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未経験から空間デザイナー・インテリアデザイナーを目指すには何が必要?【前編】

先日とある学生さんからXでDMが届きました。

建築学部ではないが、卒業後は空間デザインをしたい。しかし何から手をつけてよいかわからない。どうしたらよいか?」という質問でした。

この手の質問は時折もらうことがあったけど、質問者の将来を考えると安易に回答はできないし、しっかりとアドバイスしようとしたら数時間費やす必要がある。

日々の激務のなかでそんな時間はとりにくく、これまでは丁重にお茶を濁して返していました。

しかし今はこうしてnoteを週一で書くようになっていて、ネタ探しも常にしているし、何より人材不足なので将来のスタッフ候補生に向けて書いても良いな感じて筆を取りました。

読んでくれる学生さんへ
あくまでひとりのデザイナーの偏見に満ちた意見ですからね。
ご留意ください。

実務に直結したと思える、大学時代に学んだこと

いきなり結論に行かないのが僕の文章の悪い癖です。

だけど、建築を学んだことがない人に向けて書く記事なので、実際に空間デザインを生業にしている自分が、学生の時に学んだことで、実務に直結した知識にどんなものがあるかを伝えれば、何らかのとっかかりになると思うのでまずはここから始めます。

大学で学んだことで、新人時代に最も生かせたなと感じた教科を以下に挙げます。

1. 建築計画

空間のカタチは何できまるか?を総合的に学んだ教科
ちなみに当時の教科書はこちら

初版は1987年なので、今読むには内容が古くなっているかもしれませんが、
基本的な部分はそんなに変わらないはず。

学ぶ内容の概要は以下
・空間のかたちは何によって決まるか
・人間の知覚特性と行動や心理を知る
・寸法や規模について
・空間の性能


他にも色々ありますが、ここに挙げた内容には、ほうほう、と言って興味をもって聞いていた記憶があります。

当時の教科書がまだ手元にあったのでパラパラめくってみましたが、図面や写真が多いのでその道に興味があるひとなら楽しく読めるかなと思います。

2. 設計演習

「設計演習」とは建物の設計をおこなう教科のことです。

お題、例えば「人口○○人の街に建つ図書館を設計せよ」といったものが提示され、リサーチコンセプト策定などを経て図面を描きパース(透視図のこと。わからない人は検索してください)を描き模型をつくる

最終的には、成果物を先生と生徒の前に提示し、内容をプレゼンテーションし、それに対する講評を受ける(良いとこや悪いところなどの意見をもらう)
こういう一連の流れの教科です。

だいたいの学校では、一年次にプレゼンテーションに至るために必要な図面の描き方、パースの描き方、模型の作り方、を学びます。

二年次以降は、一つの課題で大体2〜3ヶ月を費やし、1年で3つほどのお題に答えるものなので、時間枠が大きくデザイナーを志す学生たちが一番力をいれる花形の教科と言えるでしょう。

この教科が重要なのは、実務でクライアントとプロジェクトの初期にやりとりする内容と、基本的に同じだからです。

リサーチする → 構想する → カタチにする → 提案する → フィードバックをもらう
このような流れをなぞっています。

実務ではフィードバックをもらった後に、案の修正や実際に建築するための詳細設計へと進みますが、その辺りはだいたい就職してから学ぶことが多いので、現時点ではスコープ外にしても良いと思います。

ここまで書いてみて、この教科が、畑違いの学生がデザイナーを独学で目指す場合の一番のハードルになるなと思いました。

なぜなら、図面の描き方、パースの描き方、模型の作り方、は独学でなんとかなるかもしれませんが、課題の出してくれる人がおらず、またプレゼン後のフィードバックが得られないからです。


「良い答えを出すには、良い問いがあってこそ」
と言われるように、課題であればなんでも良いわけではありません。

その時代や社会の状況に則していて、未来に必要とされる建物を考えるような課題でなければ、設計に取り組む意義が低く「ただ絵を描いて終わり」になりかねないからです。

ここで重要な気付きがひとつあります。

「未来に必要とされる建物」がどんなものであるか、これを自分の頭で考えることができたとしましょう。
それをいろんな人に提示した時の反応が「確かに、それは必要だ!」というものならば、ある意味設計が「できる」素質があると言えることです。


建築家やデザイナーという職能は、リクエストされたものをそのままつくるのではなく、そこに課題を見出し、カタチとともに解決することだ、と理解してもらえると、心構えが変わってくるのではないでしょうか。

3. アプリケーション操作

僕が大学生だった20数年前では、まだCADの授業は必須ではなく、手描きで図面を描くことが主流でした。

そんな時代なので、プレゼンテーションについても基本的に手描きでした。
グラフィカルな表現をしたい人は、A1のケント紙に写真や雑誌等のコピーを貼り付けていたような時代です。

しかし、世の中にはパソコンが普及しはじめており、デザイン会社はMacを使ってCADで図を描き、3DCGソフトでパースを描き、グラフィックソフトをつかってプレゼンテーションボードをつくる、そんな行為があたりまえになりつつある時代でした。

そのような状況であることを知った僕は、独学でこれらのアプリケーションを学びました。

アプリケーションの普及が一般的ではない時代に、先輩方と同じくらいのスキルを身につけていたことは、採用の一因になったと思います。

なので、目指す業界でこれから隆盛していきそうな技術を少し先回りして習得できれば、独学者がその道に進む一助になるかもしれません。

現代だとやはりAIの存在は大きいですね。
リサーチやコンセプト策定には補助的にChatGPTを使うでしょうし、3DCGを使ったパースには画像生成AIの技術が生かされます。

少し話がそれますが、空間デザイナーとして個人で仕事をするのか、空間デザイン「も」おこなうデザインファームのような会社ではたらきたいのか、この違いによって学んでおくべきことも変わってくると思います。

前者であれば、設計に関わることから日々の雑務までの業務全般に長けたゼネラリストになることを求められますが、後者の場合はチーム全体の中で、ある役割を専門として担うことが求めらます。

「空間デザイン業界にどのような形でも良いから関わりたい」という意図がある場合、後者のような会社を探すのも一つの手だと思います。

例として、最近仕事でご一緒した会社を紹介しておきます。


なお、先に挙げたアプリケーションは、たとえAIが今後発展したとしても、当面の間は実務に必須なものなので、習得すべき最優先の内容です。

CAD・・・PC上で図面を描くソフト。3Dのモデリングもできる。(というよりする必要がある) Revit/Archicad/Autocad/Vectorworksあたりを使っている会社が多い

3DCGソフト・・・PC上でモデルをつくり、素材を貼り、照明などの環境を設定して仮想空間で建物を立ち上げ、絵をつくるソフト。近年はモデルをつくる作業とそれ以降でソフトを分ける方法が一般的になってきている。
モデリングにはCADで挙げたソフトの他に、Rhinoceros、SketchUpを使用する人が多いイメージ。
素材貼り〜以降に使われるのは、LUMION、TwinMotion、V-ray、など。

グラフィックソフト・・・画像を作成、加工、合成、配置するソフト。主にプレゼンテーションをつくるために使用する。
王道はAdobe(アドビ)の製品。Adobe Photoshop、Adobe Illustratorは必須。

あと、忘れてはなりませんが、エクセル、ワード、パワポ、は普通に使えないと仕事になりませんので、こちらも習得する必要があります。

後編につづきます

長くなったので続きは別の記事にします。
後編では、設計者を採用する立場の人は「どのようなところを見ているのか」を紹介します。

独学者であっても採用の可能性があるとすれば、どのようなことができている人になるのだろうか?という視点で書いてみたいと思います。

空間デザイナーを目指す人、あるいは就職ホヤホヤの新人さんに向けた記事をまとめたマガジンがあります。
よければこちらもどうぞ。



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