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夢で逢いましょう 2 『樹』


夢の中に樹が出てきました。
樹は言いました。
「ちょっとそこ行くちょろちょろ消えたり現れたりする者よ」
「え?はい?オレのこと?」
「そうだ。人間。面白い変わった者よ」
「なんだよ。木のくせに偉そうに言うなよ。動けないくせに」
「きみたちの目からはそう見えるだろう」
「あー、そーだよ。しゃべることもできないくせに。ってなんでおまえしゃべってんだよ」
「きみがみている夢だからだ。といっても実際にもわしたちはリアルにしゃべってるがね」
「え?口もないくせに」

「わしたちは匂いでしゃべり、地の根を伝ってコミュニケートとしている」
「ああ、フェロモンね。んで根っこの菌根を使ってしゃべってるって言いたいのね」
「にんげん。よく知っているな」
「キンコンカンコーン。知ってるさ。学研の図鑑で読んだ」
「がっけん。しらない。人間はたくさんの単語をつくった」
「そうだよ。言葉ってな。お前たちみたいに単純じゃないんだよ。もっと複雑で」
「単純、複雑、わからない。人間は要らないものまで言葉にする」
「要らないものってなんだよ。言葉は時とともに磨かれてきた人間の知恵の結集だよ」
「ふふん。まあいいだろう」

「ねね。あんたずいぶん年くってるね。1000年くらい?ちょっと抱きついていい?」
「(ため息)ふむ。あまり好きじゃないがね。何故だね?」
「エネルギーをもらうのさ。あんたらはそのために存在してるんだろう?」
「きみらはわしら植物から酸素をもらって生きとるくせに欲張りじゃな。おまけに仲間を散々切り倒して、さまざまなものに使っておるじゃろう。きみが着ている服も植物からできているんじゃないか。紙だってそうだ。なけりゃ君らは勉強もできないし、おしりも拭けないだろう」
「ちぇ。そのとおりですぅ、けどね」
「さらにわしらからエネルギーを奪おうとするのかね。なんと強欲なんじゃろう。エネルギーを奪ってどうする」
「元気をもらう。明るくなる。愛に満ちて喜びにあふれる」
「ふむふむ。それはいいことじゃが、たまにはわしらにエネルギーを少し分けてくれんかね。都会の仲間たちはアスファルトやコンクリートに根元を固められてしまって疲れておる。たまーに人間の中にもエネルギーを与えてくれる者もいるがな。そんなのは666人に一人じゃ」
「666人?なんじゃそりゃ。悪魔か」
「知らなくばそれでいい」

「人類はこれから覚醒するのさ。愛と宇宙意識に目覚め、平和な世界を作る。宇宙の周波数と同化し、真我を極めるのだ」
「ほう。すごいのお。宇宙と」
「すげえだろ。宇宙は愛で満ちているのさ。人類が真我に目覚めたらきっとおまえたちももっと楽に生きられるようになるよ」
「・・・宇宙のアイかね(苦笑)」
「なに笑ってんだよ」
「いやすまんすまん。しかしな。きみ。宇宙意識と同化するなんて考えないほうがいいぞ。そんなことしたら、君らは一瞬にして消滅してしまうだろう。だいたい宇宙空間に出たら何秒と持たずに君らは死ぬ。空気がないうえに紫外線、宇宙線にさらされたらひとたまりもない」
「べつに宇宙空間に出るって言ってないよ。んなことわかってるよ」
「それを君たちから守っているのが、この地球だ。宇宙は果てしないパワーを持っている。その破壊的なパワーの中で奇跡的にあるのが、この地球だ。精神のバランスを保っていられるのもこの地球のおかげということを忘れちゃいかんな」
「うーん。屁理屈の多いじいさんだな」

「宇宙に溶け込むのは、きみの肉体が死んでからじゃ。ま、あまりうぬぼれずにな。どうも最近の人間は幸せになりたい欲が高まっておるのか、足元の幸せを見んで、遠くのほうばかり見ておるようじゃ。感謝じゃよ。まずは感謝。それを忘れちゃいかん」
「へいへい。わかりましたよ、先生。ありがとうね」
「(頷き)・・・ありがとう」
「・・・」
「また会おう。にんげん」
「おー。あんたが生きてたらな」
「手足や頭がもげたくらいで死ぬような生き物に言われたくはないわ。はっはっは」
ジジイの笑い声で、目が覚めましたとさ。

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