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いつかの日記

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人生で出会った男の話
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記事一覧

彼氏がリストカットしていた時の話

自殺した芸能人のニュースで、ひさびさにリストカットの画像を見た。それでむかし付き合っていた男の子のことを思い出した。彼もリストカットをしていた。あまり人に話したことはないけど、その時のことを書いてみたい。 ・リストカットの描写があります。 ・リストカットを否定するものでも、肯定するものでもありません。 ・ただの思い出話ですが、あまりに「現実」すぎて恥なので、一部有料にしました。有料部分は約5200文字/6700文字です。よろしければ暇つぶしにでもどうぞ。 彼氏がリストカッ

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デートをタバコで休憩すんな

タブチさんについて知っていることは少ない。美大出身。メカの絵がうまい。弟がいる。煙草を吸う。なんの仕事をしているのかはよくわからない。 タブチさんとはTwitterで知り合った。当時わたしは女子高生で、タブチさんは怪しい社会人(推定)だった。過去に書いた日記によると、彼とはじめてリプライ以上のコンタクトを取ったのは電話らしい。わたしはそのことをまったく覚えていないが、過去のわたしはこのように述べている。 ーーー 今、大丈夫やった? 急にごめんなぁ。関西っぽい訛りだった。

いちばん素敵なデートの話

人生とは不思議なもので、わたしは中学も卒業して何年か経ってから、S先輩の元彼と一度だけデートしたことがある。 その元彼・亮さんとは本当にたまたま偶然知り合ったのだが、これまた偶然その日はわたしの誕生日だったので、別れ際に連絡先を書いた紙とメルティーキスが入ったコンビニの袋をプレゼントにもらった。「ちゃんと教えてくれたら、もっといいの用意したのに」と言って冗談ぽく笑った。亮さんはやっぱり想像していた通りの美男子だった。いかにも、きれい、という顔立ちで、インタビューを受けている

「無題」の男の子の話

初めて会った時に「下の名前、呼び捨てにしていいよ」と言ってくれたのをよく覚えている。よろしくね、と笑った顔はこれまでゆうに50人くらいの女の子を殺していそうな爽やかさだった。色白で背が高く、さらさらの黒い髪の毛、長いまつ毛、二重の目、すっと通った鼻筋、うすい口唇、きれいな歯並び。彼はわたしが今までに出会った中で、いちばん「イケメン」な男の子だった。当時わたしは付き合っているひとがいたために、彼を恋愛対象として見ていたわけではない。それでも気を抜くとほんとうに好きになってしまい

「推しメン」にしていたひとの話

推しメンだれと聞かれて佐藤さんと答えたのだが、特に深い意味はなくて、ただいちばん塩顔で、ちょっと背が高かったからだ。わたしは薄い顔のひとが好きだ。目が一重で、色白で、黒髪のひとが特に好きだ。できれば肩幅のある華奢な人間だともっと良い。 ギャルの先輩は、えーせなさんってB専っスねと言って笑った。そんなことないです高良健吾さんとか市原隼人さんも好きなんでと言いたかったけど、めんどくさかったのでへらへらして流した。 佐藤さんは、陽キャが社会人になった拍子にすっ転んで鬱になっ

春風の向こう

わけのわからない男とわけのわからない別れ方をしていたずらに精神を磨耗させていたわたしは、とにかく早く新しい彼氏が欲しかった。大野くんに声をかけたのはそんなときで、たまたま知り合ってちょっと良いな♡と思っていたからもっと仲良くなりたかったのだ。 今でも覚えている初めて待ち合わせをしたのは渋谷駅の京王井の頭線改札で、わたしはチャットモンチーを聴いていた。大野くんは1時間遅刻してきた。初デートに1時間も遅れてくるなんてずいぶんな度胸だと思うが、今となっては彼らしい気もする(ものす

いちばんになりたかった男の子の話

木田くんと付き合うことにしたのは、その時付き合っていたちゃらんぽらんな男の子に疲弊していて、木田くんのほうが優しそうに見えたから。そして木田くんはわたしのことが好き風だったから。彼氏と別れたと言うと、待っていたかのように木田くんは「じゃあ俺と付き合おう」と言った。わたしはいいよと答えた。木田くんは念願叶ったりという顔をしていた。わたしはこれで心の安寧が手に入ると思っていた。 木田くんと付き合うことになって、わたしはたしかに理想を得た。デートをドタキャンしたりしなくて、他の女

存在の輪郭だけを覚えている男の子の話

彼のことはもう顔もうまく思い出せない。 そのころわたしはギターを弾いていた。予約していたスタジオに入ると、前にそこを使っていた男の子が出てきて、わたしと入れ違いになる。わたしが挨拶すると、男の子も挨拶した。背が高くて、ひょろりとした、たぶん同い年くらいの男の子だった。男の子もギターケースを背負っていた。 わたしは扉を閉める。チューニングをする。ポーン……。ポーン……。音をたしかめていると、急にガチャリと扉が開いた。驚いて見るとさっきの男の子が立っていた。「あの、これ」男

カネゴンの話

カネゴンは、隣の中学に通うひとつ年上の先輩だった。わたしはカネゴンと同じ部活をしていたので、練習試合やら合同練習やらでなんとなく知り合い、なんとなく仲良くなった。カネゴンは部活の練習に、いつもママチャリで来ていた。カネゴンのことを思い出す時、わたしの記憶の中のカネゴンは、いつもママチャリを引いている。わたしはその横をてくてく歩く。 カネゴンは背が高くて、ちょっとぽっちゃりしていて、クマみたいな感じの男の子だった。「カネゴン」というあだ名がめちゃくちゃしっくりきていた。優しい

初恋と先輩の話

中学生になったわたしははじめて先輩という存在に出会った。 たとえば小さい頃から野球やサッカー、バスケなんかをやっていたひとならまた違うのかもしれないが、特に習い事もせず、家に引きこもっては絵を描き本を読み、きわめて陰気な小学生時代を過ごしたわたしは、中学生になって入った部活ではじめて上級生との関わりを持った。部活をこなしテストをこなしスカートの短い「先輩」たちは、とても大人びて見えた。 スポ根マンガにハマるあまり(少年マガジンに夢中な小学生女子だった)、ドのつく運動音痴の

前世で兄妹だったひとの話

中学生のころ、彼氏みたいに仲良くしている男の子がいた。 毎日のように一緒にいて、いろんなところに出かけた。マックにゲーセン、カラオケ、本屋さん、映画も何度か観たっけな。趣味もフィーリングも合う男の子だったから、何をしていても楽しかった。わたしはときどき、彼と一緒に歌いながら歩いた薄暗い冬の帰り道のことを思い出す。わたしは彼の、低くて優しい声が好きだった。彼に教えてもらった歌のいくつかを、わたしは今でもときどき口ずさむ。 そういえば電話もよくした。当時はまだ自分の携帯がなか