し、大外の両SHにも対応出来る体制が整っている状態で、オープンに米澤が受けられたことです。

また、パパス体制における偽SBの利点は、「CBからSHへのパスルートを確保出来る」ことだと思っています。実際に砂森サイドではそれを体現できた場面がいくつかありました。しかし、鳥取のように5バックで大外を対応されるとCB→SHのロングパスは届くまでの時間的に対応されやすくなります。そういった中で立ち位置を調整し、クリーンにSHへボールを届けられたのは吉兆だと感じています。

続いては61:30の場面。GKからのリスタートです。
15番石田はゴールラインまでボールを追った直後のため、戻り切れていません。大西→ウェズレイと繋ぎ、9番田口を引き付けます。さらに、6番新井泰を引き付けながらウェズレイからパスを受けた中原は、田辺に落としのパス。砂森が8番安藤をピン留めしてくれたおかげで、野嶽寛への楔が楽に打ち込めました。

野嶽寛から米澤へのパスはカットされてしましましたが、先ほどの「密集を作る」パターンではなく、個々が順々に時間とスペースを確保出来た場面でした。こういうのも出来るんです、という例ですね。

もっともこの場面は、15番石田がプレス参加出来ない特殊な場面かつ、米澤まで届けることが出来ませんでした。
次に取り上げるのは、同じように一つずつロジカルに相手を剥がし、オープンな米澤へのボール供給が成功した場面です。

76:30~の場面です。
中原がCB間に落ち、両SBがインナーに。まずは鳥取2トップを田辺・中原が引き付けます。中原が9番田口のプレスのベクトルを外し、交わしたのが素晴らしいプレーでした。この間に、ウェズレイが大外まで移動し、左SHの石田をプレスに駆り出させます。フォゲッチは一旦インナー→大外と移動し、石田に外切りを仕向けることで再びインナーに戻った時にボールを受けることが出来ました。さらにフォゲッチには、八反田にマークしていた7番可児が対応を余儀なくされます。

ここで困ったのが、マーク対象の中原が最終ラインに落ちて1人浮いていた6番新井泰です。フォゲッチの体の向きを見ると八反田にボールが出そう、でも後ろを見ると牛之濱が待ち構えている状況。牛之濱のケアを指示していましたが、ケア出来る選手もおらず牛之濱→米澤とボールが渡り、疑似カウンターの発動となりました。

各々の外内、前後の関係がスムーズに整理できており、鳥取プレス隊を翻弄出来ています。個人的にはこの試合で、最も綺麗に前進出来た場面だと思っています。5レーンの原則にも当てはまって分かりやすくもありますね。特にトップ下に牛之濱が入ってからは、このような場面が多々見られましたので、今後も注目していきたいです。

続いて改善点にも少し触れましょう。
最初は57:00の場面から。

GKから野嶽寛→砂森のパスが通らず、被決定機となった場面ですね。
4-4-2に移行していた鳥取からすると、CB2人と中原・砂森に対して、そのまま嵌め込んでいける陣形でした。野嶽寛からすれば、8番安藤のプレスもあり時間が無い中、焦りがあったんだろうと思います。しかし、ゴール前のリスクが高い位置なので、チームとして100~90%成功するクリーンな選択を出来るように取り組まなければなりません。

その為に、事前の立ち位置確認・トラップの方向、体の向き・もう一つ奥のスペースを見れること・ボールホルダーをフォローアップできるポジショニング等もう少し細かく整理していく必要があります。特に野嶽寛、もう2、3段階レベルアップ出来るチャンスです。絶対に出来ます。頑張れ。超頑張れ。

最後にもう一つ。上記76:30の失敗パターンのような場面にも触れようと思います。
58:10の場面です。ウェズレイから始まったビルドアップ、ウェズレイ脇に降りた野嶽寛がパスを受け、左SHを引き出します。ここまで順調です。野嶽寛から中原を経由し、空いたフォゲッチにパス。ここまでもOK。しかしフォゲッチは、対応に来た7番可児のプレスの高さを越えられません。そのため、苦し紛れに野嶽惇へのパスを出すに終わりました。

この要因としては、フォゲッチの受ける位置や五領が効果的に影響を与えられなかったことが挙げられると思います。この辺は場数をこなすにつれ、慣れてくると思うので、それこそ長い目で見ましょうという案件ですね。

5.あとがき

というわけで、開幕節を見てきました。
今回は、チームの特色を探る回になりました。ベールに包まれた中での開幕だったので、それくらいで見るのが丁度良いと思います。予想以上に出来た部分、難しかった部分が浮き彫りになりました。総合して見ると、よくここまで作り上げてきたと見て良いのではないでしょうか。

とにかくまだ始まったばかり。
自分でもチームの型について、確信出来ていることはほぼありません。失点も悩みどころですが、今は見守るだけですね。

次節も張り切って行きましょう。

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