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【受賞者インタビュー】クレイジーなクリエイター集団⁉ “和風サイバーパンク”ゲーム『浮世/Ukiyo』の開発メンバーに話を聞いてみた!

「これはフィギュア化してほしい!」。そう思わせる個性的なキャラクターを採用したストーリードリブンのアドベンチャーゲーム『浮世/Ukiyo』。ゲームの世界に入り込んでしまった主人公であるサムライネコのカイ、そしてフレンドたち。彼らの舞台となり、ゲームを象徴するのが「UKIYO」と呼ばれる“和風サイバーパンク”空間のグラフィックだ。

昨年開催されたインディーゲームの祭典「BitSummit THE 8th BIT」では、そのグラフィックが高く評価され「VISUAL EXCELLENCE」を受賞。さらに「集英社ゲームクリエイターズCAMP 賞」も獲得。このダブル受賞により一躍、世界中から注目されるタイトルとなった。

集英社ゲームクリエイターズCAMP 『浮世』プロデューサーの小島英士は、受賞理由をこう説明する。

「イベント当日、受賞タイトルの選考をしていたとき、まず思ったのは“このクリエイターたち、クレイジーだ!”。もちろん良い意味で(笑)。自分はもともと美術系出身でいろいろなアートに触れてきましたけど、それでも彼らの生み出したキャラクター、そして和風サイバーパンクの世界観は新鮮だった。“この作品を支援して世界中のユーザーに届けたい”。これは集英社ゲームクリエイターズCAMPメンバー一同の思いで、満場一致での選出となりました。結果的に、集英社ゲームクリエイターズCAMP として『浮世』を支援できることが決まって本当にうれしいです。」

>>『浮世/Ukiyo』タイトル情報

集英社ゲームクリエイターズCAMPは、ゲームプロデューサー、アナリスト、プロモーション担当などなど、ゲームに関わるプロ集団。そんな彼らが全員一致で選出したという『浮世』。キャラクターや和風サイバーパンクの世界観をデザインした「フリーキーデザイン」代表の高田春樹さん。そしてゲームシステムの制作を担当する「シーノットスタジオ」代表の久井亨さん。鎌倉にあるフリーキーデザインのオフィスにて、『浮世』のクリエイターチームの代表としておふたりにお話を伺ってみました!

左から「シーノットスタジオ」代表 久井亨さん、「フリーキーデザイン」代表 高田春樹さん

――「BitSummit THE 8th BIT」でのダブル受賞。さらに「INDIE Live Expo Winter 2021」では集英社ゲームクリエイターズCAMPからの支援が発表されました。ダブル受賞で作品への注目度が高まるなか、ゲーム作りに変化はありましたか?

久井亨
やはり緊張感が高まっています。スケジュールが明確になったこと。これが大きいですね。

高田春樹
うちは自社でゲームを開発するのは初めての試みになります。集英社ゲームクリエイターズCAMPの支援が決定してからは、ゲームのプロたちにサポートしてもらって、受賞した喜びと同時にとても良い意味での緊張感があります。初心者あるあるの緊張感ですね。

――集英社ゲームクリエイターズCAMPはどのような支援を?

高田春樹
例えば、プロのシナリオライターさんのアドバイスで「映画とゲームのシナリオはまったく違います」と仰ってくれる。キャラクターのモーションについても「こんな動かし方もありますよ」と、アイデアを提案してもらえます。

煙ひとつ動かすにしても、提案されたアイデアをきっかけにして「こんな動かし方もあったんだ!」と納得することがあります。こういった部分をプロのアニメーターさんのアシストによって効率アップできます。

あとは、開発に必要な資金を全面的に提供していただいているのもありがたいです。今までうちは通常のデザインの仕事をやりながら、空いた時間に『浮世』の開発をやってたんですが、集英社ゲームクリエイターズCAMPの支援金で多くのスタッフが『浮世』の開発に専念できるようになりました。

――『浮世』は「BitSummitTHE 8th BIT」で授賞したデモ版をプレイするだけでも、彼らクリエイターが表現したい和風サイバーパンクの世界観を十分に体験できる内容になっている。このデモ版でこだわった部分とは?

久井亨
デモ版は制作時間が限られていたので、僕がノリでいろいろ詰め込んだ部分が多いですね(笑)。ただ、なるべくプレイヤーさんが最後まで遊べるような調整を心がけました。

――『浮世』には和風カルチャーを感じさせる部分も多い。世界観に干支を取り入れた理由とは?

高田春樹
もともと“世界のマーケットでプレイしてほしい”という狙いがあって、干支はワールドワイドで通用するネタだと考えています。もちろんビジュアル的に伝わりやすい部分もあります。

――そしてスニーカーやフィギュアなど、サブカルチャーもふんだんに散りばめられているのも特徴だ。これは高田さんたちフリーキーデザインの趣味嗜好も反映されているのだろうか?

高田春樹
結局、自分たちクリエイターが作るものなので、「僕らは、こういう人たちなんだよ」という部分は出していかなきゃと思っています。そうやって、作品のファンになったユーザーがいると、次の作品につながっていくのではと考えています。自社で作るタイトルだからこそ、そういった面も強調したいですね。

『浮世/Ukiyo』主人公、サムライネコのカイ
「フリーキーデザイン」のオフィスには様々なフィギュアやグッズが立ち並んでおり、クリエイターとしての趣味嗜好が垣間見える。

――では、ゲームシステムの制作を担当する久井亨さんが『浮世』に入れていきたい要素は?

久井亨
『State of Mind』というドイツの3Dアドベンチャーゲームがありまして、コントローラーでキャラクターを操作し、会話をして謎を解きゲームを進行していく。このスタイルの作品はヨーロッパやアメリカではけっこうあって、それのお手本的なタイトルが『State of Mind』なんです。

そういった作品を自分でも作りたいなと思ってはじめたのが『浮世』です。

――日本発のストーリードリブンのアドベンチャーを目指している『浮世』。しかし、高田さん、久井さんの好きなゲームの方向性はまったく違うという。

高田春樹
僕は、もう『モンスターハンター』シリーズですよ。それこそ、一番最初のからやってて、まさに今のフリーキーデザインの立ち上げメンバーと狂ったようにプレイしていました。他のメンバーが飽きても僕だけ続編を次々プレイしていましたね。

久井亨
僕は『Undertale』や『MOTHER』シリーズです。僕ら、まったく好きなゲームの方向が違うんですよね(笑)。

高田春樹
ただ、僕が“おもしろい!”と思ってやっているゲームって、すごく複雑だし規模も大きい。いまの規模感だとシナリオメインで、そこにフリーキーデザインのイラストがフィットするのがベストなんですよ。

久井亨
僕が作りたいのはシンプルなストーリードリブンのアドベンチャー。そこにフリーキーデザインのイラストが乗ってくるのは、すごくいい感じだと思っています。

高田春樹
僕、久井さんと知り合ってからはストーリードリブンのゲームを多くやってますよ。これ、しっかりシナリオがあればビジュアルなんかしょぼくても本当におもしろい。あ!? こーいうこと言うと「フリーキーデザインいらないじゃん」ってなっちゃうか(笑)。

久井亨
僕は高田さんと知り合ってからも相変わらずアクションゲームは苦手です(笑)。

――そんな、おふたりの率いる会社が共同でゲーム制作を行なうきっかけとは?

久井亨
僕がゲームを本格的に作りたいと思っていたとき、まず相談したのが20年ぐらい前に同僚だったデザイナーさん。その彼が働いているのが、フリーキーデザインさんだったんです。

最初は個人で作ろうと思っていたら、ありがたいことにフリーキーさんががっつり入ってきてくれました。

高田春樹
うちとしては世界観やビジュアルを全部任してほしかった。久井さんはそれを了承してくれて、一緒にやることになったんです。そして、キャラクターなどのデザインを仕上げていったのですが実は、初期はまったく違うデザインだったんです。

もっと浮世絵っぽくて色もモノトーンのかわいい系のキャラクターだった。動物ってことは変わらないけど、まったく違うデザインでした。

変更前のコンセプトアート。今とは全く違う印象を受ける。

――そこまで仕上げたデザインをガラッと変更した理由とは?

高田春樹
かわいい系より、ある程度年齢がいった男性が見ても「かっこいいじゃん!」と感じるイラストにしたかったんです。背景のグラフィックもキャラクターに併せて、よりサイバーチックな都市的なものに仕上げ直しました。

久井亨
それこそ初期デザインと同じの部分は“ネコがいる”って部分ぐらいでしたよね。

開発現場の壁には様々なコンセプトアートが。

――そのガラッと変わったデザインを見た久井さんの感想は?

久井亨
ヤバいなー!って。もちろん良い意味で!! 今まで見たこと無いような大都市に、干支の動物たちのキャラクターがいる。和風の部分もあるけど、バーチャルリアリティーのサイバー空間。この、どこか東京に似ているカオスな空間を、すごく良いと思いました。

高田春樹
僕も含めたうちのスタッフは、渋谷にある学校に通ってて、その当時の雰囲気を反映したいなっていうのはありますね。

――今後、おふたりが『浮世』を制作するにあたり、こだわりたい部分は?

高田春樹
まずシナリオです。この部分でどれだけプレイヤーさんに共感してもらえるか。そしてビジュアル。唯一無二でプレイヤーさんに「もっと見たい!」と感じてもらえること。このふたつの部分を良くするために、“正しいことを選択する”判断を自分たちでしていければと思っています。

久井亨
技術的な面だと、ゲームを買ってくれた人の多くが最後までたどり着けること。ここはストーリーテーリングをうまく調整し、おせっかいにならないようなヒントを出せる仕組みを考えていきたい。

でも、【ノートを開くと次の行き先が表示される】みたいなヒントが常に出ているのも嫌なんですよ。プレイヤーさんが自分で操作してストレスなく最後までたどり着ける、そこにこだわりたいですね。

――おふたりにとって集英社ゲームクリエイターズCAMPの活動は、どのような存在なのでしょうか?

高田春樹
去年の10月から12月にかけて僕らフリーキーデザインと、久井さんのシーノットスタジオさん。そして集英社ゲームクリエイターズCAMPのサポートメンバーの皆さんと頻繁にミーティングやチャットでの情報交換をしました。そこで、『浮世』の今後の道筋を決定することができました。これ、僕たちだけでやっていたら、なかなか決まらなかったと思います。

久井亨
シナリオライターさんも参加して具体的なアドバイスをもらって、僕ら的にも「なるほどな!」と思うことが多かったですね。集英社ゲームクリエイターズCAMPのサポートメンバーが入ってきてから、これまではバラバラに動きがちなところが、ひとつにまとまった印象があります。それこそ、半年分の作業を3ヶ月でやりきれました。

――では最後におふたりに聞きます。『浮世』はどんなタイトルに仕上げていきたいですか?

久井亨
独立して会社を設立して初のタイトルが『浮世』です。なので「まず完成させて成功する」というビジネス的な野心がありますね。あとは、僕自身が『State of Mind』のようなアドベンチャーが好きなので、そういったタイトルのファンにも『浮世』が受け入れられるようにしたい。いろいろな国の言葉に翻訳して、グローバルで売れたいですね。

高田春樹
サブカルチャーで育った人が「いいよね」と共感してくれること。それだけでなく、サブカルチャーを知らない若い世代や年配の世代にも「いいよね」と惚れ込んでほしい。そうして、フリーキーデザインの作るものがブランド化するのが一番大きいかなと思っています。

――「BitSummit THE 8th BIT」でのダブル受賞で一躍注目されることになった『浮世』。彼らクリエイターが生み出す個性的なキャラクターたち、そして和風サイバーパンクの世界観。日本発のストーリードリブンのアドベンチャーゲームに期待しかありません!

【上段左から】「フリーキーデザイン」土澤準平、角井康隆、高田春樹、「集英社ゲームクリエイターズCAMP」小島英士
【下段左から】「シーノットスタジオ」久井亨、『浮世』主人公・カイ、「フリーキーデザイン」岡崎裕彦、石坂尚喜(敬称略)

取材場所:フリーキーデザイン