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コロナ後の求人回復、学び直しでチャンスを手に

 青森県の八戸市を中心とする県南部で広く読まれている地元紙「デーリー東北」。同紙の人気コラムで複数の寄稿者が執筆する『私見創見』を2020年から約2カ月に1度のペースで書いています。
 第12回は2022年5月17日付から。コロナ後が落ち着いてきてからの就職・採用事情について書いてみました。
(※掲載時の内容から一部、変更・修正している場合があります)

筆者が前職(新聞社)を退社して興した小さな会社は、企業が使うビジネス文章の作成・編集が主力事業だ。企業が発信したいプレスリリースの制作や営業成功事例の紹介記事、書籍の制作・編集など、幅は広い。

その中で、今年に入って急速に増えている仕事がある。転職サイト向けの文章作成だ。転職したい人を“その気にさせる”求人広告の記事制作である。求人向けの記事制作が増えてきた背景には、コロナ禍が落ち着き始めたことで企業の採用意欲が高まっていることがある。

東京都の有効求人倍率は2021年の3月に1.17倍だったのが、2021年秋から1.2倍を上回り、2022年3月は1.34倍まで上昇した。有効求人倍率で1.34倍は、100人の求職者に対して134の求人があることを意味する。首都圏では埼玉、千葉、神奈川の各県は1倍を割り込む低迷が12カ月以上続くが、都心部は求人が増え始めたのだ。

青森県の有効求人倍率も2021年4月に1.02倍となって以降は、2022年3月まで12カ月連続で1を超えている(3月は1.14倍)。これは全国平均並みの水準だ。青森労働局によると、県内で伸びが最も大きいのは製造業で前年同月比39%増、次いでサービス業が同12%増、卸・小売業が同10%増となった。

一方、コロナ禍で打撃を受けた宿泊業・飲食サービス業は同11%減と依然として厳しい。その中で、八戸地区は2022年3月の有効求人倍率が1.36倍と、県内の他地区より状況は良い(同月は野辺地が1.39倍で最大)。

ただ、東北では秋田県が同1.51倍、山形県が同1.47倍で、岩手、宮城、福島の3県は八戸地区と同程度。青森県は東北で最も低い状況ではある。

「団塊の世代」(1947〜49年生まれ)の大量退職が始まってからのここ十数年は、人材不足が日本を直撃している。コロナ禍でいったんは冷え込んだ求人数は再び盛り返し、さらに人材不足が強まる可能性もある。

低金利政策を崩せない日本は、米欧などとの金利差拡大で円安に振れた。さらに日本企業の工場が多い中国の大都市がコロナ対策でロックダウンした。「脱中国」で経済安全保障を確保したい日本企業も増えており、円安が続けば(そして製造技術が残っていれば)製造業が国内生産に回帰する可能性もある。

実際、TDKが岩手県北上市に電気自動車(EV)部品工場の新設を決めるなど、サプライチェーンを国内中心に切り替え始める例も出てきた。世界的に不足する半導体も国内生産が復活拡大傾向にあり、世界最大の半導体製造装置メーカー、米アプライドマテリアルズも「国内の半導体工場向け人材を、理系・文系の出身を問わず確保したい」(日本法人社長)と高待遇を用意する。

筆者に最近アプローチしてきた人材紹介会社の社長は「企業が今、苦慮しているのは人材の教育。昔のように厳しく夜中まで指導もできず、在宅ワークなどもあって身近で教えられない。若者を中心に人材を鍛える力が落ち込んできている」と話す。

これまで40〜50代になると「転職は厳しい」と人材業界では言われてきたが、コロナ後はシニア世代にも「人材コーチとして転職してほしいと呼びかけが始まっている」と解説する。

実際、ビジネス書の要約サービスを展開するフライヤー(東京・千代田)が毎月公表している「20〜30代が今読んでいるビジネス書ベスト3」を見ると、仕事術に関連する書籍が多い。時間の管理法、習慣化、気遣い、雑談力など基本的なスキル本が読まれている。

さて、全ての世代に対して求人が増える時代が来るかどうか。個人的には可能性が低い気もするが、そのチャンスをものにするには、どの世代も再学習して自己を鍛える必要があるだろう。

「リスキリング(学び直し)」という言葉も出始めた。そういえば最近、筆者の周りでもミドルやシニアのみなさんが大学院などで学び始める例が増えているように思う。見習いたい。


(初出:デーリー東北紙『私見創見』2022年5月17日付。社会状況については掲載時点のものです)

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