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凱旋英雄

遥か高く遠き階梯。
その彼方に座すは至高の存在、認識すること能わざる八柱のオルドレス。その光は遍く万物を照らし、限りなき恩寵を世界にもたらす。

しかし光差すところ闇もまた存在する。

遥か遠く昏き深淵。
その禍々しき混沌に微睡むのはブルピトス。それは真の意味での暗黒。そしてこの世界の造物主である。

ドゥルクは決死の剣を振るった。周囲は全き闇。オルドレスの恩寵たるアルダの力が体から失われていく。襲い来る深淵の者達の思念が言葉を介さず流れ込んでくる。

((お…堕ちた我らの同胞どほ…よ…))

闇の中、剣を振るう視線の先に幻が浮かんでは消える。盟友モーザ。ソフィアとの恋。腐土竜戦争。凱旋。栄光。数刻前までそれがドゥルクの現実であった。

「ソフィアは俺の女にすると決めた。だから」

すまなそうに笑うモーザ。

「お前を深淵に追放する」

その幻を振り払うようにドゥルクは剣を掲げ、叫んだ。アルダが渦巻き、剣がその姿を変えていく。

【「深淵の王女」に続く】

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