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第21回読書会レポート:村上春樹『海辺のカフカ』(感想・レビュー)

大人気作家の読書会は、やっぱり初めましての方のご参加が多く、とても有意義でした!

参加者のご意見・感想

・インターネット普及直前の時代が舞台で、懐かしいし穏やか
・一方向に行く全体主義への警告
・ズレてしまうことへの不安
・父殺し=オイディプス王の日本版=エディプスコンプレックス
・神話的メタと現実の織りなすストーリー
・母親に捨てられてこじらせた少年が、母の愛を確かめに行く物語
・アニメのエヴァンゲリオン的!
・ズレてしまうことを恐れず女性の力を借りて力強く再生して生きていく

世界的に知られたキャラクターの闖入による好き嫌いの分かれ目

さまざまな魅力的な登場人物が出てくる中、特筆すべきは「ジョニー・ウォーカー」と「カーネル・サンダーズ」のそっくりさんが出てくるところでしょう。

小説の場合、物語の登場人物の外見や雰囲気は読者の想像に委ねるものです。またその描写は小説家の腕の見せどころ。”スラリとした瞳の大きな美人”とか”苦虫を噛み潰したような歪んだ口元”などなど……。

しかし突如としてその想像を許さない、「イコン的な有名さ」である確固たる商業キャラクターが闖入し、読者を混乱させます。こうした手法はお目にかかったことがなく、新鮮でした。これをユーモアとして面白がるか、逆に不可解すぎて拒絶するか、本作品の評価を二分する大きな要因となっています。

現実と物語の境目がなくなる不思議な感覚に陥り、その感覚を受け入れられるか拒否するか、読者の趣向が分かれるところです。


作品を構成するものに無用なものはない

文学を解釈する上で、”このくだりは無用だ”などと批評する人がたまにいますが、それは作品を読み解くお作法として誤っています。物語作品を構成する一字一句、句読点の配置も全て全て作品を構成する要素として過不足なく最適に収まっているのが前提だからです。

「ジョニー・ウォーカー」も「カーネル・サンダーズ」も本作品のなかでは必要不可欠な要素であり、意味がわからなければ、それはただ読者としてそういうものであるだけで、それ以上でもそれ以下でもないのです。


私が考える「ジョニー・ウォーカー」と「カーネル・サンダーズ」の意味

それぞれの闖入者登場シーンで、やたらと衣装の色に誘導していく書き方に着目し、どう読み解かせようとしているのかを考えてみました。単純にその場面を読んでいくと、赤が多い場面と、白が多い場面とになります。

ジョニー・ウォーカーは、その衣装からはもちろん、殺害場面では大量出血など赤が強調されて描かれ、流血、つまり死を象徴していると考えました。
一方で、カーネル・サンダーズは白の上下であることは言うまでもありませんが、客引きのおっさんであり、そこから精液が強調され、白、つまり生の象徴として描かれていると感じました。

赤と白は血と精液を暗喩し、死と生の象徴であり、それはこの物語を貫くテーマをなぞらえているのではないでしょうか。
肉体と魂、この世とあの世、といった目に見えるものと見えないものの境界を表現する要素として、この闖入者はコミカルに主題をなぞらえていると考えます。

実際に、カーネル・サンダーズのセリフに以下のくだりがあります。

「君にはわからんだろうが、ねじれというものがあって、それでようやくこの世界に三次元的な奥行きが出てくるんだ。何もかもがまっすぐであってほしかったら、三角定規でできた世界に住んでいればよろしい」( 下巻 P.68 新潮文庫)


ホシノちゃんに話しかける黒猫

闖入者としてもう一つ注目すべきは、ホシノちゃんに話しかける「黒猫」でしょう。

ジョニー・ウォーカーは黒のシルクハットと黒長靴、カーネル・サンダーズも黒いストリング・タイ、とそれぞれ黒をまとっています。この”黒”も二人の共通色として挙げられることを踏まえながら読み進めていくと、その期待に応えるかのように、最後に黒猫が登場します。

黒猫とホシノちゃんとの間で交わされるセリフももちろん、この作品の主題に触れています。

「よくわからないな。じゃあなんで俺たちはこうやって会話できるんだよ?猫と人間のあいだで」
「わしらは世界の境めに立って共通の言葉をしゃべっておる。それだけのことだよ」(下巻 P.481 新潮文庫)


『海辺のカフカ』とは……とある世界の境いめで起きた攻防戦!

世の中には目に見えるものと見えないものがあり、その境いめではカーネル・サンダーズもいるし猫とも喋れる。不可解な出来事もこうした次元の狭間では普通であり、突然魚が降ってきたりすることもあり得るのだ。

ホシノちゃんが「この世」を守ってくれて一件落着。本当に良かった笑!

この作品は、一般的な人間の感覚では知覚できないものの言語化に向けて、チャレンジしている作品と考えました。



あなたは「三角定規でできた世界」を選びますか?
それとも、「ねじれ」や「境いめ」といった、次元の狭間の存在を認めますか?

どちらを選ぶかはお好みですが、ただ、ちょっと行き詰まりを感じている方は、ねじれや境いめに思いを馳せると、楽しくなりますよ!カフカ少年のように。


(2021年10月17日日曜開催)

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