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エチオピアの紛争は「民族問題」と「国際政治」の組み合わせ?

エチオピア政府とティグレイ人民解放戦線(TPLF)の紛争が始まってほぼ一年が経ちました。戦略的に重要な拠点とされている、デシという都市がTPLFによって占拠されてから間も無く、エチオピア政府は11月2日非常事態宣言を出しました。

私は今現在仕事でエチオピアの駐在員をしています。11月7日に情勢悪化のため帰国しました。主に首都のアディスアベバに滞在しているのですが、今回はそこで見聞きしたことを混じえ少し文章を綴りたく思います。以下に書くことは、大学院で平和構築について学び、エチオピア駐在員歴約半年、およびエチオピアについて書いてある政治学の論文を何本か読んだだけの人間が考えたことです。一個人の意見を加えて記したものであることをご承知ください。

基本的にアディス現地人は、現政府を自分たちが民主主義的に選んだ代表であるとみているようです。現地スタッフやタクシー運転手たちに政治について話を振ってみると、現首相であるアビィ首相や政府のことを悪くいう人はいませんでした。意見に多様性が出るかと思っていたのですが、話を聞けば聞くほど、どうやらエチオピア政府は民主主義的に選ばれた代表として正統性を持っているといえるのではないかと思うようになりました。

アビィ首相はその正統性を持ってして、ある改革に挑もうとしているようです。しかし、それはエチオピアのあり方の核をも揺るがしかねないものでした。なぜなら、国家の根本的な民族主義的政治体制を解体することになるからです。

エチオピアは80以上の民族によって構成されている多民族国家です。エチオピアは「民族連邦制」という政治体制をとっています。代表的な民族はそれぞれ州を持っており、ティグレイ、アムハラ、ソマリ、オロモなどは州の名前であり民族の名前です。政党も民族ごとに分かれています。民族アイデンティティは、エチオピアの社会のあり方のとても深いところにあるわけです。それは簡単に民族同士の争いにつながりお互いが妥協しない利害関係が生まれ、「エチオピア人」としてまとまり発展をしていくための障害になってしまいます。

アビィ首相はアディスアベバ大学のInstituite of Peace and Security Studiesで博士号をとっており、私の修士過程とある種同じ畑です。その意味で私の私見を書くと、彼の頭の中には、民族で分断されているエチオピアという国を一つにまとめ安定をもたらすにはどうすればいいのかという問いがあるのだと思います。エチオピアを民族の名のもとに分断されている国民を、長期的なかつ効果的な国家発展のために、「エチオピア人」として統一することは、ロジックの通る方針です。

しかし、民族アイデンティティが政治の原動力であるエチオピアにとって民族主義的政治体制の解体は、短期的には政治的攻撃でしかありません。民族アイデンティティをないがしろにされることは、国の政治から締め出されることを意味します。そこで方向性が激しく食い違う形で反応したのが、アビィ首相の前に政権を約30年握っていたティグレイ人民解放戦線という理解です。

ここで一応言っておきたいのが、もはや問題はどちらが先に「攻撃」したのか、ではないということです。お互い話し合う機会はあったはずですが、妥協点を見つけることなく、ティグレイ紛争(もはや州境を超えて首都にたどり着くかもしれないという状況である以上、エチオピア紛争と読んだ方がいいかもしれません。)は、ずるずると応酬を繰り返す一方で、犠牲者を出し続けてきました。どちらが悪いかを議論することは紛争を解決することの何の役にも経ちません。

繰り返しになりますが、エチオピア紛争は首都のアディスアベバにも届きそうな勢いです。当初私は、偏見で国防軍の方が強いと思い、このような事態になるとは思っていませんでした。しかし、現地スタッフに聞くとTPLFは長いこと軍人をやっている人が多いが、エチオピア国防軍の方は数週間訓練を受けて、戦場にも言ったことがない軍人が多く、兵力でTPLFが勝っているとのことでした。エチオピア北部のティグレイ州からTPLFがここまで南下してきた理由がわかるような気がしました。1スタッフから聞いた話を書いただけなので、この情報の正確性に保証はありませんが。

今回の紛争はある意味でエチオピア人の問題であり、とにかく交渉の場に今一度たち、無意味な血を流さないでほしいと願うばかりです。当たり前のことを言うようですが、人殺しで解決する問題ではありません。お互いの話を聞く場を作り、妥協点を見出すことが紛争解決、または長期的な平和構築へのスタート地点だと思います(言うが易しですが)。ドライに聞こえるかもしれませんが、エチオピア人の問題であり、彼ら自身で将来のことを考え進むしかないと思います。外部の人間ができることはせいぜい、「協力できることはする」、ということでしょう。これはこれで俗にいう「国際協力」分野の深い議論を呼ぶ別問題かも知れませんが。

一つアメリカの存在について書きたく思います。アディス現地人Aは、「アメリカがなんで介入するのか。訳がわからない。余計に首を突っ込んでくる。」と言っていました。アディス現地人Bは「アメリカはアフリカの国が自分の思い通りにしやすいように、弱いままでいてほしい。だから現政権が選挙で選ばれた政権であったとしても、TPLFを支持して混乱を生んでいる」と言っていました。アメリカは、紛争の悪化に伴いエチオピアとエリトリアに経済制裁を行っています。アディス現地人Cは「この紛争は意味がわからない。ダムの問題で他国ともめるのであればまだわかる。エチオピアの国益がかかっているから。でもエチオピア人同士で殺し合いをしてなんになる。」と言っていました。

11月4日、9つの反政府グループが同盟を組んだというニュースがありましたが、その記者会見がワシントンDCで行われました。私は初め、同盟を組んだとニュースの見出しを見た時は、またエチオピア国内で反政府組織が手を組んだのかと思いました。右にも書きましたが、アビィ首相がやろうとしていることは、民族主義的な政治の解体です。他に反対民族勢力が声を上げても不思議ではありません。しかし、ニュースを詳しくチェックすると、記者会見がワシントンDCでやっていました。私は、アメリカがエチオピア政府の正統性を揺るがすための「民意」を人工的に作り出そうしているように見えました。

エチオピア紛争の悪化に伴い、11月4日にアメリカから特命大使がアディスアベバに到着しました。紛争を治めることが目的とされています。しかし、ニュースでは直接、特命大使とアビィ首相は会っていないと報道されています。アディス現地人Bは「アビィ首相がアメリカの言うことを聞くことはないだろう。もし、今の時点でそれをしてしまえば、彼は国民を敵に回すことになる。アメリカがエチオピアの混乱を望んでいることは皆わかっている。彼にとって民主的正統性を保つにはアメリカの逆をいくしかない。」と言っていました。紛争解決を目的とした交渉では、決して対立している勢力に与しているアクターが仲介人になってはいけません。仲介人は利害関係がないことが大前提です。にも関わらず、特命大使を送り込むアメリカは、平和を望むペテン師として映り込んでしまうのではないでしょうか。

ではなぜアメリカはこのようにエチオピア紛争に介入を続けるのでしょうか?私の浅い理解では、介入するのであれば中国の逆を攻めるのが鉄則だからではないかと思っています。エチオピアには中国資本がたくさん入っています。私が働くアディス事務所の近くに銀行が入る高層ビルの建築現場がありますが、毎日中国人とエチオピア人が工事に励んでいます。私の事業地があるエチオピア西端のガンベラ州の街からさらに約何十キロも離れたところで中国人が橋を作っているそうです。このように中国はエチオピアの至る所で影響力を発揮しています。中国と仲のいい現政府を蔑ろにし、あわよくばアメリカ寄りの新たな政権ができれば、中国の勢力図に影響を及ぼすことができるのはいうまでもありません。よってエチオピアに介入する以上中国の逆をいくのがアメリカにとって定石になります。

エチオピアの「民族問題」は根深いです。その上、国際政治に巻き込まれることによって事態がややこしくなっているといえます。この国もまた、他のアフリカの国同様ポテンシャルに溢れるパワフルな国であり、ポテンシャル開花の妨げになる傷がこれ以上つかないことを祈るばかりです。

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