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Q. 次の写真はホテルの客室であるが、このホテルは古民家をリノベーションした物件である。○か×か?

格天井/金箔をあしらった和紙/漆塗りの照明の背景パネル


新築?リノベーション?


どう見ても新築に見えるので、これはひっかけだな。
と推測して「○」と答えたみなさん、正解です。

こちらは、京都の鴨川沿いに建つ古民家を改装したホテルです。
ちなみに僕が所属する会社の設計です。

それでは、次の写真はどうでしょうか?

佐原商家町ホテルNIPPONIA

こちらはわかりやすいですね。
古民家を改装した空間です。

二つの事例からわかることがあります。
それは、古い建物をリノベーションしているかどうかを判定するのに、外観や内装の見た目を頼りにすることはできない、ということです。
元の建物の部分を見せるかどうか、それは意図的に制御できるんですよね。

何をもって「建物を継承する」というのか


今日のnoteで書きたかったことは、
「新築かリノベーションかを判断する方法」ではありません。

ならば何か?

それは「建物を継承している」といえる場合、元の建物はいったい何%くらい残っていれば良いのか?というふと湧いた疑問と、それに対する答えを探ることです。


この記事のヘッダー画像は、愛媛県で進んでいる古民家リノベーションの現場写真です。

屋根瓦は全て撤去され、床版もありません。
土壁は状態の良かった一部を除き新設され、柱や梁などの構造材もシロアリや雨漏りの被害で劣化していた部分は取り替えています。

撤去した瓦は再利用ができるかどうか選別する。


このように、建物全体で見ると50%以上が刷新されている物件ですが、この話を聞いたところで「これは新築である」とは誰も感じないのではないでしょうか。
おそらく大部分の人は、元の建物を継承するリノベーションであると認めてくれると思います。

であれば、どこまで現存する要素を取り除いても良いのでしょうか。
「継承」だと認めてもらえなくなる数字の境界線はどこでしょうか?

僕は元の建物が1%残っていれば、継承できると考えています。

1%の既存建物と99%の施主の意思


冒頭のクイズで、見た目は新築だけど見えない部分で既存建物を修繕、再利用しているリノベーション物件をご紹介しました。

この物件で、仮に見えない部分のほとんど、99%の部材が新しくなっていたとしても、施主が既存建物の継承をしたい、という意思で臨んだリノベーションであればそれは言葉通りに捉えて良いと思います。(※1)

これだけの部材を新しくするのであれば、屋根の形や建物の高さから何まで、全く違った構成にすることは物理的には可能でしょう。
でも、それをやらない選択をする意思が「継承する」ということだと思います。

古民家のリノベーションは、既存部分の解体処分費がかかり、不要な部分を丁寧に除去したり、柱や梁などの構造体においては、劣化した部分を切り離して新しい材と接合し直すといった多大な手間がかかります。

人が動くほどコストが高くなる現代においては、工業化が進んだ新築よりも、職人さんの手に多くを任せるリノベーションの方がコストが高くつくことさえあります。

そんな条件が悪いプロジェクトを推し進め、建物の継承を実現するのは、既存建物の要素が多く残っているかどうかよりも、建物を残したいという施主の意思にかかっています。

1%しか既存建物が残っていなかったとしても、99%の施主の強い意思があれば、100%建物は継承できるのです。


鴨川を望むホテルの外観|改装前
鴨川を望むホテルの外観|改装後


継承は新陳代謝


人体の細胞は新陳代謝により数年で全て入れ替わるから、数年前の自分と今の自分とは別人である。という話を聞いたことがあります。

体の構成要素が更新されるだけで、脳や精神が入れ替わるわけではないから「別人になる」というのは例え話なのでしょう。(精神が個人を定義するのかどうかはまた別の話で。)

ただ、この例え話は、これまで考えてきた建物の継承の話に似ていると思いました。

元来の建物を構成していた部材の全てが、100年後に一つも残っていなかったとしたら?

確かに物質としては全く違うものになっていますが、形状や趣が記憶として保存され、今後も引き継いでいく意思を持っているのであれば、それは「同じ建物」であると言えるのではないでしょうか。

「この建物を後世に残したい」と思える建物とそれに関わる人が増えますように、希望をこめて今日のnoteを締めくくりたいと思います。

※1・・・現実的には既存建物の主要構造物の50%以上を一度に新しくするような工事は「大規模な修繕」とみなされ、建築確認申請が必要になり、設計の難易度が格段に上がります。この辺りの話は複雑で説明も一筋縄ではいかないので、また別の機会に解説したいと思います。

建築・インテリアなど空間デザインに関わる人へ有用な記事を提供できるように努めます。特に小さな組織やそういった組織に飛び込む新社会人の役に立ちたいと思っております。 この活動に共感いただける方にサポートいただけますと、とても嬉しいです。