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ヒットは本当に伝染するのか??

スポーツ場面で,誰かがミスをした後に続けて誰かがミスをすることが多いと感じたことはありますか?(サッカーのPKやバスケのフリースローなどがいい例でしょう)反対に,野球では,誰かがヒットを打った後にはヒットが出やすいと言われていると思います.このような現象は本当に起こりうるのか?もしそうなら何故なのか?

ヒットが伝染する原因

野球で,誰かがヒットを打ったとに,ヒットが出やすくなる(ヒットの伝染)が起こる理由にはいくつか挙げられています.バッターのモチベーション,ピッチャーの一時的な能力低下(疲労など),プレッシャー,作戦などなど.

ミラーニューロン

しかし,他の理由も考えられます.ミラーニューロンが発見されてから,多くの研究は”模倣”について検討してきました.

ミラーニューロンとは,動作を観察している時に,その動作を実際にしている時と同じ活動を示す脳内のニューロン(システム)のことです.実際にその動作をしていなくても,脳内の活動は,あたかも自分自身がその運動をしているかのように振舞っています.このような,特性を活かして多くの研究が,模倣学習や観察学習などの有効性を証明してきました.(実際に運動ができない場合でも,その動作を観察することによって,その動作の学習を促進することができる.)

しかし,スポーツ場面においてこのような現象(ミラーニューロンの活性化)が起こり,無意識下で我々の動作が変更されている可能性があります.

仮説

つまり,前の打者がヒットを打つことによって,次の打者の脳内では,ミラーニューロンの活性が高まり,我々の体は無意識的にその動作を模倣し,ヒットが出やすくなっている可能性です.さらに,熟練した運動の方がしていない運動よりもミラーニューロンの活性が高いことが証明されています.つまり,熟練者の方が,非熟練者よりもヒットの伝染が起こりやすいと仮説が立てられます.

このような,ことが実際に起こっているのであれば,ヒット動作の観察後は,ヒットの確率が上がり,観察したヒットの打球と同じ方向に打つ可能性が高くなります.さらに,このような現象は,熟練者で顕著に見られるはずです.

これを検討した研究を今回紹介します.

研究紹介

Gray, R., & Beilock, S. L. (2011). Hitting is contagious: Experience and action induction. Journal of Experimental Psychology: Applied, 17(1), 49–59. https://psycnet.apa.org/record/2011-05714-004

方法

被験者;大学野球選手12名(熟練者),趣味野球選手(非熟練者)

条件;

action;実験参加者がヒットを打ったかのようなシュミレーションの観察.シュミレーションの打球方向は,レフトセンターライトの3方向

outcome;レフトセンターライトのいずれかのいちにボールが置かれている

verbal;レフト,センター,ライト,と書かれた文字の教示

none;刺激なし

手順;各条件3ブロックづつヒットが出るまで打撃.10条件×3ブロック

測定項目;ヒットまでに費やした球数,打球方向,

結果

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各条件のヒットが出るまでに費やした球数

もちろん,熟練者は非熟練者よりも有意に少ない球数でヒットが出た.

熟練者においては,action, outcome条件において,none条件よりも有意に少ない球数でヒットが出た.

非熟練者においては,action条件においてnone条件よりも少ない球数でヒットが出た.

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熟練者の各条件における打球方向

真ん中の黒い実線は,none条件における打球方向.

action ; レフト刺激では有意に角度が小さい(レフト方向に打球が飛んだ)反対に,ライト刺激では,有意に角度が大きい(ライトに打球が飛んだ).センター条件では有意差なし.

outcome;ライト刺激において打球は有意にライト方向に飛んだが,レフト刺激では有意差なし.

verbal;いずれの有意差はない

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非熟練者の各条件における打球方向

action&outcome;刺激間の主効果はないつまり,刺激(映像の打球方向)によって打球方向は変わらない.

verbal;いずれの有意差はない

以上より,熟練者の方が,非熟練者よりのヒットの伝染が起こりやすい.さらに,伝染は,動作の観察,結果の観察,言語刺激の順で起こりやすい.この実験では,バッターは,好きな方向にボールを打つことができた.このような現象は,打つ方向を指定されても起こりうるのかを検証するために,さらなる実験が行われた.

方法は先ほどと同様.条件はactionとnoneのみ.ただし,バッターは,センター方向に打つように支持された.

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action条件の各刺激での打球方向.

レフト刺激とライト刺激の間には有意な差がある.

つまり,打球方向を支持されたとしても,パフォーマンスの伝染は起こってしまう.

したがって,ヒットが伝染する理由は,多く挙げられているが,人は他者の行動を自動的に模倣してしまうことも理由に挙げられる.

つまり,前の打者がヒットを打った場合は,すぐに打席に入ることによって次の打者はヒットを打つ確率が高くなるが,反対に,前の打者が凡打の場合は,次の打者も凡打の確率が高くなってしまうため,時間をかけて打席に入り,自動模倣が起こらないように工夫する必要がある.

さらに.例えば,ライト方向に打ちたい場面においては,打席に入る前に,ライト方向に打っている動画を見ることによってその確率が高くなると考えられる.もしかしたら,イメージするだけでも確率は上がるかもしれない(イメージすることによってミラーニューロンの活性は認められている).他の競技においても,例えば,PK戦の直前に,PKを決めている動画を見ることによって成功確率が上がると考えられる.

自動模倣をうまく使ってパフォーマンスを向上させよう!

主に,スポーツ医学や子どものスポーツに関することについて配信します.