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初物じゃなくて輸入ものだよね? いや、夏の初物だったんだ。

夕食が終わりに近づくと、頃合いをみて母がお茶の用意を始め、そして果物を台所から持ってくる。食事の後はお茶と果物、というのが私の母の定番だ。今日はいつもよりなんとなく早いタイミングで母が台所へ行き、そして手には何かが入っている袋を持っていた。

「今日は初物よ」と言いその袋を私の前に置く。私は何気なくそれに目をやり、「へえ、みかん。確かに初物だね」と母に声をかける。
母は袋の中から、初物らしい少し小ぶりの黄色っぽい色のみかんを一つ手に取り、皮を剥き始めた。みかんのとてもいい香りがして、私は「あー、みかんの季節が始まるんだ」と思った。

私が目の前のおかずを食べ終わる頃、
「結構、甘いわね。全然すっぱさがない」
そう言いながら、母は二つ目のみかんの皮を剥き初めていた。

さて、私もみかんを食べることにしよう、そう思いながら目の前に置かれたみかんの入っている袋をしみじみ見る。

『ペルー産 田場さんのみかん ペールーから里帰り』
その袋には、このフレーズとともに田場さんと思われる男性の写真までついている。

最近、果物でも野菜でも生産者さんを前面に出して売っているものもあるけれど、こんなふうに写真付きのものは珍しい。
しかもペルー産ということは、このおじさんはペルーにいる人なのか?

私は写真のおじさんが気になったので、みかんを口に入れながら『ペルー産みかん』と検索をしてみた。

すると、出てくる出てくる、ペルー産みかんのこと。
そして『真夏にみかん』というフレーズを見た時、やっと気がついたのだった。

そうだ、日本のみかんの初物は秋だ!

「このみかん、初物じゃなくて輸入ものなんじゃない? だって日本のみかんは考えてみたら冬の果物だよね」
母にネットの検索結果を見せながらいうと、
「たしかに」と母は笑い出した。

なんだか私もぼんやりしていたのか、みかんの季節が始まるんだ、なんてすっかり頭が騙されてしまった。
ペルーは南半球。ちょうど冬が始まる頃でこれからがみかんの季節らしい。

気になるのは『ペルーから里帰り』というフレーズ。
ペルーのみかんはペルーに移民した日本人がみかんの芽を持ち込んで栽培が始まったようで、それで『里帰り』と書いてあるようだ。

2018年にペルー産のみかんは日本へ輸出が解禁になったとのこと。母は近くにスーパーで今年初めて見かけたようだが、もう日本に入ってきて5年くらいになる。

見た目は日本産のみかんと変わらないので、ペルー産のみかんが普通に出回ると、日本のみかんが一年中食べられるものなんだと勘違いする人もいるかも?

まあ、そんなことはないかもしれないが、果物で季節を感じるということがなかなか難しい時代になるのかなぁ、とも思う。
美味しいものがいつでも食べられるのも幸せだが、その季節しか食べられないと思うとありがたく感じるし、また次の年が楽しみにもなる。その季節にしか食べられないものを味わう贅沢さというのもあるだろう。

いつでもなんでも手に入るということは幸せなことかもしれない。でも、待つ楽しみとか、手に入れる喜びとか、特別感とか……そういうものを感じる機会を失っているということも少し考えてみる。

そして、現代人は俗言う「限定品」に弱い人が多いように思うけれど、本当は季節の果物だってその季節のだけの「限定品」である。
そんなふうに思って、もっと身近な「限定品」を大事にするのも悪くない。


里帰りしてくれたペルー産のみかんはとても美味しかった。だからこそ、このみかんも新しい、夏の季節の限定品にしてあげたいと思う。
「こたつでみかん」は日本産、ペルー産はどんなふうに楽しむのがいいだろうか。

そう、私は今日、夏のみかんの初物をいただいたのだ。



母と果物の話。
お時間ありましたら、読んでみてください。


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